日本におけるノーマライゼーション社会の実現には超えなければいけない壁が存在します。ノーマライゼーションは、デンマークのバンクミケルセン(1919〜1990)によって提唱された概念です。「障害者と健常者とは、お互いが特別に区別されることなく、社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿である」とする考え方です。
この概念は全世界に普及して、国際障害者年(1981年)のテーマである「完全参加と平等」とした国連決議へとつながり、いまでは社会福祉における基本的な考え方として理解されています。今回は、実際に活動に取組んでいる現役大学生の堂本哲代さん(法政大学文学部英文学科在学中)に話を伺いました。
●どのような活動に参加しているのか
---活動の内容と役割について教えてください。
堂本哲代(以下、堂本) 障害者支援団体であるアスカ王国(橋本久美子氏・橋本龍太郎元首相夫人)が運営する活動に参加しています。今回のイベントでは「本部リーダー」として参加しました。グループの取りまとめ、誘導や計画立案などやることは多岐にわたります。全体を見渡しながらマンパワーが足りていないグループに補助をおこなったり、自分自身がヘルプにはいるなどして運営が潤滑にまわる役割を担いました。
今回のイベントには初めて障害者支援をおこなう学生も参加していました。ノーマライゼーションを実践するにはお互いの信頼関係の構築が不可欠です。初対面であっても相互に信頼関係を構築することで、自然体で接することができるからです。一方、活動をしながらも学生の意識に温度差があることも実感しました。例えば、活動に参加していて「〜してあげる」「〜やってあげる」という誤った視点から障害者支援をおこなう学生がいることが気がかりでした。
障害者支援の本質は、障害者を弱者として支援することではないように思います。上から目線ではなく彼らの自立を促しながら、厳しくも優しく対峙しなければいまの障害者を取り巻く環境が変わることはありません。
人と人が助け合うことは当然であり、障害のある人にとって障害となるものを作り出しているのは私たちなのです。私たち健常者の生活に合った形で社会のあらゆるものが形成されています。マジョリティにとっての利便性を追求した結果、マイノリティにとって生きづらい社会となってしまっています。マイノリティにとっての障壁をすぐに取り除くことは出来ませんが、正しい理解を学習できる場が必要ではないかと感じました。
●間違った障害者支援の意識を正したい
---いまの障害者支援の実情をどのように思いますか。
堂本 日本では、特別支援学級などで障害者と健常者を明確に分離させている点で、教育者はグレーゾーンの子供たちへの対応に苦戦しているように感じます。教育現場が苦戦を強いられることで障害者支援に抑制をかけてしまうのは本末転倒ではないかと思います。
以前、乙武洋匡さんが「24時間テレビを放送するのと、パラリンピックを24時間放送するのと、どちらが障害者理解が進むのか」と問題提起をしていましたが、多くの方が当事者意識を持つことは重要です。メディアなどでもっと障害者関係のこと(パラリンピックやチャリティー呼びかけなど)を発信していってほしいと思います。
今回、障害者との交流を深める活動は意義のあるものでした。一方で、いまの社会は彼らにとって生きづらいものになっています。偏見は誰もがもちうる意識なのでそれ自体の否定はできません。しかし、実態を知る人が多ければ多いほど偏見などの社会的障壁は薄れていくはずです。
今後は、障害者の自立を促すために、可能な限り自分一人で出来るように、様々なバリアフリー化やユニバーサルデザインを採用する施設などが増えると好ましいと思います。「お世話をしてあげる」「何かを助けてあげる」という意識ではなく、お互いに未来の共生の道を歩むために、双方が学び意識を高めていく機会が増えればと思います。
---ありがとうございました。
1972年に米国ペンシルバニア州裁判所は「障害の如何を問わず、すべての子供はその能力に応じて教育を受ける権利を有する」(PARC判決)と宣言しています。これは、差別的な教育に対して是正を求めたものであり教育のダンピング(教育の放棄)を招く危険性があることへの警告です。
内閣府の平成26年度障害者雇用状況によれば日本における障害者数は、身体障害者366.3万人(人口千人当たり29人)、知的障害者54.7万人(同4人)、精神障害者320.1万人(同25人)であり、国民の6%が何らかの障害を有するとしています。障害者政策は私たちにとって喫緊の課題でもあるのです。
尾藤克之
経営コンサルタント/ジャーナリスト