[目覚めよJAPAN]金融 学ぶ場広げる…座談会「インフレ下のお金」
完了しました
読売新聞創刊150周年(11月2日)の経済活性化事業「目覚めよJAPAN」の一環で、「インフレ下の『お金』」をテーマにした座談会が8月23日に東京都内で開かれた。資産形成や金融教育の必要性を巡り、三井住友信託銀行の大山一也社長、金融経済教育推進機構(J―FLEC)の安藤聡理事長、作家の原田ひ香氏の3人が活発な議論を交わした。
――物価動向がインフレに変わりつつあり、今年の春闘では賃上げ率が平均で5%を超えた。日本経済が転換期を迎えている。
安藤氏 バブル経済の崩壊以降、ようやく前向きな光が見えてきた。金融経済や資産形成に関する考え方が変わるだろう。より豊かな人生を送るためにお金を自分事として考えることが必要になる。
預金だけ 逆にリスク…三井住友信託銀行社長 大山一也氏
大山氏 日本の個人金融資産の半分以上が預貯金にとどまり、貯蓄から投資や資産形成に目が向けられなかったのは、デフレが大きな要因だ。物価が上がらなければ、資産運用を行わなくても目減りはしない。
一方、インフレ下では支出が増え、物価上昇率を上回るように資産運用しないと目減りする。運用しないことがリスクになる時代だ。資産と支出のギャップを埋めるのが金融商品であり、我々の商品は大きな役割を持っている。
――金融リテラシーを上げるためには何が必要か。
資産の話 タブー視せず…金融経済教育推進機構理事 安藤聡氏
安藤氏 資産形成が進まなかった背景に、お金について話すことをタブー視する文化がある。この文化を変えていかない限り、積極的に資産形成に取り組む環境は整わない。学校や企業、地域のコミュニティーを通じて、金融経済教育を学ぶ場を提供していきたい。問題があったときに相談できる環境も必要だ。
――金融教育にどう取り組んでいくか。
大山氏 大切なチャネルが二つあり、一つが職域だ。当社は企業型確定拠出年金(DC)で取引先企業の従業員に投資教育を行ってきた。
もう一つは学校だ。昨年度だけで116校、1万5000人に金融教育を提供した。学習指導要領の改定で2022年度から高校の家庭科に金融教育が導入され、出張授業の依頼が多数ある。先生も金融教育を受けていない上に、何を見て勉強したらいいのか分からないとの声が多く、我々がガイドブックを作り、好評を得ている。
原田氏 私も高校の先生と話した時、「生徒から『お金は大切か』と聞かれたらどう答えますか」と言われたことがある。「お金はきれいなものではないし、生徒にお金が一番大切だと言いたくない」という気持ちも分かる。でも例えば、労働の対価としてお金は良い単位という面があると思う。お金の根本、お金は汚いものではないと学んでもらうことも大切だ。
安藤氏 業界団体や個別の金融機関などが金融経済教育に取り組んできたが、社会に認知されていない部分があった。従来の活動はさらに強化してもらい、J―FLECは中立公正な組織として、連携や共催の形で認知度を上げていきたい。学校、職域、個人と様々なニーズを具体化して事業を展開していく。
――お金がなぜ大事かと問われたら、どう答えるか。
安藤氏 長い人生を豊かに暮らしていくためには、お金が重要な要素の一つであることは疑う余地がないのではないか。
――原田さんの著書「三千円の使いかた」では、各世代でのお金の使い方が書かれていた。
大山氏 昭和の時代はセカンドライフも短く、金利も相応に高かった。資産運用についてそれほど考える必要もなく、退職金を預金で運用しておけば一定水準の老後生活を送ることができた。しかし、人生100年時代の令和になると、若い時から老後の資産形成に取り組む必要がある。
原田さんの著書で、家計簿をつけて将来使えるお金を把握しておくことが大切と説いているが、これは我々が目指す「ファイナンシャル・ウェルビーイング」(お金の不安を解消し、安心して健やかに生きられること)を実現する普遍的な方法でもある。
――公的年金に対する不安もある中、人生100年時代とどう向き合うか。
大山氏 日本の個人金融資産が消費や投資に向かわない要因の一つに、漠然とした将来不安がある。「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」のアンケートでは、お金に関する不安のトップが老後資金だ。日本の金融機関がリスク性商品を販売する際、年金に言及しないことは大きな問題で、我々は年金の見える化や知識の提供に取り組み、不安を解消していく。
原田氏 年金問題が起きてから、皆が凝り固まったようにお金をため始めた。年金も家計簿と同様に、だいたい月にいくら使うのかを確認し、もらえる年金とどのくらいの差があるのかを確認してほしい。企業には若者の給料を少しでも上げてもらいたい。
――資産運用に一定数の人は恐怖心を抱くが、どうすれば取り除けるか。
長期で少しずつ増やす…作家 原田ひ香氏
原田氏 投資は甘くないと体験を通して感じている。最低5年などと長期で続け、少しずつ増やしていくことが大切だ。
安藤氏 余裕資金を使って長期で積み立て、分散投資を行うことだ。商品選びでは安全性、収益性、流動性のバランスを考えるのも大切。新NISA(少額投資非課税制度)が始まったが、刹那的な商品選びは後悔につながる。
――今後、10年後を見据えた活動は。
大山氏 原田さんの著書の中で「お金は人が幸せになるためのもので、目的になってはいけない」という言葉があったが、まさにその通り。金融教育の目的は一人ひとりが満足度を向上させるためで、これをしっかりと説明することだ。我々もそれを肝に銘じながら活動していきたい。
安藤氏 毎年、全力投球で金融経済教育の学びの機会を追求していく。時代の移り変わりと個人の多様性に即した金融経済教育を提供し、今と未来の暮らしをより良くする資産の形成と活用を支援していきたい。(聞き手は編集局部長 越前谷知子)
金利上昇 運用先見極め…新NISA活用 選択肢
日本銀行が3月にマイナス金利政策などの大規模金融緩和を終え、段階的な政策金利引き上げに転換したことで、「金利のある世界」が実現しつつある。消費者には預金金利の上昇がプラスになる一方、借入金利も上がり、ローンなどの返済負担は増える。金利を意識し、預金にとどまらない資産運用の必要性が高まっている。
日銀によると、国内金融機関の8月の定期預金金利(1年満期)は平均0・033%で、1年前の0・005%から上昇した。バブル期の6%程度には遠く及ばないが、約13年ぶりの高い水準だ。
三菱UFJ銀行は9月2日から定期預金金利を年利0・125%(2年以下)~0・4%(10年)に引き上げた。10年満期で100万円預ければ、1年間で利息は4000円(税引き前)つく計算だ。さらに複利で考えれば、翌年以降につく利息は段階的に増え、10年後には単純計算で約4万800円(同)の利息を受け取れる。
一方、「借りる立場」になれば支払う額は増える。住宅ローン金利は、長期金利と連動する固定型ですでに上昇している。変動型は、銀行が企業に短期資金を貸し出す際の基準となる金利「短期プライムレート(短プラ)」に連動する。多くの銀行が短プラを引き上げており、秋以降、変動型でも月々の返済額が一定程度増える見通しだ。
日銀が金利を引き上げたのは、2年超にわたって消費者物価指数の上昇率が2%を超え、インフレ(物価上昇)が定着しつつあるためだ。2%のインフレ下では、100万円で買えるものが来年は102万円になり、お金の価値が目減りすることになる。預金の利息では補えない物価上昇に備えるには、株式や債券、投資信託といった証券投資も選択肢となる。
企業の好業績を受け、日経平均株価は3万円台後半で推移している。1月に始まった新NISA(少額投資非課税制度)を活用し、リスクを分散できる投資信託商品を購入して長期で運用することも、インフレに負けずに資産を守る手段になり得る。