編集委員・石飛徳樹
2015年11月26日10時19分
《評伝》原節子さんといえば、多くの映画ファンが「晩春」「麦秋」など小津安二郎監督の名作群を思い出すだろう。控えめで気品のある日本女性の鑑(かがみ)。「東京物語」で、戦死した夫の両親に優しく接する女性を演じ、こうした古風なイメージが定着した。義父の笠智衆に対して言う「私、ずるいんです」は、ずるさのかけらもなさそうな原さんだからこそ、観客の心に響いた。
「実際の原さんはビールの大好きな気さくな方」と女優の司葉子さんは言う。比較的大柄な体格で目鼻立ちもはっきりしていた。性格も容姿もいわゆる古風な日本女性とは異なる。「東京物語」は英国のサイト&サウンド誌で2012年、映画史上の第1位に選ばれるなど世界的にも高い評価を得ているが、原さんが華やかさを無理に閉じ込め、少し窮屈そうにも見えた。
原さんは小津監督以外にも多くの巨匠と仕事をしている。黒澤明の「わが青春に悔なし」(46年)では自分の意見を主張して闘う女性を、木下恵介の「お嬢さん乾杯!」(49年)では元華族の令嬢をコミカルに演じた。成瀬巳喜男の「めし」(51年)では庶民の生活の疲れを表現した。小津監督以外の作品では、意外に多様な役を演じている。
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