本エントリーでは『アステイオン』83号に掲載され、その後、ニューズウィーク日本版ウェブサイトに全文を4回分載+補遺で掲載される拙稿「郊外の多文化主義」に関する補足的な情報提供を行いつつ、移民/難民について考える上で参考になる文献などを紹介しておきたい。
各節ごとに参考文献、各種情報のウェブ上のソース、ウェブ版拙稿では煩瑣を避けるために省略した「文末註」などを掲載しておく。
なお、以下は、ウェブ上にある拙稿「郊外の多文化主義」の「全文」=各連載分へのリンク(掲載のたびにリンク増設する)。
第1回:郊外の多文化主義(1)
第2回:12月08日(火)掲載予定
第3回:12月09日(水)掲載予定
第4回:12月10日(木)掲載予定
補遺 :12月11日(金)掲載予定
- 作者: サントリー文化財団・アステイオン編集委員会
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1.北関東のルゾフォニア
● わたし自身が大泉町に行った際の記録。
● 文末註2:「実際わたし自身、先述の大泉町から太田市方面へタクシーに乗った際には何度も「本社からの出張ですか?」と聞かれた」
2.多文化主義は失敗した?
● マリク論文の原文
● 文末註3:「難民問題は、欧州で起こっている他人ごととしてではなく、われわれ自身の問題として考えておかなければならない。われわれが最もリアリティを持って想定しなければならないのは、半島有事の際、北朝鮮から流入してくるだろう難民である。石丸次郎『北朝鮮難民』によるなら、そのほとんどは陸続きの中朝国境を越えると予想されているが、推定一万人程度の北朝鮮難民の日本への流入が予想されると言われている。韓国への脱北者の手記などを読めば分かる通り、彼らは「並みの難民」ではないのだ。資本主義も議会制主主義も一切知らず(東ドイツでさえワイマールを経験していた)、長期にわたって飢餓線上に置かれた結果、著しい発育不全やそれに伴うIQの低下、そしてわが国では一時に百人オーダーでは物理的に対応不能な多剤耐性結核に罹患している可能性のある難民なのである・・・。この点に関しては、是非、ブレイン・ハーデン著 『北朝鮮14号管理所』を手に取って頂きたい。」
● 参考:北朝鮮の多剤耐性結核菌感染症や健康状態に関する報告
3.多文化主義の根源的問題性
● 拙稿で触れた部分以外も大変興味深い内容になっている。非常に面白い本なので、もっと多くの人に読まれることを期待したい。とても勉強になる。
● キムリッカによる多文化主義理論の古典的著作。
- 作者: ウィルキムリッカ,Will Kymlicka,角田猛之,山崎康仕,石山文彦
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● 上記、キムリッカに対する批判。色々な論者が寄稿しており大変面白い。
Is Multiculturalism Bad for Women?
- 作者: Susan Moller Okin
- 出版社/メーカー: Princeton University Press
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● 圧倒的名著。読まないのは「損してる」と言っても過言ではない。文庫版解説ではシャルリ・エブド事件についても触れているが、まさか半年後にパリであのような事件が起こることになろうとは・・・。
十字架と三色旗――近代フランスにおける政教分離 (岩波現代文庫)
- 作者: 谷川稔
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● フランス〈共和国〉とは何なのか?を憲法学者の視点から説いた名著。「ルソー=ジャコバン型」国家モデルなどについての説明も。法学部の学生は必読。
4.多文化主義は失敗していない?
● 森千香子「ムスリム移民はスケープゴート」
● イギリスのムスリムの現状などに関する極めて浩瀚な研究書。たぶん、現段階では、これ以上のものは無いのでは?
リベラル・ナショナリズムと多文化主義: イギリスの社会統合とムスリム
- 作者: 安達智史
- 出版社/メーカー: 勁草書房
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● 上記、安達氏によるものとしては、下記なども読みやすくてオススメ。
イギリスの若者ムスリムたち――「市民であること」の要件としてのイスラーム / 安達智史 / 社会学 | SYNODOS -シノドス-
● ココからも色々、読めるか。
5.「多文化共生」から「統合」へ
● 日系ブラジル人問題を考える上での必須文献。大変、勉強になった。
顔の見えない定住化―日系ブラジル人と国家・市場・移民ネットワーク
- 作者: 梶田孝道,丹野清人,樋口直人
- 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
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● 小笠原美喜「「多文化共生」先進自治体の現在―― 東海及び北関東の外国人集住自治体を訪問して」『レファレンス』平成27年8月号
『レファレンス』|国立国会図書館―National Diet Library
● 森千香子「郊外団地と「不可能なコミュニティ」」
● 森千香子「「施設化」する公営団地」
● 森千香子氏の一連の研究は、今回の原稿を執筆する上で大変参考になったが、以下の講演記録「フランスにおける郊外の若者の経験とイスラーム」は、大変考えさせられる内容になっている。物凄く面白い研究をされている方なので単著の刊行も切望される。
6.福祉国家とナショナリズム
● 映画「サウダーヂ」。機会があれば、是非、観て欲しい。傑作、傑作、傑作。
● わが国において、自らの苦境をラップの歌詞に乗せて歌う深刻な事例としては、「鬼」による『小名浜』や「Anarchy」による『FATE』などに、その極点を見出すことが出来る。そこには、フランスの郊外でラップに乗せて絶望を歌う若者たちとの相同性さえ見出すことができるだろう。
● ヒップホップとコミュニティとの関係については、下記、拙ブログのエントリーも参照。
● また、フランスにおける暴動とラップの関係については、森千香子「炎に浮かぶ言葉――郊外の若者とラップに表れる「暴力」をめぐって」を参照。
現代思想2006年2月臨時増刊号 総特集=フランス暴動 階級社会の行方
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2006/02
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● 余談だが、最近、米村幸太郎さん(横浜国立大・法哲学)に教えて頂いた、以下のような人も・・・。> ブラジル生まれ新宿育ち、今年で25歳のラッパー・ACEさん。
● ストーリー共同製作者である鈴木大介氏からの情報提供により真にリアルなものとなっている。『ナニワ金融道』から『闇金ウシジマ君』を経て、とうとう我々はココまで来てしまった・・・。
● リベラル・ナショナリズムについての必須文献。
- 作者: デイヴィッド・ミラー,富沢克,長谷川一年,施光恒,竹島博之
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● 文末註12:「ただ、この点(=ナショナリティに関する民主的討議)に関しては、ブラウン事件に見られるように「民主的正統性にもっとも乏しい司法府」の「非民主的議論」によってアメリカでの人種差別の解決が領導されて来た点などに留意する必要がある。――大屋雄裕「配慮の範囲としての国民」『成長なき時代の「国家」を構想する』(ナカニシヤ出版、二〇一一年)を参照。」
成長なき時代の「国家」を構想する ―経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン―
- 作者: 中野剛志,佐藤方宣,柴山桂太,施光恒,五野井郁夫,安高啓朗,松永和夫,松永明,久米功一,安藤馨,浦山聖子,大屋雄裕,谷口功一,河野有理,黒籔誠,山中優,萱野稔人
- 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
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● リベラル・ナショナリズムに関しては、安藤馨氏(神戸大学・法哲学)との会話で非常に重要な示唆を頂いた。ミラーの議論も含む移民政策と福祉国家との関係についてのヨリ詳細な議論は、同氏のサイトに掲載された以下のペーパーを参照されたい。
Ando, Kaoru(2015)Ethics of State Control over Immigration
● 「健全なナショナリズム」と「真摯な福祉国家」の結合について:文末註13:「筆者は、このような事柄を政治的に実現するための現実的な処方は、「健全な国防ナショナリズム」と「真摯な社会民主主義」を結合させた往時の「民社党」的な政治勢力の再興しかないのではないかと考えるが、この点については近日中に別稿で更に詳細な議論を展開することにしたい。」→ 以下などを参照。
〈補記〉
● 技能研修生の闇と日系ブラジル人の窮状などを先駆的に描き出している。
● ひとの移動と国境について、めくるめく世界を垣間見せてくれる名著。これを読んでいないのは「人生損している」と言っても過言ではないくらいの名著。年末年始にでも、是非どうぞ。
蛇足ではあるが、以下、上記に関連する本ブログ内での過去のエントリー。
以上。