公演中の着信音どう規制? 講談師・神田伯山さん「自分が悪者役になって、鳴らさないでと言い続けないと」
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芸能分野の公演中に鳴る携帯電話の音は、マナー違反としてどこまで規制すべきなのか。人気講談師、神田伯山の独演会を主催した大阪府羽曳野市の市立施設は2024年に音が鳴った反省から、今年1月は対策として観客に電源オフを徹底。それでも、また鳴り響いた。電波を遮る装置を導入する施設もあるが、完全に防ぐのは難しく、関係者は頭を悩ませる。(布施勇如)
電源オフ・電波抑止…悩む運営側
24年12月、羽曳野市立生活文化情報センターで行われた伯山の独演会で、観客の携帯電話が鳴った。「気持ちが切れちゃった」。伯山は公演を中断し、いったん舞台を降りた。今回、センターは再発を防ぐため、入場時に観客約600人に電源オフを呼びかけ、スタッフが画面を確認。しかし、世話物の演目の聴かせどころで、携帯電話の音が客席の静寂を破った。
伯山は最後まで講談を続けたが、終演後、読売新聞の取材に「残念です。鳴らした人に入場料を返金して、出ていってもらってもいいのでは」と苦言を呈した。「自分が悪者役を引き受けて、『携帯を鳴らさないで』と言い続けないと、他のお客さんに迷惑がかかる」と話す。センターの八尾保宣館長は「繰り返し呼びかけたのに。どうすればいいかわからない」と困惑した。
公演中の着信音は、携帯電話が普及し始めた1990年代からたびたび問題になってきた。郵政省(現・総務省)は98年、出演者、観客の迷惑を防止する目的で、コンサートホールや劇場、演芸場が携帯電話を不通にする抑止装置を使うことを認めた。電波の制限は通信の自由を保障する憲法に反する恐れもあるが、装置の利用を免許制とし、一定の範囲に限定して許容した形だ。
全国の施設に導入されている装置の大半を扱っているという「テレ・ポーズ」(東京)によると、現在約300か所の施設が設置している。ただ、1000席未満のホールで年間80万~100万円程度のコストがかかるため、費用対効果を理由に利用しない施設も多く、羽曳野のセンターは設置していない。携帯のアラーム音は抑止できず、基地局の新設で電波環境が変われば、その都度対応が必要になる。
歌舞伎座(東京)は「装置を使っても携帯が鳴ることはある」とする。歌舞伎役者の四代目尾上松緑は、歌舞伎座での公演中に音が鳴ったとして、過去のブログに憤りをつづっている。
笑いに変える出演者も
他方、公演を止めないよう対処する出演者もいる。シンガー・ソングライターの青葉市子は25年8月、NHK大阪ホール(大阪市中央区)のコンサートで、トーク中に携帯電話の音が鳴り、「鳴ってるでぇ」と笑顔で対応。同ホールには電波抑止装置があるが、電子チケットを提示してもらうために通信環境を確保する必要があり、コンサート運営会社の意向で装置を作動させていなかった。落語家の笑福亭鶴瓶も独演会のマクラで客席から着信音が聞こえ、「(電話に)どうぞ出てくださいよ」とやんわりと笑いに変えることがある。
小劇場「THEATRE E9 KYOTO」(京都市南区)の支配人も務める京都芸術大の蔭山陽太教授(劇場運営)は「大半は、うっかり鳴らすケースだ。故意ではないのに排除してしまえば、芸術の公共性からは問題だろう」と指摘する。同劇場では開演前、コント風に携帯のオフを呼びかける劇団もあるという。蔭山教授は、隣の観客同士で電源オフやマナーモード設定を確認し合うよう促すことを提案。「機械的にアナウンスするのではなく、出演する側と見る側が共感できる時間を作るために、気持ちのこもった働きかけをしていくことが大切だ」と強調する。
記者は、羽曳野の客席で伯山の独演会を2回とも鑑賞していた。携帯電話が鳴ってしまった時の演者の落胆、観客の幻滅をひしひしと感じた。公演会場などでは、自分でも電源オフを何度も何度も確かめるようになった。時折、ステージに集中できなくなるほどに。