世界550か所超、今なお増える「風の電話」が問いかける心の復興…変わらず待っていてくれるありがたみ
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回線がつながっていない電話で、故人への思いを風にのせて伝える――。東日本大震災の被災地・岩手県大槌町に設置された「風の電話」には、震災から15年を経た今、被災者遺族に限らず、近親者を亡くした多くの人々が訪れている。さらに、悲しみと向き合うこの電話は、いまや世界にも広がっている。何が人々をこれほど引き付けるのか、8日午後9時から放送するNHKスペシャル「それからの、風の電話」が伝える。遺族らの肉声でつづった力作だ。(文化部 旗本浩二)
「インタビューでは引き出せない感情を切り取る」
「テレビの取材だと相手にマイクを向け、こちらが何らかの意図を持ってインタビューして、引き出したい言葉がある。だけど『風の電話』は、電話がある種の装置になっている。密閉空間で吐露する言葉の力が非常に強く、インタビューでは引き出せない感情を切り取ることができたんです」
今回の番組を担当したNHKプロジェクトセンターの横山友彦チーフ・プロデューサーが、前作にあたる2016年3月放送のNスペ「風の電話 ~残された人々の声~」を制作した当時を振り返る。13年に仙台局に異動後、ディレクターとして主に震災関連番組を制作。その中で出会ったのがこの電話だった。
放送後に突然、米国のラジオ局から「電話の声だけ貸してほしい」
元々は、大槌町に暮らす佐々木
その前作に、思わぬところから反響があった。国際放送のNHKワールドで同番組を放送したところ、米国のラジオ局から問い合わせがあった。「(番組内で紹介された)電話の声だけ貸してくれないか」――。遺族たちの肉声だけでも伝える力があるというのだ。そこでNHKは該当部分の音声を提供した。それに翻訳をつけるシンプルなスタイルで現地で放送したところ、大きな反響があり、再放送まで行われた。
それらがきっかけとなって米国内でも同様の電話を設置する動きが起きた。娘を病気で亡くした女性は、娘が生前、日本の「風の電話」をユーチューブで調べていたことを思い出し、自ら電話を設置。当初は自身がそこに語りかけることが癒やしになったというが、ホームページで「風の電話」について紹介するようになると、多くの人に輪が広がっていったという。
米中心にポーランド、南アフリカなど550か所以上に設置
横山さんによると、こうした電話は現在、米国を中心にポーランドや南アフリカなど550か所以上に設置され、ここ最近、加速度的に増えているという。今回の番組では、原点となった大槌町の「風の電話」を中心に、各地の遺族らの言葉でつづっていく。とりわけ電話口での肉声は、時を経ても変わらず、他人とは共有し難い深い悲しみに満ちており、見ているこちらにも突き刺さる。
大槌町の「風の電話」について、横山さんが振り返る。「当初は被災地で大事な人を亡くした人の利用がほとんどで、それ以外の人々はなかなか立ち入れない感じがありましたが、今では、病死した近親者に語りかけたいなど、突然の死にとどまらず、理由も多様化しています。10年ぶりに取材してそれを感じました」。事故で夫を亡くした女性は現地を訪れ、「電話で話すのは(夫の)死を認めてしまうようで来られなかった」と語ったという。また、大都市から離れ、たどり着くだけでも時間がかかる大槌町だが、「風の電話」発祥の地として外国人の来訪が絶えず、今回の取材でも10組ぐらいに遭遇した。
悲しみ癒やす「グリーフケア」の第一歩
「どうしてここに来るんでしょうね」。横山さんが佐々木さんに尋ねると、「ここに来られることが(悲しみを抱えた)本人たちにとっては大きな一歩だ」と答えたという。本当につらい思いを抱えた人は外出もできないし、行動も起こせない。それを乗り越えて電話ボックスまでたどり着き、受話器を上げて話し始めることで、自身の思いや考えを己の声を通じてしっかり受け止め、気付いていく。それが悲しみを癒やす「グリーフケア」の第一歩となるようだ。
「自分は環境を整えて待っているだけ」という佐々木さん。その姿勢に、横山さんは「15年変わらずに待っていてくれる場所、人がいるということが、痛みを抱えた人、特に震災の傷が癒えない人にとっては、大事なのではないでしょうか」と話す。
「悲しみを吐き出させてあげ、寄り添ってくれる心の復興の形があってもいい」
「悲しみから立ち直るための時間は人それぞれ違う。被災地では、社会基盤の復興は進んでいるが、悲しみ、傷を抱えている人は必ずいる。そういう人たちは、(悲しみを)口に出せなくなって心の中に沈めているだけかもしれない。それを吐き出させてあげて、寄り添ってくれる心の復興の形があってもいい。その一つが『風の電話』なのだと思います。15年たって震災関連の報道が尻すぼみになる中、『風の電話』が震災の記憶とともに世界中に広がっているのは、すごく不思議な現象ですよね。だから、それを伝えることこそが、今回の番組を制作する意味なのではないでしょうか」
決して避けることのできない近親者の死。それとどう向き合うか。震災をきっかけに世界に広がる「風の電話」は、答えなき深遠な問いかけに、ヒントを与えてくれているのかもしれない。
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拡大版の「風の電話~広がる Wind Phone~」も、14日午後10時半からNHKBSで、26日午後11時からBSプレミアム4Kでそれぞれ放送される。