『男と女、どっちがずるい? 10代のジェンダー、49の疑問と悩み』
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社会は勝手に変わるのではなく、いろんな人の努力で少しずつ変わる
[文] 集英社
男子も女子もそれぞれにある「呪い」
アル ミソジニーに染まった生徒もいるけど、基本的には真面目ないい子が多いと感じます。「男の子は泣いちゃいけない、男なら我慢しろ、男なんだから頑張れと言われてきたよね」と言うと男子はうんうん頷いてる。自分たちが「男らしさ」の呪いをかけられてきたことは、多くの生徒が実感として持ってるよね。
太田 特にエリート校の生徒たちは、そこに行くまでの環境ですでに親や周囲の期待を強く受けてますよね。いい大学やいい企業に入ることが今の環境の延長であり目標、というのは暗黙のうちに、あるいは明確に感じてるのでは。そういうことも「女子枠」や「女子限定」みたいなアファーマティブ・アクション(*5)への反発の背景にあるのかも。
アル 「逆差別だ」と。ネットでもリアルでも何億回も聞いてます。
太田 女子枠に対する反発は、女子生徒からも結構聞きますね。努力して合格したのに、女子枠だから入れたと思われたくないとか、なにかアンフェアな「得」をしてしまうのはよくないことなんじゃないか、みたいな。その気持ちもわかるんだけど、社会全体の偏りを是正していくための制度で、それによる利益は社会のみんなが受けるわけだからね。あなたの努力を上げ底だと言っているわけじゃない。
アル そう。個人を優遇するためではなくて、社会構造を変えていくためなんですよ。女性が働きながら子育てしづらいような職場環境や、医学や理工分野で女性が極端に少ない現状を変えることがゴール。日本の女子学生は理系の成績も世界一優秀なのに、理系に進む女子は少ない。女子に理系を選んでもらうためには構造を変えなきゃいけない。少数の女性が活躍したとしても、全体の数が増えないと構造を変える力にはならない。それを後押しするための過渡期の制度なんですよ。
太田 その理解はとても大事ですね。
アル 将来ジェンダー平等が実現して、何もしなくても男女が同数になる社会になれば、女子枠はめでたく廃止すればいいんだよね。
ジェンダーの話題に男性が感じる「居心地悪さ」
アル ある女子校の教職員向けの研修でお話ししたんですが、男の先生が「なんでジェンダーの研修なんか受けなあかんねん」とぼやいていたそうです。これが児童虐待やいじめ防止の研修だったら「なんで受けなあかんねん」とは言わないよね。やっぱりジェンダーの話になると、自分が責められているように感じて居心地が悪いんだろうな。
太田 そういうときに男性が、居心地悪さを感じたり、加害者のように言われるのは不当だという感情がわくのは、ある意味仕方ないとも思います。差別を指摘されたときにマジョリティ(多数派)が感じる居心地の悪さというのは、性差別に限らずあるものですから。
アル 文句言わず聞けよ! とは思うけど(笑)、話を聞いてもらうためには、男性が受けている抑圧やつらさに共感する姿勢は必要だと思う。「女の子は翼を折られ、男の子はケツを蹴られる」ってよく言うんだけど、周囲や社会からのプレッシャーを男子はすごく感じている。「女子は就職できなくても主婦になれるからいいよな」みたいな言説も、そういう恨みやつらみから出てると思う。
太田 彼らが今の性差別社会を作ったわけじゃないですからね。私も、あなたたちを責めてるわけじゃないよ、というのは伝えるようにしてます。完璧じゃない社会を変えるために、自分が持っているマジョリティの属性をどう使えるかを考えようって話だよ、みたいな。
アル 性別も生まれた時代も、自分で選べるものじゃないからね。
太田啓子
フェミニズムは実際に社会を変えてきた
アル 中高生からの反応で「フェミニズムって最近生まれた思想ですよね?」というのがあって。SNSだけ見てるとそう見えてしまうのかな。
太田 SNSで見えるものだけが世界みたいな認識だと、ありそうですね……。
アル 第一波フェミニズムというのが戦前からあってね……みたいなことをこんこんと説明して、100年以上続いてるんだよって教えるんですけど。
太田 NHK朝ドラの『虎に翼』も見てほしいなあ。ああいう風に、前の時代に生きてきた人が、小石を積むように前進してきたものの上にみんな生きてるんですよね。
アル その頃は女性に選挙権もなかったんだよって言うと驚かれる。それに、フェミニズムって女性の権利ばかり主張してるように見られるけど実はそうじゃない。例として、近年の刑法改正で強姦罪が強制性交等罪になって罪になる範囲が広がったんだけど、さらに不同意性交等罪に改正。それまでは男性がレイプ被害にあっても強姦罪は適用されなかった。だから、刑法が変わることで男性の性被害者も救済されるようになったんですよね。
太田 そうです。改正前の強姦罪は、とにかく「男性器を女性器に挿入すること」が構成要件で、被害者が女性でも肛門や口への挿入は当てはまらなかった(より法定刑が低い強制わいせつ罪にしかならなかった)。でも、被害者としては、挿入されるのが性器じゃなくて肛門や口でも、性的自由を侵害された苦痛の程度は同じですよね。刑法が制定されたのは100年前の明治憲法下で、審議した国会議員は100%男性だし、それを選んだ有権者も全員男性。その時代にできた条文が、つい最近まで運用されていたのも驚きですが。そういう刑法を改正まで持っていったのは、やっぱり主に女性たちの地道なロビイングや運動の積み重ねでした。
アル だから日本のフェミニズムも大きな成果を残している、男性にとってもいい方向に。あと、中高生にも身近な変化として知ってほしいのは痴漢対策の普及だね。入試当日を狙って痴漢をするという卑劣な行為が話題になって、鉄道会社や警察も積極的に防止に取り組むようになりました。「痴漢は犯罪です! 」って今はそこらじゅうで見る標語だけど、逆に言えばかつては犯罪とみなされなかったわけだよね。「痴漢は犯罪」が常識になったことは大きな前進で、コツコツ働きかけてきた人たちの努力の成果だって知ってほしい。
太田 社会は勝手に変わるんじゃなくて、いろんな人の努力で少しずついい方向に変わってきたってことを若い人に実感してほしいですね。他人事じゃなくて、自分たちもプレイヤーなんだと気づいてほしいな。
旅先の英会話本みたいな実用書として使ってほしい
アル この本は私たちが選び抜いた49の質問に答えてるんだけど、ジェンダーの話をすると聞かれるテンプレ的な疑問はほぼカバーできてると思う。SNSのクソリプとか、モヤる発言をされて辟易してる大人の皆さんにも、想定問答集みたいに使ってもらえるんじゃないかな。
太田 そうですね。言われたらパッと言い返せるように、あらかじめ頭の中に入れておく。旅先の英会話本みたいに実用書として使ってほしいですね。
アル めんどくさいから日常でジェンダーの話をするのはやめようと諦めてる人も多いはずだから、この本を参考にどんどん言い返してください。じゃないと、SNSの悪弊でどんどん社会がミソジニーに傾いていってしまう。
太田 そうならないために、対抗する言葉を社会の中で増やしていきたいですね。この本がその役に立てば嬉しいです。
注釈
*1 メンズコーチ・ジョージ
*3 出典:CNN
*4「非自発的な禁欲者」に由来する、モテない男性を自嘲的にさすネット上のスラング。
*5 アファーマティブ・アクション:社会的な差別による偏りを是正するための積極的な優遇措置。大学入試で黒人学生の枠を設けるといった例がある。
アルテイシア
あるていしあ●作家。
神戸市生まれ。国立大学卒業後、広告会社に入社。2005年『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。同作はドラマ化、漫画化された。ジェンダー、フェミニズム、性暴力、包括的性教育、毒親、家族、恋愛、結婚などをテーマに執筆。全国で講演や授業も多数おこなう。著書『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』(共著)『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『だったら、あなたもフェミニストじゃない? 』等。
太田啓子
おおた・けいこ●弁護士。
2002年弁護士登録、神奈川県弁護士会所属。離婚・相続等の家事事件、セクシャルハラスメント・性被害、各種損害賠償請求等の民事事件などを主に手がける。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。性教育やジェンダーにまつわる子育ての悩みを書いた『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』は大きな反響を呼び、韓国・中国・台湾・タイで翻訳される。他の著書に『100年先の憲法へ 『虎に翼』が教えてくれたこと』等。