文脈から「論調」を解析、SNS分析にAI新技術…中国が仕掛けた「認知戦」を調査
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中国による大規模認知戦の実態を明らかにした読売新聞と新興企業「サカナAI」(東京)による共同分析では、サカナAI独自のAI(人工知能)技術が用いられた。AIが投稿の文脈から「論調」を読み取り、従来のキーワード検索では見つけられないナラティブ(言説)を抽出できるのが特徴だ。
単語検索より幅広く
中国によるSNSを使った認知戦では、台湾問題や歴史問題など、自国の主張に沿った様々なナラティブを含む投稿が大量に発信される。認知戦の実態を探るには、各投稿の内容や狙いを体系的に分析する必要があるが、従来のキーワードによる検索では限界があった。
今回のSNS分析に用いられたサカナAIのAI技術には、三つの特徴がある。一つが、投稿文の文脈、ニュアンスからナラティブを抽出できる点だ。
例えば、今回の分析では「日本民衆が抗議活動を行い、高市首相の誤った発言の撤回を要請」という投稿からは「台湾問題への介入と内政干渉」、「日本はドイツほど戦争への反省をしていない」という投稿からは「軍国主義の復活と再軍備の加速」がそれぞれ抽出された。同社は「『台湾』『軍国主義』といったキーワードによる検索では発見できないものも、見つけ出すことができる」と話す。
二つ目が、ナラティブの抽出精度を上げる「ノベルティー・サーチ(新規性探索)」という技術だ。3種類の異なるAI(大規模言語モデル=LLM)で抽出作業を繰り返し、新規のものがあれば追加していく。
最終的に抽出されたナラティブは、より抽象度の高いグループに分類される。同社は「ナラティブが階層的に可視化され、情報空間の大きな流れを把握することができる」と説明する。
三つ目が、投稿者側の狙いなどを推定した「仮説」の生成だ。抽出・分類されたナラティブから無数の仮説を生成し、判断過程や具体的なデータなどの根拠も示す。同社の分析担当者がその内容を精査し、再度分析を指示するなどして、信頼性が高いと考えられる仮説を絞り込む。
同社の伊藤錬共同創業者は、「AIが人間には見いだせないインサイト(洞察)を発見し、人間がそれを見てAIと対話しながらさらなる分析や対策を検討するという、新たな分析の実践の形を今回の共同研究で示すことができた」と語る。
「台湾」や「歴史」11分類 X・微博を分析
今回の分析は、X(旧ツイッター)と中国のSNS・
Xについては、台湾有事を巡る高市首相発言(昨年11月7日)の2週間前の同10月24日から今年1月17日の間に発信された全アカウントの投稿を調べた。
まず、〈1〉「日本」あるいは「Japan」のワードを含む〈2〉投稿に付く「いいね」が10件以上――を満たす約97万件を抽出。続いてAI技術を用い、日本語、英語、中国語で発信された対日批判の投稿32万件を抽出した。
論調の分析は、全アカウントのうち、約60の主要な中国共産党系アカウント(中国外務省幹部、在日中国大使館、中国共産党機関紙・人民日報など)の投稿(左上図の第3層)をベースに行った。その結果、36のナラティブ(第2層)にまとめられ、関連性から「台湾問題・内政干渉」「戦後国際秩序・領土問題」「歴史問題・戦争責任」など11のグループ(第1層)に集約された。
共産党系アカウントの日別の投稿状況(第1層のグループ別投稿数)を見ると、強調されるナラティブの内容が時間とともに変化しているのがうかがえる。全アカウントの投稿状況(同)からは、共産党系アカウントと連動するように活発化し、12月も盛んな状況が見て取れる。
微博についても同様の条件で、全アカウントによる投稿約8万件を分析した。
最終的にこれらの分析結果から、複数の仮説が導き出された。このうちの一つ、「高市首相の国会答弁後、中国が統一的な対日批判戦略を検討してから認知戦を仕掛けた」について、読売新聞が日中双方の政府関係者らに取材し、専門家の意見も踏まえて検証・裏付けを行った。
◆ サカナAI =2023年、元グーグルの研究者デビッド・ハ氏や日本外務省出身の伊藤錬氏らが設立した人工知能(AI)開発の新興企業。研究開発、金融分野や防衛分野でのAI実装に取り組む。企業価値は4000億円規模で、国内の未上場新興企業としては最大級とみられている。
認知戦 可視化に意義…一橋大教授 市原麻衣子氏(国際政治学)
中国は認知戦の手段として、Xを通じた発信を重視している。日本の国際的な信頼をおとしめようとする対外向けと、高市首相を攻撃する対日向けがある。中国が広めようとする言説を詳細に可視化した今回の分析は、認知戦にどう対抗するかを考える上で大きな意義がある。
保守的な高市氏への攻撃は首相就任前からあり、今後も中国が手を緩めることはないだろう。他方で、日本への強硬な姿勢は、日本からの中国批判を高めることにつながる恐れもあるため、中国はより効果的な方法を模索し、新たな言説を展開してくる可能性がある。引き続き注視が必要だ。
中国は世界の華人ネットワークを通じ、多言語による認知戦を各国で展開していると指摘されている。ロシアと協調して、相互に反日的な言説を拡散しているとも言われる。AI技術の活用により、中国による認知戦の実態把握が進むことが期待される。