西加奈子さんのデビュー作「あおい」
短編というか中編というボリュームで、サクサク読める純文学。
二股恋愛、妊娠、アルバイトのバックレなど、描かれている出来事も盛りだくさんで、飽きる暇もない。
内容紹介(Amazonより)
26才スナック勤務の「あたし」と、おなかに「俺の国」地図を彫っている4才年下のダメ系学生風間くんと、ペット亀の「バタ」のほわほわ脱力気味の同棲生活から一転、あたしはリセットボタンを押すように、気がつけばひとり深夜長野の森にいた。人っ子一人いない、真っ暗闇の世界のなかで、自分のちっぽけな存在を消そうと幽体離脱を試みたり、すべてと対峙するかのように大の字になって寝っころんだりしていたあたしの目に、ふと飛び込んできたうす青色の野生の花。その瞬間、彼女のなかでなにかが氷解した――。ゆるゆるなのにギリギリなデイズ。そこで見つけた、ちっぽけな奇蹟。あんたのことが好きすぎるのよ。 今世紀の女子文学に愛の一閃を穿つデビュー作。
若い女性が主人公のいわゆる青春文学にカテゴライズされる内容。
おもしろくてスルスルと一気読みだった。読後感もいい。
会話は関西弁で書かれてる。関西弁だと純文学の雰囲気が出なそうな気がするけど、そこはさすがの西加奈子さん。雰囲気アリアリ。
そしておもしろいのは、文章にカッコ:()を使いまくってるところ。
みいちゃんが学校の帰り、あぜ道(あたしはあぜ道がどんなものか分からないけど、みいちゃんがそう言った)を歩いていると、〜
〜それはやせっぽっちだったみいちゃんに(昔のクラス写真を見せてもらったけど、一番細くて可愛い子を探せば、それがみいちゃんだった)、少し遅い生理が始まった頃だった。
「続けて行く自信がありません云々。」(そういうとこあたしは、妙に真面目。手紙だって、前略からはじまるものだ)部屋の女の子が、今日入るはずのあたしがいないことに気付いて、ビーンに言ってるかもしれない。
見開き1ページの中にこのように3つも使われてる。他にもたくさん使われていて、文学作品でこれだけカッコを使っているのは珍しいと思う。
☆ ☆ ☆
この本のテーマは"青春"で、若者(女性)の不安定さが生き生きと感じられる。
ぼくが惹かれた文章をご紹介。
〜すごく投げやりな気分で、思わぬ方向に走る。矛盾しているけど、つまり理性的な判断を、わざとしなくなるのだ。
そういゆうときは、許してほしい、ごめんなさい、という感情が全く起こらない。まったく逆で、こんなことをしてしまうあたしをどうか許さないでください、と思う。あたしに関わる全ての人に対して、この人は何も悪くないと思っていたい。だってあたしがこんなに馬鹿なのだもの。涙を流したお母さんも、優しい友達も、偶然会った男の子も、誰も悪くない。
すごく共感できる。迷惑をかけることをわざわざしてしまって、口では謝ってるんだけど心では"どうか許さないでください"と思う。なんという矛盾…
大の字を崩すのが面倒で、いっそのこと大きなトラックでも通って、あたしを轢いてくれたら、と思った。サラサラと消えることは無いだろうけど、この体をぐちゃぐちゃにしてくれたら楽なのに。なんて、トラックの音が聞こえたら、どうせ大急ぎで草むらに逃げるんだ、あたしは。はは、かっこ悪い。
これなんか、ぼくは今でもよく感じる内容だ。これに共感できるぼくは大人になりきれてないってことか…
数行の文章では表現しきれない人間の不安定さを、小説という形を使ってアリアリと感じさせてくれる作品だ。
テーマは恋愛ではない(とぼくは思う)けど、描かれてる大部分は恋愛がらみなので、恋愛小説が好きな方にもオススメできる。
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