(高野洋キャスター)
Q1:マレーシア航空機撃墜事件の今後の行方について、スタジオには山内解説委員です。犠牲者の遺体を乗せた列車はようやく動き出したようですが、ウクライナ政府と親ロシア派の対立から現地調査もままならない今の状況、果たして打開策はあるのでしょうか?

(山内聡彦解説委員)
A:双方の対立は深刻で、当面こう着状態が続くだろうと思います。ウクライナ政府はきのう、現地調査の安全を確保するため、現場周辺の軍事作戦を停止しました。しかし、近くのドネツク市内では逆に新たな軍事作戦を開始し、現場周辺では依然、緊張した状態が続いています。一方、国際的に孤立を深めるロシアにとって問題は親ロシア派に対してどれだけ影響力を行使できるかです。親ロシア派はロシアの義勇兵や過激な民族主義者などバラバラで、ロシアの統制があまりきかない状態と見られています。ただウクライナ東部への影響力を確保する上で親ロシア派を支持することがロシアにとって極めて重要です。遺体の移送がようやく始まりましたが、現地調査が本格的に行われるまでにはまだ時間がかかるだろうと思います。
 
(高野)
Q2:この事件はウクライナとロシアの地域紛争にどんな影響を与えるでしょうか?

(山内)
A:2つあると思います。1つはこの事件でウクライナ危機に対する国際社会の見方が大きく変わったことです。今回アジアの航空機がヨーロッパで撃墜され、犠牲者もヨーロッパやアジアなどの10カ国に及んでいます。ウクライナとロシアの地域紛争から国際的な紛争に変わった形です。もう1つはロシアに融和的だったヨーロッパ諸国がロシアの対応に怒りをつのらせ、厳しい制裁を求めるようになったことです。アメリカも事件はヨーロッパへの重大な警告だと述べています。このため、ドイツやフランス、イギリスの首脳はロシアが必要な対応を取らなければ、EUとしてロシアへの追加制裁を検討することになるとしています。

▼ドイツ メルケル首相
「事件は政治解決に取り組む必要があることを示している。特にロシアはウクライナ問題に責任を負っている。ロシアの大統領と政府は政治解決に向けて役割を果たすべきだ」。
 
(高野)
Q3:すでにこれまでもアメリカはロシアに制裁を科してきましたが、米ロ両国の対立の行方は今後どうなりそうですか?

(山内)
A:関係のさらなる悪化は避けられない情勢です。アメリカは事件の直前、ロシアのエネルギーなどの基幹産業を標的とした、5回目のこれまでで最も厳しい制裁を科したばかりです。事件を受けてアメリカはロシアへの批判を一段と強めています。オバマ大統領はロシアが親ロシア派への武器の供給を止めるなどプーチン大統領に思い切った決断を求めています。

▼アメリカ オバマ大統領
「プーチン大統領が国境を越えてウクライナへの重火器や兵士の流入を認めないと決定すれば、流入は止まる。/彼は状況を支配する最も大きな力を持つのに、それを行使していない」。

これに対して、プーチン大統領はきのう、ロシアの立場を釈明する異例のビデオメッセージを発表しました。国際的な批判が高まる中、強い危機感の表れとも言えます。
この中で、プーチン大統領は事件の責任はウクライナ政府にあると繰り返し、アメリカは事件を自らの政治目的に利用していると強く非難しました。

▼ロシア プーチン大統領
「ロシアはこれまですべての当事者に流血をやめ、交渉のテーブルにつくよう求めてきた。戦闘が停止していれば、悲劇は起きなかった。(親ロシア派の後ろ盾となってきたロシアへの批判については)誰も今回の悲劇を個人的な政治目的のために利用すべきではない」。

プーチン大統領はG8から排除されたあと中国と連携を強め、アメリカに対抗していく姿勢を示しています。ロシアはクリミアの編入など力の論理を強めており、アメリカとの関係は一段と悪化すると見られています。
 
(高野)
Q4:今後の注目点は何でしょうか?

(山内)
A:事件の真相解明が当面の焦点です。親ロシア派が証拠隠滅の動きを見せる中、国際調査団が一刻も早く現場に入って証拠を保全し、客観的な調査を行うことが重要です。ロシアもICAO=国際民間航空機関の下で専門家の国際調査に協力する姿勢を示しています。ただロシアや親ロシア派が一方的に不利にならないように客観的な調査をすべきだというのがロシアの主張です。ロシアも交信記録など事件に関する多くの情報を持っているはずで、ロシアが調査にどの程度協力するのかも大きなカギになると思います。国際社会の圧力によってこの事件がウクライナ危機の長期的な停戦や和平に向かう大きな転換点になることを期待したいと思います。