初公演から112年の宝塚歌劇団、ファンとのあるべき姿考える時期に…劇団側にマネジャー置く仕組みなし・「ファン会」が集客やマネジメント支え「生活全般お世話」するケースも
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麗しいタカラジェンヌが歌い踊る舞台を披露してきた宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)はいま、変革の時を迎えている。2023年、劇団員の女性が死亡した問題で、パワーハラスメントや不適切な労働環境が背景にあったことが明らかになった。歌劇団は25年、組織改革のために、阪急電鉄の演劇事業の一部門から同社の100%子会社として株式会社化。劇団員の大半が社員になり、働き方の改善などが進められている。
熱心なファンが多いことでも知られる歌劇団だが、ファンとの関係でも長年の慣習を見直す動きがある。劇団員の私設ファンクラブが団体購入した公演チケットを会員らに譲り渡す時に、定価以外の金銭を受け取る行為が不正転売に当たる恐れがあるとして、歌劇団は今年2月、定価を原則とするルールを徹底する方針を発表した。
宝塚歌劇団は大正期の初公演から112年を迎える。歌劇団とファンのあるべき姿を考える時が来ているのではないか。記者は未来を見据え、関係者への取材を進めた。
送迎、差し入れ…献身的な応援どこまで
「入場されます。拍手でお迎えください」――。宝塚歌劇団の本拠地、宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)で公演が行われた週末の夜、近くのホテルの宴会場で、ある劇団員の私設ファンクラブ(ファン会)が催す交流会「お茶会」が開かれた。劇団員が登場すると、大勢のファンが熱い拍手を送った。
記者は知人から「舞台とは違う魅力に触れることができる」と聞き、お茶会に足を運んだ。参加者は20歳代から70歳代くらい。男性も女性もいる。質問コーナーでは劇団員が私生活で熱中していることなどを話し、プレゼントの抽選会もあった。アットホームな雰囲気で参加者も劇団員も満足そうだった。
お茶会は大劇場、東京宝塚劇場の公演に合わせて開催される機会が多く、参加費は数千円から1万円前後。1000人ほどが集まることもあり、劇団員は公演後に駆けつける。ファンの女性は「劇団員の個性を知ることができて、楽しい」と話した。
お茶会は、劇団員個人を応援する非公式の団体であるファン会のスタッフが運営をすべて担い、歌劇団は関与しない。一般的に芸能の世界ではタレントの所属事務所などがファンミーティングを催すのに対し、お茶会はファンが中心になって開催していることに驚いた。
記者は2月、報道陣の取材に応じた歌劇団の村上浩爾社長に、劇団員がお茶会に出席していることを把握しているか尋ねた。村上社長は「(お茶会は)業務ではなく、劇団員の考えで、あるいはファンの要望に応じてやっている。舞台に立つという一番大事な仕事に支障が出ない範囲であれば、会社が口を出すものではない」と回答。ファン会については「任意の集まりではあるが、大変ありがたい存在だ」と述べた。
ファン会は非公式の団体なのに、歌劇団は劇団員への一定の関与を許容し、信頼を置いているように見える。取材を進めると、こうした姿勢を取る背景には、歌劇団にとってファン会がチケット販売やファン層拡大などで利益をもたらしてくれる存在だという側面があることがわかってきた。
人気の男役に
歌劇団には花、月、雪、星、
他方、歌劇団には公式のファンクラブ「宝塚友の会」があり、会員は公演チケットの先行販売や限定イベント参加などの優待を受けられる。劇団員個人ではなく歌劇団全体を応援する組織という位置づけで、ファン会とは性格が異なる。
ファン文化に詳しい学習院大法学部の周東
歌劇団側もこうした女性ファンを大切にし、男性の出演を検討した時にはファンからの不評に配慮して見送ったこともあった。1974年の「ベルサイユのばら」のヒットなどで観客の裾野が広がり、80年代には今のファン会に近い形ができた。劇場入りする劇団員をやじ馬から守り、トップスター退団時は劇場前に並んで見送るファン会メンバーらの姿がメディアで取り上げられてきた。
問われる券売力
ファン会は、お茶会を催すだけではなく、団体購入した公演チケットを会員ら購入希望者に再販売して興行にも貢献している。
歌劇団の親会社、阪急電鉄を傘下に持つ阪急阪神ホールディングスの関係者によると、劇場動員が低迷した2010年代、客席をどう埋めるかが課題になった。歌劇団には男役の中から大劇場公演の主役を務めるトップスターを選ぶ「スターシステム」があるが、トップになるための基準は明確には示されておらず、「券売力がなければトップになれないのではないか、という雰囲気があった」という。劇団員をトップに押し上げたいファン会は、新規ファン開拓や券売に一層、力を注ぐようになった。
歌劇団に詳しい演劇関係者は「後方席や平日昼間の大劇場公演など、集客が厳しいところをファン会が券をさばいて支えてきた」と話す。
加えて、ファン会はトップスターら劇団員に食事を差し入れたり、送迎や衣装の準備などを手伝ったりすることもある。
「生活全般をお世話していた」。十数年前に劇団員のファン会で代表を務めていた女性は、そう明かす。朝は電話をかけて起こしてあげて、食事を差し入れ、スケジュールに合わせて送迎も買って出る。ほぼマネジャーのような役割を果たし、衣装やメイク用品の準備も手伝う。サポートにかかる費用は、「私たちの持ち出しでまかなう場面もたくさんあった」。それでも献身的な応援を続けたのは、「成長して、ステージで輝く姿が見たい」という純粋な気持ちからだ。
ただ、ファン会スタッフの業務は基本的に無償で、中には疲弊してしまう人もいたという。女性は、夜勤の仕事を終えてから朝は劇団員をレッスン場所まで送迎する、という生活を続けていたスタッフの姿を覚えている。「『もうしんどい』って急にやめてしまう人も少なくなかった」
現在、ファン会の代表を務めている別の女性は、仕事の傍らサポートを続ける。会の業務に時間を割くため、公演はあまり見られない。「しんどさはあるけれど、劇団員を盛り上げ、助けてあげたいと始めたこと。仕事ではないし、真剣な部活動のような感覚。好きで、自分がやりたくてやっている」と語る。
劇団側、マネジメントを「一任」
「生徒」の慣習
芸能の世界では芸能事務所が所属タレントにマネジャーをつけるのが一般的だ。しかし、歌劇団にマネジャーを置く仕組みはない。劇団員は宝塚音楽学校の卒業生で、入団後も「生徒」と呼ばれる慣習があり、タレントとして扱う意識は高くない。
歌劇団内でも「劇団員のマネジメントを事業に含めるべきだ」という声はあるというが、実現していない。歌劇団関係者は「会社の柱は劇団員なのに、マネジメントを本人とファン会に任せているのは組織のあり方としておかしい」と疑問を投げかける。
宝塚歌劇について研究する大阪音大の松本俊樹・非常勤講師(近代日本演劇史)は「マネジメント行為も含め、ファン会が進んでやっているからいいんじゃないかという見方もできるが、宝塚歌劇を好きだというファンの気持ちを歌劇団が利用している側面がある」と指摘する。「宝塚歌劇の文化は、歌劇団と劇団員、ファンが一体となって作り上げてきた。ファン会との関係を見直す場合には、歌劇団はどういう改革を目指すのかを示す必要があるだろう」と話す。
歌劇団企画部は、ファン会が実質的にマネジメント業務を担っているのではないかと尋ねた記者の取材に対し、「(ファン会などの)お客様との関係においては、様々なものがあることは認識している。時代に合わないものがあれば改善していく」と答えるにとどまった。
回答なし
劇団員側はどう思っているのか。記者はトップスター経験がある元劇団員約10人に所属事務所などを通じて在団時のファン会とのつながりについて尋ねたが、いずれも回答はなかった。
歌劇団がスターを次々と輩出し、海外ミュージカルを国内に紹介するなど日本の演劇文化に寄与してきたことは事実だ。劇団員の育成システムやファンとの強い絆も長い歴史の中で培われ、独特の文化を形成してきた。積み上げてきたものを尊重しながら、何をどう変え、発展させていくのか。歌劇団も見直しの必要性は認識しているはずだ。動向を追い続けたい。
◆活用した主な資料
周東美材「『未熟さ』の系譜 宝塚からジャニーズまで」(新潮社)、宮本直美「宝塚ファンの社会学 スターは劇場の外で作られる」(青弓社)、森下信雄「宝塚歌劇団の経営学」(東洋経済新報社)、中本千晶「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館)、川崎賢子「宝塚というユートピア」(岩波書店)、辻則彦「男たちの宝塚」(神戸新聞総合出版センター)、宝塚歌劇70年史、80年史、90年史、100年史、110年史など。