賞の歴史で初のW審査委員賞受賞。
陽の目を見られなかった幻の問題作? が電子書籍で登場。
本作は過去に富士見書房で開催されていた、ライトノベルの賞、
第8回富士見ヤングミステリー大賞で井上雅彦・竹河聖
両審査委員賞を受賞いたしました「鞘火」の改訂版です。短くいえば「私の中の犯人探し 一人群像ミステリー劇」
といった内容で、一風変わったミステリー小説となっております。受賞はいたしましたが、賞が最後の回でレーベルごと
なくなってしまった為、残念ながら出版に至りませんでした。せっかくなので、いつか電子書籍で登録して、
皆様に読んでいただく機会があればと思っていたのですが、
方法がよくわからず、放置しておりました。
今回販売代行サイト様による、理想的なサービスが
登場したこともあり、試しに登録してみました。プロによる校正などは入っておりませんので、ほぼ投稿時のままの内容で
至らぬ点や、細かいミスなどあるとは思いますが、ご容赦くださいませ。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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桜庭 一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」や「GOSICK」が登場したミステリとラノベ折衷のレーベル富士見ミステリーが開設した富士見ヤングミステリー大賞。
第8回大会にて井上雅彦・竹河聖賞として選ばれたのが本作だったがレーベルごとなくなり未刊行のまま。
それが電子書籍になって出たということで早速読んでみた。
以下、露骨なネタバレはなしで(作品内容にはそこそこ触れます)。
中身をざっくりいうと、ひとつの身体の中に複数の人格がある。
そしてその人格の中で殺人(殺人格?)未遂が起き、犯人である人格を探し友人(探偵役)と共に対決するという感じ。
基本的に会話劇であり、登場人物は極端に少ない。
カッコ書きのセリフが大半。
あとは自分語りなので背景などの描写は極端に少ない。
延々会話のために変化が乏しくその辺冗長に感じる。
作中でやってることも引っ越しとあとは通学と部屋でだべるくらい。
事件らしい事件(変化点)は、それほど起きない。
日ごとに人格が変わり、語り手が日により変化する。
男性の人格、女性の人格、性格もバラバラ。
ミステリ読み的には、曜日毎に人格が変わるわけですから曜日の錯覚トリックや地の文でのトリック(日々語り手の性別が入れ替わるなどしているわけですから誤認させる余地がある)などが仕掛けられているかも?とか、あるいは「××日目 ○曜日 ××日目 ○曜日」と記述が各2つづつあるために、どこかでズレが生じて読者に誤認させるような(某有名ミステリのアレ)大仕掛けなトリックがあるのでは?!と期待して読んでいたら意外とまっとうなことになっており、トリックらしいトリックがないので真相が明かされても「へぇ……ふーん」といった感じにならざるをえない。
ミステリにはレッドへリング(ニセの手掛かり)というのがあるけれど、アレは○○を犯人だと思わせておいて実は××が犯人だった、という読者の認識と真相とにズレを起こさせ、その面白さを産むための仕掛けなんだが、読者に誤認させる犯人らしき存在がないまま、最後の場面に突入してしまうせいでで「どの人格が犯人なのかねー……へぇ」と真相が開かされても驚きをあまり感じない。
誰が犯人でもおかしくない→こいつが犯人です→あぁ……。
せめて人格の幾つかが「自分が犯人なのではないか?」と自問自答し混乱してそれなりに事件を起こしたりすればなぁ……。
最後に明らかになるのは隠された真相、というよりも答え合わせと、どうやって勝つのか、といった感じ。
論理的推理というより、お手盛りルールの中でお手盛りグレーゾーンをついたトリックなのでミステリ読者にはつらい。
ほとんどのセリフが真相に必要な情報を含んだ「対話」ではなくキャラの肉付のための「会話」なんですよね。
「対話」はなくてはならないけど「会話」はなくても成立する。
ミステリ読みってのは、一見何気ない会話の中に隠された大切な情報を探りながら読んで行くわけですが、今作の場合そういう読み方をしてもあまり実りがない。
ミステリとして読むより会話中心のキャラノベルとして読めば面白いのかもしれない。
そういう意味で、応募したのがミステリの賞ではなく、ラノベとの折衷だった富士見ミステリーというのはいい線だったかもしれない。
ガチガチのミステリの賞なら、多分落ちてる。
複数人格の殺人という趣向は面白いのにミステリとしてはちょっと残念な読後感。
西澤保彦「人格転移の殺人」くらいのトリッキーな作品を期待したのがよくなかった。
読み方を間違えた。