「安倍首相は恐いんだと思います。自分の中に非常に不安がある。 自分たちが間違ったことをした過去があるとういことを認めるのも恐いし、これからもしかしたら間違ったことをしてしまうかもしれないとういことを認めるのも恐い」——。
2015年8月28日に行われた、若者らによる安保法制反対の国会前抗議でマイクを握った精神科医の香山リカ氏は、安倍総理の強硬な態度の裏にある深層心理を分析してみせた。
香山氏はスピーチで、ナチス支配下で行われた精神障害者や知的障害者、約20万人の大虐殺の歴史を紹介。2010年にドイツの精神神経科医たち3000人が、虐殺の責任をとって追悼式典を行ったという。
「なぜ安倍首相たちは、それができないのか」。
香山氏は安倍総理が戦後70年談話で、「もう孫や自分たちの子どもや孫の世代に、謝罪する宿命を背負わせることはできない」と述べたことについて、精神医学的に、不安や恐怖を打ち消すために強がりの態度をとってしまう「反動形成」だと分析。そこまで安倍総理を追い込んだのは、こうした国民の抗議の声なのだと訴えた。
「威張ったり、人をバカにしたり、微笑みを浮かべたような態度を取ることで、自分の中にある恐怖や不安や怯えと戦っているのかもしれない。そういう状況までに追い込んだのは、ひとつは皆さんたちの闘いのおかげなんだと思います」
以下、香山氏のスピーチ全文文字起こしを掲載する。
【スピーチ動画(6分45秒)】
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香山リカ氏スピーチ全文
「みなさん、こんばんは。立教大学、学者の会から来ました香山リカと申します。
今日は学者の会から来たので、ちょっと私の専門の精神医学の話を少しだけします。これはですね、今年6月に日本の精神科医が8000人ぐらい集まって行われた、日本精神神経学会というすごく大きな学会で行われたパネル展のパンフレットです。
【パネル展パンフレット「ナチ時代の患者と障害者たち」】
http://www.dgppn.de/fileadmin/user_upload/_medien/images/
Psych_im_Nat/Wanderausstellung/Broschuere_Japan_2015.pdf
どんなパネル展かと言いますと、これはですね、ドイツの精神医学会が行なったパネル展なんすが、そのタイトルが「ナチ時代の患者と障害者達」というパネル展なんです。
で、みなさんにはあまり知られていないんですが、ナチスはユダヤ人を虐殺する前に、精神障害者や知的障害者、20万人を社会のお荷物と考えて、ガス室送りにして、虐殺をしました。
しかし、その後、誰もそのことについて、責任をとったり、謝罪をしたりしようとしなかったんです。
それが、2010年に、すごく大きな出来事が起きました。それは、初めてドイツの精神神経科医たちが、自分たちがナチス時代に加担してしまった、精神障害者たちの虐殺の責任をとって、その犠牲者や遺族のための追悼式典を、3000人ももの医師が集まって行うという集会をして、それから、これから自分たちは、反省と検証を始めるんだと約束をし、このパネル展もその一環として行われたんです。
ここには、自分たちのおこなったおぞましい過去、患者たちを集めた写真、それから、その患者たちをガス室に送った時のバスの写真なども載っています。
おそらく、もしかしてこれを見て、今、これはとても自虐的な、自分たちがおこなった、しかも自分たち本人ではない、もう親や祖父の世代がおこなったことを、今頃認めて謝る必要はないと思う人もいるかもしれません。
しかし、その会場では多くの精神科医たちが、本当に真剣な表情でこのパネル展を見て、そして別に500年前でも、1000年前でもない、わずか80年ほど前に、自分たちと同じ精神科医たちが、皆「これが社会の健全化の役に立つ」というふうに考えて、患者たちを安楽死、虐殺してしまったということが起きうるんだということをですね、皆本当に真剣な表情で受け取っていました。
この度、安倍首相は戦後70年の談話ということで、もう孫や自分たちの子どもや孫の世代に、謝罪する宿命を背負わせることはできないと言いました。
この談話がある一部の人達には、未来志向だと言われて、非常に受けが良かったようですが、そうでしょうか?
私たちが謝罪をしなくてもよいということは、つまり、過去をもう忘れてもいい、過去を見なくてもいいということです。
これは、決して未来志向ではない。私たちは過去に何をやってしまったのか、あるいは、またそのことをまた繰り返してしまう危険性はないのかということを、きちんと目を向けて、それを反省すべき点は反省し、どうすれば再びそういう道に踏み出さないのかを考え続けないと、本当の意味で、私たちがこういう戦いや虐殺を自分たちから避けることはできないんだと思います。
それを、なぜ安倍首相たちはできないのか。なぜできないのか。
私は、それは恐いんだと思います。
自分の中に非常に不安がある。 自分たちが間違ったことをした過去があるとういことを認めるのも恐いし、これからもしかしたら間違ったことをしてしまうかもしれないとういことを認めるのも恐い。
人間、これは精神医学的に、恐い、不安、恐怖があると、それを打ち消すために、反動形成といって、逆の強がりの態度をとってしまう。 これは、非常によく知られていることですね。
こういう態度をとって、今はなにか威張ったり、人をバカにしたり、微笑みを浮かべたような態度を取ることで、自分の中にある、もしかしたら、恐怖や不安や脅えと戦っているのかもしれない。そういう状況までに追い込んだのは、ひとつは皆さんたちの闘いのおかげなんだと思います。
で、私は、皆さんは本当は勝っているんだと思います。彼をここまで追い込むことができた。世の中に、今迄なかったこんなうねりを作ることができた。もう、既に実際は勝っている。あとは、それをどういう形で押し付けるのかという、今ここまできているのだと思います。
私は本当に心から、皆さんたちのこの一連の若い人たち、SEALDsを中心とした、若い人たちのこの動きを評価し、そして、一緒に連帯できることを本当に嬉しく思いますし、そして、これが必ず目に見える形の勝利に結びつくことを確信しています。
明日、私のいる立教大学と、そして上智大学で連帯が行われます。午後6時から神谷町にある聖アンデレ教会というところで、「私たちはなぜ安保法案に反対するのか?――立教・上智有志からの発信」という、そういう集会が開かれ、上智、立教だけでなく多くの学校から教員も、あるいは学生や卒業生も参加して、スピーチをすることになっています。
こんなことは本当に今までなかった。大学同士はお互いに受験生の数を競い合い、あるいは大学のランキングを競い合い、ライバル、競争相手として、相手をともすれば蹴落とすといようなことばっかりを考えていた。
それが今こうやって手を取り合って、一緒に一つのことをやろうという動きができてきた。
それを作ってくれたのも皆さんたちです。
本当にそういう意味で私たち大学人を目覚めさせてくれた、皆さんたち、学生さんたちには、本当に感謝しています。
後一歩、目に見える勝利にむけて頑張りたいと思います。どうも、ありがとうございました」
(了)
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