こんにちは。中学生の頃から、村上さんの作品のファンです。このような質問出来る機会を与えて頂いて嬉しいです。 村上さんが最近出された『女のいない男たち』に収められている、「木野」という作品に衝撃を受けました。というのも、主人公の木野という人物が、従来の村上さんの小説の主人公とかけ離れているように思えたからです。今までの村上さんの作品の主人公は、皆社会的に広く認められているようなタイプの人間ではありませんでしたが、彼らは皆それぞれにタフで、しっかりとした価値観を持ち、そして(僕の目から見れば)とてもエレガントな人物でした。彼らは、多少受け身であるにしても、自分に降りかかってくる困難に対して、常に毅然と、忍耐強く向き合い続けました。
木野も、序盤はそんな主人公の1人に見えます。彼は妻を失ってバーを開き、のんびりと経営しています。しかし、その後起きる様々な不吉な事件に対して、彼は強く恐怖を感じます。そして、涙を流します。
こんなにも傷つき、恐怖を感じている木野は、タフでもエレガントでもない、そう僕は感じました。
そこで、質問です。木野という主人公を描くに当たって、村上さんは従来の主人公像と異なった人物にしようと意識したのでしょうか? それとも、明確に描かれていないだけで、従来の主人公達も、僕達の見えないところで、木野のように、深く傷つき、恐怖を感じていたのでしょうか?
ご回答頂けると幸いです。
(AN、男性、22歳、学生)
僕はこの「木野」という作品が個人的にとても好きです。というのは、この作品を書いているあいだ、木野さんは確実に僕の中にいたからです。僕は彼のことがとてもよく理解できたし、彼が何をどのように感じるかも、とてもよくわかりました。小説を書いていると、よくそういうことがあります。僕じゃない人が、僕の中にしっかりいるということが。そういう驚きがないと、小説って書けないんです。
村上春樹拝