「バブルリング」で人気者だった母親の「シロイルカ遺児」すくすくと、24時間体制で命のバトンつなぐ…年内にもショーに登場
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島根県立水族館「しまね海洋館アクアス」(浜田市)が、生後間もなく母親が死んだ雌のシロイルカ「リーリャ」(1歳)の人工哺育に成功した。成功は国内で2例目。過去の失敗体験を生かしつつ、館を挙げた24時間体制の見守りで命のバトンをつないだ。(浜田支局 桃田純平)
リーリャの母親の「アーリャ」は1999年にやって来た。口から吐き出した泡で水中に輪を作るパフォーマンス「バブルリング」が得意な人気者だった。
アーリャは2024年7月1日にリーリャを産んだ。推定26~28歳。高齢での出産というわけではなかったが、直後に餌を食べなくなり、10日後に乳腺炎で死んだ。
海獣展示課長で、獣医師の三島有紀さん(52)はアーリャが館に来て以来、四半世紀にわたって飼育に関わってきた。「悲しんでいる場合じゃない。アーリャが命がけで残してくれた子どもを無事に成長させたい」。人工哺育に取り組むことを決意した。
アクアスによると、人工哺育は離乳できるかが成否の判断の目安になる。国内でシロイルカの人工哺育に成功したのは、鴨川シーワールド(千葉県鴨川市)の1例1頭のみ。アクアスでは09年に雌の「アンナ」が出産した雌1頭が母乳をうまく飲めなかったために人工哺育を試みたが、人工乳を消化しきれず、生後9日で衰弱死した。
今回使用した人工乳は、鴨川シーワールドでの取り組みや海外の文献を参考にして、犬用や海獣用のミルク、ニシンのすり身などを配合。前回の経験を踏まえ、1回当たりの量を少なくし、時間をかけてゆっくり飲ませるよう心掛けた。
生後約1か月間は、体調に異常がないかを獣医師や飼育員らが交代で24時間観察した。さらに、3時間おきに4人がかりで体を抱きかかえ、胃の中にチューブを入れて人工乳を与えた。三島さんは繁殖プール前の観覧席で仮眠を取るなどして対応したという。
リーリャ誕生の1週間前には、アンナも雄「アラン」を出産。アランは人工哺育ではなかったが、体調の見守りなどが欠かせず、忙しい時は1日延べ約40人の職員が赤ちゃん2頭の世話に当たる総力戦となった。
リーリャは25年2月に離乳。ニシンやコマイなどを食べ、体長222センチ、体重180キロ(今年2月24日時点)にまで成長した。
名前はロシア語で白ユリを意味し、今年1月に命名式が行われた。現在、アランとともに回転や潜水するトレーニングにも取り組み、母親が得意としたバブルリングをマスター。館内のプールで姿を見ることができ、アクアスは年内にもショーに登場させることを目指している。
人工哺育の経緯は海獣技術者研究会などで発表した。東海大海洋学部の村山司教授(認知科学、鯨類学)は「人工哺育の方法は確立されておらず、世界的にも珍しい。ミルクの質や与えるタイミングなどで苦労があったと思うが、非常に難しいことを成し遂げた」と語った。
三島さんは「母がいない分、哺乳や遊びなどでコミュニケーションを取り、色々な行動を引き出せるように工夫した。驚きや不安、感動など様々な感情がわき起こった濃い1年半だった」と話した。
◆シロイルカ= 北極海やその周辺の海で生息している鯨類。生まれたばかりは体色が濃い灰色をしているが、成長とともに薄くなり、白くなっていく。多彩な鳴き声を出すことから「海のカナリア」とも呼ばれる。国内では四つの水族館で計21頭を飼育。しまね海洋館アクアスには7頭いる。