ちょっと「しゃくに障る」話から始めたいと思う。
ソウル・城北洞にある高級韓国料理レストランに行ってきた。どれだけ高いかというと、値段を聞いた人が皆「あり得ない!」と言うほどだ。何人かは突っ掛かるような口調で聞いてきた。「あっそう、さぞかしおいしかったんでしょうね?」。平凡な会社員のくせに身の程もわきまえずに…といったニュアンスだ。「味だけならうちの社員食堂だっておいしいじゃない」。別に譲歩して言っているわけではない。おいしいかどうか、という点だけなら、ユウガオの入った咸安の「ヨンポタン(タコ鍋)」、コチュジャン(トウガラシみそ)をたっぷりつけて焼いた奉化のイカ炭火焼き、量は少ないがおいしい羅州のコムタン(牛テールスープ)、それに先日会社の社員食堂で食べた肉入りチョル麺(歯応えのある韓国の麺料理)、どれも皆おいしかった。
それならば、この「あり得ない値段」のレストランに、どうして行く決心をしたのか。1カ月ほど前、知人に連れられてそのレストランに入り、お茶だけ飲んだことがあった。インテリアデザイナー出身のオーナーシェフが奥から器を出してきて見せてくれた。それは1500年代に作られたという文化財級の白磁だった。中指でその器をはじいてみたら、澄んだ鐘の音が鳴った。脚のしっかりしたお膳、木を削って作った伝統的な重箱や木製家具、いずれもカネさえあれば手に入るという品物ではなかった。このように目の肥えたシェフがどんな料理を作るのか、非常に興味が湧いた。シェフがやたらと「自慢話」をするので「それじゃあどれほどすごいのか腕前を見せてもらおうじゃないの」という気持ちもあった。