ネット通販で事業者悩ませる「カゴ落ち」…7桁入力すると部屋番号までカバーする新手法登場
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インターネット通信販売で、買い手が商品をカートに入れたまま最終的に購入を見送る割合は、平均6割に上る。「カゴ落ち(カート放棄)」と呼ばれ、売り手には大きな機会損失だが、原因の一つは住所を入力する手間といわれる。昨春、日本郵便が導入した7桁の英数字による住所「デジタルアドレス」は、この手間を軽減でき、EC業界ではカゴ落ち対策につながるとの期待が出ている。(山下福太郎)
カートに入れても、10人のうち6人が買わない
「10人のうち6人は『買わずに』去っている」。システム開発会社e―365(本社・東京都千代田区)は、カゴ落ちをそう表した。
同社のサービスを利用する月商500万円以上のEC事業者4374社を対象にした調査では、昨年1~12月の「カゴ落ち率」は62・9%だった。カゴ落ちした商品の総額は、実際に販売できた総額の2・6倍に達したという。
手作業が必要なことが多い住所入力
カゴ落ちには様々な原因がある。
EC業界関係者によると、買い手が商品を吟味する際に仮置きで入れるケースが最も多いとみられ、ほかにも〈1〉合計金額が予想より高くなった〈2〉アカウントの作成が必要〈3〉購入完了までのプロセスが複雑〈4〉途中でエラーが起きた――などが挙げられる。住所を入力する手間は、このうち〈3〉に該当する。
一般的なECサイトの住所入力フォームは、7桁の郵便番号を入力すれば都道府県や市町村、町域までは自動入力できる仕様が多い。だが、番地、マンションやアパート名、部屋番号は手入力する必要がある。特にスマートフォンの場合は、小さな画面上でひらがな、英数字、記号を切り替えながら打ち込むのを煩雑と感じ、カゴ落ちにつながっているようだ。
期待を集める「デジタルアドレス」とは
こうした問題を解決できると期待されるのが、デジタルアドレスだ。昨年5月に日本郵便が提供を開始し、EC業界で実装する例が相次ぐ。
事業者向けにECプラットフォームを提供するGMOメイクショップ(本社・東京都渋谷区)は今年4月、ECサイト構築SaaS「メイクショップ バイGMO」で導入した。
「メイクショップ バイGMO」は主に中小EC事業者が対象で、約1万2000店が利用し、2025年の流通総額は約3800億円だった。これらのEC事業者のサイトは、住所入力フォームの郵便番号の枠にテンプレートで「デジタルアドレス入力可」と記載され、通販の買い手は郵便番号かデジタルアドレスかを選んで入力できる。
7桁のデジタルアドレスを入力すれば、自動で都道府県や市区町村から番地、マンション名、部屋番号が入力フォームに反映される仕組みだ。GMOメイクショップの担当者は「煩雑な住所入力の手間を大幅に削減でき、買い手の購入体験の改善に役立てるはず」と話す。
楽天グループが運営する「楽天市場」でも今年4月、住所入力画面にデジタルアドレスが実装された。店舗数が5万店を超える国内最大級のECモールだけに、他のモール運営やEC事業者での追随の動きにつながると期待されている。
入力ミスによる誤配の対策にも
デジタルアドレスは「カゴ落ち」だけでなく、「ラストワンマイル」の課題解決にも役立つ。
地図情報サービスのジオテクノロジーズ(本社・東京都文京区)が21年、ECや通販事業者らに行った調査によると、住所入力ミスによる誤配の経験が「よくある」と答えたのは27・3%、「たまにある」は36・5%となった。
メールや電話で正しい住所を把握し、発送済みの商品も宅配業者からの返送を待って、再度、発送する手間がかかる。
デジタルアドレスの場合、買い手が7桁の英数字さえ間違えなければ、住所の誤記入が発生する可能性はゼロに等しい。買い手とEC事業者、さらには配達・配送業者にも恩恵が広がる。二兎どころか三兎も追える仕組みである。
【デジタルアドレス】
2025年5月、日本郵便が導入し、7桁の英数字で住所を表す。1968年に3桁または5桁の郵便番号が始まり、98年に現行の7桁化されて以来の新しい試みとなる。日本郵政グループが提供する顧客ID「ゆうID」の登録者約1900万人(2026年5月末時点)を対象に、無料で希望者に発行する。現在の発行数は数十万件。転居しても住所変更と同意の手続きをすれば、同じ7桁のコードを使い続けられる。当面、手紙や宅配は、デジタルアドレスのみで発送できず、郵便番号・住所・氏名の記載が必要だ。
今年3月には法人や個人事業主向けの「ビジネスデジタルアドレス」の発行が始まった。個人向けと同様に7桁の英数字で構成され、住所のほか、企業名や屋号、電話番号、公式サイトのURL、法人番号なども登録情報に含められる。