アリの一言 (「私の沖縄日記」改め)

オキナワ、ヒロシマ・ナガサキ、フクシマなどの現実と歴史から、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「明治の産業革命遺産」と安倍政権

2015年05月07日 | 安倍政権

         

 ユネスコの諮問機関が「明治日本の産業革命遺産」(山口、福岡など8県、23施設)を世界文化遺産に登録するよう勧告した(4日)というニュースは日本中を駆け巡り、対象施設はこの連休中はやくもたいへんな混雑だったといいます。

 私はそもそもユネスコの「世界遺産」なるものにあまり関心はありません。しかし、今回は別です。傍観しておくわけにはいきません。なぜなら、その背景に安倍政権の危険な政治的意図を感じるからです。

 今回の登録に向け、「政府は従来の文化庁主導から安倍晋三首相直属の『官邸シフト』に切り替え、関係国に異例のアピール活動を展開」(5日付、共同配信)してきました。安倍首相はなぜこれほど熱を入れているのでしょうか。

 「産業革命遺産の23施設がある自治体に、安倍首相や盟友である麻生太郎財務相の地元が含まれていることも、政治色を強める一因となっている」(共同、同)といいます。事実、安倍首相の地元山口県には、吉田松陰の松下村塾など5施設、麻生財務相の地元福岡県には、官営八幡製鉄所など3施設、計8施設あります。3分の1が安倍・麻生地域です。

 そうした姑息な思惑もあるかもしれませんが、根はもっと深いとみるべきでしょう。
 1つは、戦前・戦中の朝鮮・中国侵略、植民地政策への批判に対する対抗です。
 今回の登録勧告に対し、「韓国は戦時中に九州の炭鉱や八幡製鉄所、三菱長崎造船所など23施設のうちの7施設に朝鮮半島から約6万人が徴用され、100人前後が死亡したと主張」(共同、同)し、登録に強く反対しています。
 「朝鮮半島から徴用」とは、植民地政策による強制連行・強制労働にほかなりません。
 強制連行・労働は朝鮮半島だけでなく、中国でも行われました。その数は、「国内35企業、135事業場に総数約4万人」(高實康稔氏、『ナガサキから平和学する!』)といわれています。
 こうした強制連行・労働に対しては、現在も長崎をはじめ全国各地で裁判闘争が行われています。
 その関係施設を「世界遺産登録」しようというのですから、韓国、中国の反対は当然です。

 これに対し安倍政権は、今回の「遺産」は1985年(ペリー来航)から1910年(韓国併合)までを対象にしているのだから、韓国などの批判は当たらない、という言い分で押し切ろうとしています。
 ここに安倍政権の狙いがあるのではないでしょうか。韓国や中国の批判が当然予想される中で、あえて「対象期間」を「韓国併合」までに設定しました。言い逃れの道を残したのです。そうして批判を押し切って登録に持ち込めば、事実上、強制連行・労働への批判を打ち消すことができる。それが安倍政権の狙いではないでしょうか。

 もう1つ、見逃すことができないものがあります。それは2月12日に行われた安倍首相の「施政方針演説」です。
 この中で安倍首相は、「明治国家の礎を築いた岩倉具視」の「日本は小さい国かもしれないが、国民はみんなが心を一つにして、国力を盛んにするならば、世界で活躍する国になることも決して困難ではない」という言葉を引き、「明治の日本人にできて、今の日本人にできない訳がありません」と鼓舞したのです。そして、「みなさん、『戦後以来の大改革』に、力強く踏み出そうではありませんか」と強調しました。
 「戦後以来の大改革」とは、「経済再生、復興、社会保障改革、教育再生、地方創生、女性活躍、そして外交・安全保障の立て直し」だと言いました。

 「施政方針演説」ではさらに、「何よりも実践を重んじ、明治維新の原動力となる志士たちを育てた、吉田松陰先生の言葉」なるものを紹介し、「大胆な改革の実行」を強調しました。

 「施政方針演説」は最後に、「憲法改正に向けた国民的な議論を深めていこう」とのべ、「戦後以来の大改革」を必ず成し遂げようと繰り返し、こう結びました。「今や日本は・・・世界の真ん中で輝くことができる。・・・芽生えた『自信』を『確信』へ変えていこうではありませんか」

 安倍首相の「戦後以来の大改革」が、「明治の産業革命」、すなわち「富国強兵」をモデルにしていることは明白です。
 安倍首相が「先生」と公言してはばからない吉田松陰。登録施設の1つであるその松下村塾で、明治の「富国強兵」、朝鮮侵略の中心になった伊藤博文や山縣有朋らが排出した事実を忘れることはできません。
 安倍首相が明治に思いをはせながら口にする「世界の真ん中で輝く」とは、現代版「八紘一宇」であり、「戦後以来の大改革」の実践が、先の日米軍事同盟・ガイドライン強化、「戦争をする国」への暴走であることは言うまでもありません。

 こうした安倍首相の明治「富国強兵」へのあこがれ、それにならった「戦後以来の大改革」と、今回執着している「明治産業革命遺産」登録が、無関係だといえるでしょうか。
 23の施設の中には、強制連行・労働の関連施設とともに、連合艦隊の旗艦であった戦艦武蔵を建造し、今も兵器産業の中心になっている三菱長崎造船所(写真中。写真左は軍艦島)など、戦争・兵器関連施設が数多く含まれていることも、偶然ではないでしょう。
 
  「世界遺産」登録が、安倍首相の思惑通り、日本人の「大国意識」を高揚させ、現代版「富国強兵」推進の一助となるのか。それとも登録を契機に、日本の植民地政策、日清、日露以来の侵略・戦争の歴史を学び、逆に「戦争をする国」をストップさせる世論が高まるのか。「登録」をうけとめる主権者・国民しだいでしょう。

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