田中麗奈、“映画女優”としての矜持 「がんばっていきまっしょい」から現在まで【ロングインタビュー②】
2026年4月14日 12:00
今から28年前、映画「がんばっていきまっしょい」への主演、清涼飲料水「なっちゃん」のCMで一躍スターダムを駆け上がったのが、田中麗奈だ。その後の10年間、テレビではなく銀幕の世界を主戦場とした田中は、さまざまな役にひたむきな姿勢で向き合いキャリアを構築してきた。1990年代後半から2000年代前半にかけて、多くの女優が映画には見向きもせず、テレビドラマに出演したがった時代。多感な時期を、誰よりも“映画女優”として志高く生きてきた田中は、いかに1本1本の作品と向き合ってきたのか……。穏やかな口調で語り尽くしてくれたデビューから現在に至るまでを、全3回でお届けする第2回はベテラン俳優陣との現場に思いを馳せる。(取材・文/映画.com編集長 大塚史貴、写真/間庭裕基)
田中が市川準監督の「ざわざわ下北沢」と「東京マリーゴールド」に出演したのは20歳前後の時期。両作とも、市川監督ならではのライブ感と2000年代前半の空気感が漂っており、「東京マリーゴールド」では「ほんだし」のCMで7年間も共演し続けた樹木希林さんと母娘役を演じている。
今作でも、樹木さんの緻密に練られた自然なセリフ回しに感嘆の声が漏れる。自宅アトリエでの「いつか見えてくるはずなのよ」という呟きや、朝食時の「ほら、頑張りなさいよ。(自分が苦手な味噌汁の具材の)オクラあげるから」と口にする際の、声のトーンの変化にも樹木さんの凄みを感じさせられる。
「オクラのシーンは映画の本編でしたね、そういえば。本編なのかCM(今作は『ほんだし』30周年を記念して製作された映画)なのか分からなくなってしまいました(笑)。希林さんとご一緒させていただいて、わたしも準備の大切さを教えられた気がします。しかも市川組の現場でしたから、気が付いたらカメラが回っているということがあるんです。『今のこの瞬間がいいから!』って。撮影というよりも、監督が今見ていることを残すんだという切迫感みたいなものがあった気がします。わたしは恋をしていればいい、ただ傷ついて、時に喜んで……という風にお芝居に集中してさえいれば、あとは監督が画にしてくださっていました」
2005年には、国民的人気シリーズ「踊る大捜査線」のスピンオフ作品「容疑者 室井慎次」に出演し、柳葉敏郎扮する室井の弁護を担当する志の高い若き弁護士・小原久美子に息吹を注いだ。真っすぐに前を見据え走る姿、室井に空港で手弁当を渡す姿など、印象に残るシーンは少なくない。ただ、シリーズものに途中から参加する難しさは感じたはずだ。
「本当に難しかったですし、緊張しました。でも、もう真っすぐにぶつかっていくことで徐々にほぐれていきました。ああいう題材の作品も初めてでしたので、当時は自分のことでいっぱいいっぱいだったかもしれません。このとき、弁護士事務所の所長役で柄本明さんとご一緒しているのですが、04年の『ドラッグストア・ガール』でも共演させていただいているんです。柄本さんの助手役ということで、すごくご縁を感じましたね」
そして、田中にとって20代を代表する作品として「夕凪の街 桜の国」を挙げる人は多いのではないだろうか。原爆をテーマに、過去と現代に生きる2人の女性の物語を描いたこうの史代の傑作コミックを、「出口のない海」の佐々部清監督のメガホンで映画化したもの。原爆投下から13年後の広島に暮らす平野皆実と、半世紀後の現代を生きる皆実の弟・旭の娘、七波の眼差しから目を離すことができない。
原作を読んだ田中が映画出演を熱望した企画だが、現代パートの七波役は想像以上に難しい役どころであったに違いない。
「わたし自身、原作の漫画を持って新幹線で広島まで行って原爆ドームの周囲を歩き回ったりしましたし、被爆者二世の方のお話をうかがったりもしました。資料を読み込んだり、自分なりに調べてみたりもしましたが、当時はインターネットも普及しきっていないし、iPhoneもなかった時代ですから資料も自分の足で探して見に行かなきゃいけない時代でした。
改めて振り返ってみても、やっぱり難しかったです。まだまだ子どもだったわけですが、それでも作品を観たときに、なんとか踏みとどまっているな、強い気持ちを持ってやっているな、とは思いました。佐々部監督とはもっとご一緒したかったのですが、お亡くなりになられて……。愛情深いお人柄でしたから現場でも役者の気持ちをすごく大切にしてくれました。本当に1作品、1作品、これが最後だと思って大切にとり組んでいかないといけませんね」
10年スパンで幾つかの作品をピックアップしながら話を聞いてきたが、ここまでの過程で田中の胸中に演じることに対しての迷いが生じたことはなかったのだろうか。
そういう時期に、日中合作の作品や中国の作品に出演するご縁があったのですが、中国の俳優さんと接してみると日本の俳優とは全然違ったんです。皆さん、演技の学校を出られていて、基礎がしっかりしたうえで伝統芸能や舞踊、殺陣なども習得されていました。それを目の当たりにしたとき、“自然体”というものに対して心細くなったんです。自分は本当に女優ですと胸を張って言えるのか? と疑問を抱いてしまったんですね。そういうこともあって茶道を始めましたし、着物を着たときの風情であったり、演技に繋がるものの技術を持っていなければならないなと思って習い始めたんです」
言葉の端々から、田中の映画への思いの強さが伝わってくる。様々な要素が重なったからであろうが、デビューから10年間にわたりテレビドラマに出演しなかったことからも、それはうかがえる。
「お芝居をしたいと思い続けるなかで出合ったのが、映画でした。映画が自分を見つけてくれて、世に出してくれたという思いが強いので、特別な思いがあるのは事実です。恩返しでもあり、色々なご縁を繋いでくれたということもあります。自分の人生にとって大きなキーワードになる部分だと感じているので、今後も大切にしていきたいと思っています。でも、映画にこだわってドラマに出なかったわけではないですよ」
執筆者紹介
大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。2026年2月から映画.com編集長に就任。
Twitter:@com56362672
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