保守的傾向 悩む当事者
公認制度 申請に心理的壁
6月は、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどに代表されるLGBTQ(性的少数者)の権利や尊厳を訴え、多様な性を認め合う「プライド月間」だ。性別の捉え方が保守的とされる農村を、LGBTQ当事者はどう見ているのか。農業が盛んな秋田県で、当事者や支援者に聞いた。
雇用申し出も…
男性か女性かの二元的には捉えられないノンバイナリーの五十嵐育子さん(43)は、秋田市在住の社会活動家だ。自身の生活を交流サイト(SNS)で発信し、LGBTQ当事者として性自認に悩む人の相談に応じている。「県内の相談者にはカミングアウト(性的少数者であると公表)していない人が多い。地域社会は閉鎖的で理解してもらえないと思っている」と話す。
そんな五十嵐さんは今年3月から県内で農業アルバイトをしている。大潟村と美郷町で米作りを手伝い、農業の面白さを実感する。農家が「正式に雇用したい」と申し出てくれたが「もし、就農して私の存在が地域社会に軋轢(あつれき)を生じさせたら、農家さんに申し訳ないから立ち去る」と話す。
理解促進道半ば
秋田市を中心に活動する性的少数者の支援団体「性と人権ネットワークESTO」代表の真木柾鷹さん(59)は、自治体とともにLGBTQへの理解促進に努めている。
出生時に割り当てられた性別と性自認が異なるトランスジェンダーで、戸籍の性別を女性から男性に変更した真木さんは、16年前に農業研修をした経験がある。「異性愛規範の農村は性的少数者への拒否反応を示す傾向がある」という。集落機能と生産活動の維持に必要な協調は、多様性や個々の特性を否定することにつながりやすいと分析する。
一方、性的少数者の人権を報じる同市在住フリージャーナリストの三浦美和子さん(50)は「長男は嫁をもらって農家を継ぎ土地を守るという家父長制が機能しなくなってきたので、性的少数者への偏見は自然に弱まっていくだろう」と農村の近未来を推測した。
秋田県は22年、同性同士などのカップルを公的に認めるパートナーシップ宣誓証明制度を導入した。証明書を交付されれば公営住宅への入居や公立病院での面会手続き、生活保護や要介護認定取得のためにパートナーとの関係を証明できる。
11年前に同制度を最初に導入した東京都渋谷区などが行った調査では、25年時点で532自治体が同制度を導入、全国9837組が登録を申請した。秋田県内の申請数は14組で東北6県の最下位だ。
県人口戦略部の藤田良彰専門員は、同制度の申請数が少ない理由を「制度の適用範囲が限定的で行政サービス全般ではなく全国共通でもない。人目を気にして申請に来られない人もいる」と説明する。県は、多様な性についての副読本を教育機関に配布するなど性的少数者への理解促進に務める一方で、制度充実の道を模索中だ。
■取材後記
今月は世界中で「プライド月間」のパレードが開催され、日本各地でもパレードやイベントが多数実施された。立憲民主党や共産党、社民党の代表などは海外39カ国・地域で認められる同性婚を日本でも導入しようと法整備の必要性を訴え、政府は性的少数者への理解を広める「LGBT理解増進法」に基づく初の基本計画を閣議決定した。そんな中で取材した真木さんの「少数であることは異常ではない」との言葉が胸に響く。農村におけるLGBTQ当事者への理解は、当事者のためだけでなく、農業と地域社会存続のための課題でもあると思った。
(齋藤花)
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