事業のムダをなくして圧倒的な成長スピードを実現する「バリュー・チェーン分析」の4つのステップ
昨今IT・WEB業界だけではなく様々な業界でもIT化が進み、数年前に比べて社会は急速に変化しています。昨日まで常識だったことが、今日から非常識になっていることも少なくありません。
具体的な例をあげると、
- 企業の業績悪化だけではなく、業界そのものが急速に縮小し、消滅する
- 予想もしない全く異なる業界からの参入で市場が奪われる
- 様々な国の参入でサービス価格が大幅に下がり、儲かっていた事業が赤字事業になる
などなど、その例は枚挙にいとまがありません。
2015年6月15日にファーストリテイリングとアクセンチュアが協業する発表がありましたが、その中で競合企業について聞かれたファーストリテイリングの代表取締役会長の柳井氏は以下のようにコメントしています。
「業態が同じとは限らない。消費者の財布は1つ。Nestleかもしれないし、Coca-Cola、P&G、Disneyかもしれない」参考:ファーストリテイリング、事業をデジタル化へ
このコメントからもわかるように、過去の延長線上にこれからの事業の成長を見る事は難しいのかもしれません。
そこで、今回は競合企業のニュースや人からの話を聞いた程度で右往左往せず無駄を無くした上で、事業を圧倒的なスピードで成長させるための「バリュー・チェーン分析」をご紹介いたします。
▼目次
バリュー・チェーンってそもそも何?
バリュー・チェーン(=価値連鎖)とは?
「バリュー・チェーン」とは日本語でいうと、「価値連鎖」と呼びます。1985年に経営学の大家とも言えるマイケル・E・ポーターがその著書『競争優位の戦略』の中で提唱したのが始まりです。このバリュー・チェーンを一言で示すと、以下のようになります。
『事業を主活動と支援活動に分類し、どの工程で付加価値(バリュー)を出しているかという分析するためのフレームワーク』 |
このフレームワークによって一つの事業を様々な活動に細分化し、そこから事業の競合優位となる源泉(=強み)を把握することで、事業戦略を考えるさいに協力な武器となるのです。
主活動と支援活動
バリュー・チェーンの定義の中に主活動と支援活動という言葉がありましたが、主活動とは製造や営業など「製品が顧客に到達するまでの流れと直接関係する活動」で、支援活動とは技術開発や人事などの「主活動を支える活動」を指します。
具体的には以下の表のようにまとめることができるでしょう。
主活動 | 製品が顧客に到達するまでの流れと直接関係する活動 | 例)購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービス |
支援活動 | 主活動を支える活動 | 例)調達活動、技術開発、人事、財務、会計 |
何のために分析をするのか?
このバリュー・チェーン分析を行うメリットは自社及び競合に対して行う事で、外的要因(市場の変化、消費者のニーズ)などにより競合が次にどう動くのかを予測すると共に、自社の強みの整理が可能となることです。
では、具体的にはどのようにしてバリュー・チェーン分析を行っていけばよいのでしょうか?
活用方法も含め4つのステップに分けてご紹介していきます。
バリュー・チェーン分析の4つのステップ
ステップ1「自社バリューチェーンの把握」
最初の分析は、自社のバリューチェーン、つまりどのような「主活動と支援活動が自社であるのか」を把握します。
さきほどのイメージ図では製造業の場合ですが、業界によりこの流れは全く違います。
例として、通信業と小売業についての主活動の流れを紹介します。
1.通信業の場合
通信業の場合、はじめに商材となるインフラ構築を行います。WEBサービスやツールなどのプロダクトがここに当たるでしょう。次に、そのプロダクトを販売するための営業活動を行い、契約をすることで、サービス提供が行われます。
そこで顧客から料金を徴収し、その後、継続して取引きをしてもらうため企業はアフターサービスなどを行うという流れになります。
2.小売業の場合
小売業の場合、商品を作るのではなく、「どのような商品を店に置くのか?」を考える商品企画からスタートします。そして、実際にその商品を仕入れて、店舗を運営し、お客さんが店舗に訪れたくなるよう広告などを使って集客するのです。
最後に、実際に対面によりお客さんに商品を販売し、店舗や商品にもよりますが、アフターサービスなども行います。
このように、業態によって定義できるバリュー・チェーンは様々で、自社がどのようなプロセスにあるのかを考えなければいけません。この部分は後の強み、弱みの把握をより容易にするため、出来る限り細かくセグメントするのがポイントです。
ステップ2「各レイヤーのコスト把握」
次に行う分析は各レイヤー(先ほどの小売業の場合で言えば「商品企画」「仕入」などの活動を指します)のコストを把握することです。このコストの把握をすることで、収益性などをよりはっきりと認識することができ、無駄な部分が浮き彫りになってきます。
ここではExcelなどの表計算ソフトでレイヤー(活動)ごとにで「年間コスト」「担当部署」を記入していくとわかりやすいでしょう。
年間コスト | 担当部署 | |
商品企画 | 600万円 | 商品企画部門 |
仕入 | 2000万円 | 仕入部門 |
店舗運営 | 1500万円 | 店舗運営部門 |
集客 | ・・・ |
一つの部署で複数の活動を行っている際は活動時の比率で考えましょう。また、複数の部署で一つの活動を行っている場合は複数部署のコストを合算して記載するようにしてください。
ステップ3「バリューチェーンの強み/弱み分析」
3つ目のステップでは、それぞれのレイヤー(活動)の強みと弱みを分析しましょう。
オススメなのは、自社と競合の強みと弱みを書く表を作り、出来るだけ社内で多くの人に配布して書いてもらう方法です。
ここでポイントなのは、「少人数で行わないこと」です。
というのも、日々たくさんの企業様に訪問する中で「競合が行っている施策について教えて下さい」と聞いたところ、担当者が5名いる場合、5名とも別々の事を発言されます。そこで、他の担当者の発言に対して驚く担当者も少なくありません。
これはそれぞれの担当者が、違う情報源から競合を見ているために起こってしまう現象です。
そのため、できるだけ多くの人から情報を集め、それらを集約した一つのシートを作成しましょう。
ステップ4「バリューチェーンをVRIOで分析」
VRIO(ヴェリオ)の要素で強みを分析する
バリューチェーン分析の活用法として、最後にVRIO(ヴェリオ)による経営資源の競争優位性分析を行います。
VRIOとは Value(価値)、Rareness(希少性) 、Imitability(模倣可能性)、
Organization(組織)の頭文字で、経営資源を分析する際の4つの要素を示しています。
Value(価値) | その経営資源は経営目標の達成に有効か? |
Rareness(希少性) | その経営資源には希少性はあるか? |
Imitability(模倣可能性) | その経営資源はマネされにくいか? |
Organization(組織) | その経営資源を最大限に活かすことのできる組織作りができているか? |
以上の4つの要素から、ステップ3で設定した強みをそれぞれ分析していきます。
具体的な方法としては、下記のようなシートを作成するのがいいでしょう。
ここでもステップ3と同じように各担当者に個別に記載してもらいます。
この時に記載する記号を4つほど決めておき、それぞれの点数も事前に決めておくことで、より明確にレイヤー(活動)の価値を算出することができます。
例:(◎=5 点、◎=3 点、△=1 点、×=0 点)
競合優位の源泉となるレイヤー(活動)を導く
個別に書かれたVRIOのシートを集計し、自社のVRIO分析表を作成すると、自社の競合優位となっているレイヤー(活動)が見えてきます。
ここまでくれば次にどういった戦略で事業を成長させていけばいいかがわかります。
例えば、以下のようなことが考えられます。
- 改善の余地があるポイントがRareness(希少性)であれば、プレミアム感を出し希少性を向上させる事でより競争優位性を高める
- VRIOが最も低いレイヤー(活動)に関してはアウトソーシングのコストが現状より低いのであればアウトソーシング化し、より無駄を無くす
- ステップ2で把握した費用と競争優位性のあるレイヤー(活動)を総合して、予算配分を最適化する
このように、バリュー・チェーン分析を行うことで、精度の高い事業戦略を行っていくヒントが見えてくるのです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は競合分析というよりは企業の内部環境に焦点を当ててご紹介しましたが、同様のことを競合にも行えば自社の短期的な成果だけではなく、中長期的なブランディングの向上や収益率の向上などにもつながる戦略を考えることができるはずです。
ぜひ自分たちが携わっている事業や組織で試してみて下さい。
参考書籍:『勝ち抜く戦略実践のための 競合分析手法/高橋透』