どうも。今井です。
立教大学の中村百合子先生から,樹村房『学校経営と学校図書館』をご恵贈頂きました。自分の担当する授業でもメインで使っている教科書でして,ちょうどシラバス執筆の時期でしたので,本当に有り難い限りです。感謝申し上げます。(もちろん自宅用にもちゃんと買おうと思います)
さて,今回のテキストはご本人のブログ投稿ポストでも明らかにされていますが,minor revisionではなく,major revisionとも呼べる改訂が行われています。私自身がまだちゃんと読み込めていないので,第一印象でしかありませんが,前の版と比べてどうだったかということを自分用のメモとして書いておきたいと思います。レビューと言うよりは私的メモなので,詳細は現物をご覧になった上で,ご本人の下記ポストも参照して頂ければ幸いです。
1.私的メリット
まず,私的なメリットとしては下記の4点が嬉しいところです。
- 学校図書館史の記述が増えた。
- マネジメントサイクルのPDSがPDCAになった。
- 前提となる教育,学校教育,教育方法に関する理論やその背景の記述が充実した。
- 各種資料や基準のアップデートがきちんと行われている。
以下,メリットの面の詳細です。
1については,授業でレジュメを独自に作って対応していたので,これで教科書に載っていないのに…と言われることもなくなって一安心です。
2については出版された時期を考えるとやむを得ないとも言えますが,PDSは現在ではPDCAであるという説明を授業で繰り返し行っていたので,こちらも有り難い変更点です。
3については,色々意見はあるかと思います*1。ただ,私としては学校経営と学校図書館という授業について「学校図書館概論」の性格があると思っているので,その意味では他の授業の前提となる理論に多くの記述が割かれていることは良いことだと思います*2。
4については,新版の教科書であれば当然なことですが,「学校図書館評価基準」が資料として掲載されていることは,教授者として大変助かります。コメントとしてはこれくらいシンプルに書けてしまうのですが,旧版を使っているときにかなりの部分で追加資料を別途作って配付したり,OHCで上映していたところが教科書に盛り込まれているので,一読したときにはこれで追加資料の枚数を減らせると,正直喜んだくらいこれらの改訂は有り難い限りなのです。
2.改訂版の注意点
次に,旧版に基づいて授業を組み立てている場合には,下記の点に注意する必要があるかなと思いました(これは分量の制限や性格の違いがあるので必ずしもデメリットではありません。私は変更点として理解すべきと思います)。
以下,注意点の詳細です。
1については,旧版では「教師として」「メディア専門家として」「教育課程の立案・展開のコンサルタントとして」の節が設けられて,それぞれ司書教諭として,どんなことを行うのかが明記されていました。今回の版では,学校図書館そのものの役割や,図書館専門職としての役割で何を行うべきかが述べられており,司書教諭が具体的にどんな役割を担うのか,テキスト本文では答えが明記されていません。独学で学ぶにはその点が物足りなく感じるかもしれません。
ただしこの点はデメリットとはすべきでは無いと思います。学校図書館によって,司書教諭の果たす役割がケースバイケースである現状を踏まえると,かえってテキスト本文として明記することは好ましくないともいえます。また,大学の授業で活用することを考えた場合,ある程度学習が進んだ段階で,学生さん達に「では,司書教諭とはいったい何をする人たちなのか」という問いかけを行う課題が設定できるとも言えるので,教授者にその点は委ねられたと考えた方が正しい理解だと思います。それに加えて,子どもの読書サポーターズ会議の参考資料2「学校図書館の運営・活用に当たっての司書教諭とその他教諭等の役割例」がp. 208に資料として掲載されているので,材料が提示されていないわけではありません。また独学で学んでいる人にとっても,「答え」を求めるのではなく,自分できちんとまとめ直す作業は必須であるとも言えるので,繰り返しになりますが,この点はデメリットではなく,変更点として考えるべきでしょう。
2については,概論的な役割を要求する立場としてはデメリットに見えますが,そもそも「学校図書館メディアの構成」がある以上,そちらに委ねるべき内容とも言えます。その意味では背景として,メディアの「選定」,「コレクション形成(collection development)」,「コレクション・マネジメント(collection management)」(p. 125-126)という3つの段階に分けて,それらを整理しているのは,かえって教えやすくなったとも言えます。
3については,著作権法への記載がなくなったと書くと落ち度に見えますが,著作権法における例外規定の範囲が現在は二,三年の範囲で変化していること,当該内容が学校図書館メディアの内容の一部として旧版では取り上げられていたことを考えると「学校図書館メディアの構成」で教えるべき内容とも言えること,以上の点を踏まえると,デメリットではなく,こちらも変更点とするべき箇所です。
3.その他
あと興味深い変更点としては,第4章では「共同探究者としての図書館専門職」,「知の自律的循環の場としての図書館」という記載があります。ここは学校図書館にかかわらず図書館専門職全体に対する記載でして,他の館種の方でも興味深く読める箇所ではと思います。ここの箇所は司書課程でも取り上げたいなと思います。
というわけで,ご恵贈の御礼として簡単なメモを書いてみました。
大変多大な作業量だったと思います。その成果を活用させて頂きながら,来年度の授業を構築して参りたいと思います。中村先生,樹村房の皆さまに,改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。
追記:なお樹村房「学校図書館メディアの構成」についても,近々,私が少し担当させて頂いた改定版が年度内に出版される予定です。ご期待下さい。