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親との望まぬ交流懸念
法改正に伴い共同親権を選ぶと、父母双方が子どもの進学先や転居などに関して権限を持ち、離れて暮らす親の子どもへの関わりが大きくなる。また父母が別居する際に親子交流について話し合うよう求める規定も新設された。DV(配偶者からの暴力)のある家庭で育った子どもの立場からは、どう見えているのだろうか。
■PTSDも
共同親権は、離婚後も父母双方が子育ての責任を果たすために導入が決まった。国連の「子どもの権利条約」は「児童の養育・発達について父母が共同の責任を有する」と定めており、海外では共同親権や、子どもと別居の親との交流が続くことは一般的だ。
しかしDVや虐待がある場合は、被害者や子どもの安心と安全を確保することが最重要となる。
父から母への身体的DVを見て育った関西地方の30代女性は、「子どもが最も傷つくのは、会いたくもない親に無理やり会わされること。親の権利を振りかざすことが、子どもの幸せにつながるのか」と問いかける。
毎日酒を飲み、母と兄に激しい暴力をふるう父だった。女性が中学生の時、父が仕事に出た隙に3人で逃げた。父が母のSNSを探し当て、「殺しに行く」とメッセージを送ってきた時は恐怖で眠れず、外出もできなかった。離婚調停で父が親権を主張していると母から聞いた時は、「子育てに関心もなく、私たちの生活を奪った本人が平然と親権を求めるなんて」と激しい怒りを覚えたという。
女性は20代前半まで、威圧的な男性を見るとパニック発作で呼吸が苦しくなった。男性と交際しても、「いつかこの人も私を傷付けるのでは」と感じ、信じ切ることができない。「心の傷は深く、簡単には癒えない」と語る。
家庭に日常的に暴力がある状況が心身に与えるダメージは大きい。子どもへの虐待に詳しい山梨県立大大学院特任教授(臨床心理学)の西澤哲さんは「被害を受ける親と自分を同一視したり、親を守れない無力感を抱いたりし、自己肯定感を破壊される。フラッシュバックなどの心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症することもあり、重大な影響を及ぼす。子どもは双方の親と血がつながっているだけに、身が引き裂かれる思いを抱きがちだ」と話す。
■子の利益
民法は親子交流について、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と規定。親権についても、今回の改正で「その子の利益のために行使しなければならない」と明確に定めた。
だが、DVや虐待に詳しい愛知県弁護士会の岡村晴美弁護士は、「家庭内にDVがあり子どもが別居親と会うことを嫌がっていても、調停で親子交流が取り決められるケースはこれまでいくつもあり、多くの子が傷ついてきた。家裁でDVや虐待による子どものトラウマが適正に評価されているとは言いがたく、子どもの意思がきちんと尊重されるか不安が残る」とする。
中国地方の30代女性は、小学5年の時に両親が離婚。その後、大学に進学して看護師になったが、「『女は大学に行かず、結婚して相手に従え』と言っていた父が親権者だったら、望む進路に進めていなかっただろう」と話す。
父はしつけや家の片付けなど、ささいなことで母をどなり、毎晩のようにドアの向こうから母の泣き声が聞こえてきた。小学3年の時に初めて目の前で母が殴られそうになり、母を守ろうとした弟も突き飛ばされた。それを機に、母方の祖父母の元へ移った。
離婚後も時折父に会っていたものの、名字を変えたことを「(母に)言われたんだろう」と問い詰めてきたり、娘である女性の年齢を間違えたり。「私への愛情は感じなかった」。それでも、当時もし共同親権の制度があったら、「きっと父は求めていた。母への怒りのためだけに私たちの生活に干渉してきただろう」という。
「親権は子どものためにあるはずだが、自分のために主張する親もいる。協議離婚でも調停でも、子どもの気持ちや意見を大切にし、取り上げる機会を保障してほしい」
子どもに及ぶことも
児童虐待防止法は、父母間のDVを子どもへの心理的な虐待だと定義する。本来安心して育つはずの家庭で一方的な暴力が繰り返される状況は、子どもの発達や生活に多大な影響を及ぼすとされる。
内閣府によると、自治体が設置する全国の配偶者暴力相談支援センターには2023年度、計7万4135人(女性7万1331人、男性2741人)からDVの相談があり、半数にあたる3万8289人に18歳未満の子どもがいた。
DVを子どもが直接目撃したり、暴力が子ども自身に及んだりすることもあり、子どものいる被害者のうち2万5625人が、子どもへの虐待についても「ある」と回答した。
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