2016-01-02
■江戸川乱歩「二銭銅貨」と点字とビブリア古書堂
江戸川乱歩の著作権保護期間が切れ、青空文庫でも「二銭銅貨」が公開された。
http://www.aozora.gr.jp/cards/001779/card56647.html
底本の底本は1931年の平凡社版全集とのことだが、点字については、そのままではあるまい*1。
青空文庫の点字部分は、画像になっていて、直接表示させると次の通り。
うわづら文庫では、
http://d.hatena.ne.jp/kuzan/20151210/1449496873
にも書いたように、『別冊宝石』56(9-5 1956.6)掲載の、村上松次郎画(1962年歿)の入ったものを載せた。
https://app.box.com/s/rpj7xp5hylutlpn7h9zkl05jk5vimcwr
こちらがオリジナルに準じていると思われる、訂正前の形である。
この訂正は拗音の扱いが修正されたものである。乱歩が、当初、拗音を表記するのに、
としていたもの*3を、
と、あるべき形に訂正したものである。
しかし、
○○ ○● ○○ | ○● ●○ ○● | ●● ●○ ○● | ○○ ○● ●● | ○● ○○ ○○ | ○● ●● ○● | ○○ ●● ○○ |
濁音符 | ゴ | ケ | ン | チ | ヨ | ー |
と、チとヨとの間、シとヨとの間に線が入っているのはおかしいし、誤解を招く。
(清)拗音符*4 + ト = チョ
(清)拗音符 + ソ = ショ
であって、
○○ ○● ○○ | ○● ●○ ○● | ●● ●○ ○● | ○○ ○● ●● | ○● ○○ ○○ | ○● ●● ○● | ○○ ●● ○○ |
濁音符 | コ | ケ | ン | 拗音符 | ト | 長音符 |
ゴ | ケ | ン | チョ | ー |
という具合でなければならないのである。
「二銭銅貨」は、新潮文庫の『日本文学 百年の名作1夢見る部屋』(2014.9)
日本文学100年の名作第1巻1914-1923 夢見る部屋 (新潮文庫)
- 作者: 池内紀,松田哲夫,川本三郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/08/28
- メディア: 文庫
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にも収録されている。
こちらは、
という、新たな異文となっている。改訂後の形を校正する際に、点字対応表を理解しないまま見て、さかしらな修正をしたのではなかろうか。(旧式から拗音符を抜いた形だが、改訂方式からの修正と考えた方がよいだろう。)
「二銭銅貨」自身が、「按摩を呼んできて伝授にあずかった」と書いてあるぐらいだが、訂正する際には、点字の仕組みを分かった上でやってほいしものである。『百年の名作』だけではなく、この点字については誤りが目につく。大衆文学大系でも、「拗音符」とあるべきところを「濁音符」にしてる箇所があったりしました。
さて、wikipediaの「二銭銅貨」の項にも言及されるように、三上延「ビブリア古書堂の事件帖4」(isbn:4048914278)に、この拗音に関わる、乱歩の点訳の誤りが取り上げられている。
以下、ネタバレを含みます。
当初、解読できなかった点字を、乱歩が誤った形に従って解読すれば解読できるというものであった。当初解読できなかったというのが、
●○ ●○ ●● |
●○ ●● ○● |
○● ○○ ○○ |
○● ○● ●○ |
●● ○○ ○○ |
●● ●○ ○○ |
○○ ○● ○○ |
●○ ●● ○● |
●○ ○● ●● |
ひ | し | ? | ? | う | え | じ | ま |
で、実はこれが、
●○ ●○ ●● |
●○ ●● ○● |
○● ○○ ○○ |
○● ○● ●○ |
●● ○○ ○○ |
●● ●○ ○○ |
○○ ○● ○○ |
●○ ●● ○● |
●○ ○● ●● |
ひ | し | 拗音符 | よ | う | え | じ | ま |
だったという話である。
まず、「二銭銅貨」に出て来る、
の対応だけから解こうとした場合を考えよう。出現しているのは、
*いう*お
かきくけこ
さし*** * * しょ
た*つてと ちゃ * ちょ
なに**の
は****
****も
や * *
らり*れ*
* を
んー
なので、ここに見えない「ひ」「え」「ま」は解けず、
●○ ●○ ●● |
●○ ●● ○● |
○● ○○ ○○ |
○● ○● ●○ |
●● ○○ ○○ |
●● ●○ ○○ |
○○ ○● ○○ |
●○ ●● ○● |
●○ ○● ●● |
? | し | ? | ? | う | ? | じ | ? |
となりそうである。
一方、点字の一覧表を別途入手して解こうとしたら、
●○ ●○ ●● |
●○ ●● ○● |
○● ○○ ○○ |
○● ○● ●○ |
●● ○○ ○○ |
●● ●○ ○○ |
○○ ○● ○○ |
●○ ●● ○● |
●○ ○● ●● |
ひ | し | 拗音符 | よ | う | え | じ | ま |
とは解けるはずで、その上で、「拗音符+よ」の解釈を考えねばならない、ということになったと思われるからである。
ただ、「二銭銅貨」の対応表と、点字の構成規則を知っていたら、上記のような感じに解けなくもないかも知れない。
その規則というのは、点字は、左上3つが母音を表し、右下の3つが子音を表す、という仕組みに、だいたいなっているということである。
母音
●●
●●
●●
子音
私自身はこの決まりがあることを知った時(大学生の時か)、手近に点字の一覧表が見当たらず、本棚から「二銭銅貨」の入った春陽文庫の『江戸川乱歩名作集7』を探して、その決まりを書き出そうとしたものである。注に引用した画像が汚れているのは、その時の書き込みによるものだ。
それはさておき、決まりがあると分かれば、「は」があって「いきしに」があるので「ひ」が分かり、「も」があって「かさたなは」があるので「ま」が分かり、「いうお」があって「けて」があるので「え」が分かる。ヤ行については、ヤ行子音+ア行母音となってないので分かりにくいのも確かである。ただし、「しょ・ちゃ・ちょ」の前半部に出て来る、
○●
○○
○○
が、「?」というのが、依然、不思議である。
しかし、他人は意外なことが分かり、意外なことが分からないものであるから、まあ、そういうこともあるのだろう。
「江島日生」なのに「ひしょーえじま」でなく、「ひしょうえじま」なのも(「秘書上島」と読んでしまう)、これがアナグラムであることを暗示しているのかも知れないし、まあ、そういうこともあるだろうか。
「二銭銅貨」の話に戻る
なお、「二銭銅貨」の話に戻ると、改訂されたものでも、「ウケトリニンノナハ」となっていて、ハのところにハの点字が入っているが、これは、点字ではワでなければならないところである。「〜を」には「ヲ」の点字があるが、「〜は」には「ワ」の点字を使い、「〜へ」には「エ」の点字を使うことになっている。これも、まあ、そのように間違えて使う人もいるから……、ということであれば、まあ、仕方ない。
点字部分の校正が不完全でも、「二銭銅貨」の筋を追う上では大した問題は生じないけれども、「二銭銅貨」を読んで点字の仕組みに興味を持ったりする人もいるのだから、やはりしっかりと作って欲しい。
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