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外出先でイライラすること。それは、用事の前にちょっとトイレを済ませてこようと化粧室に向かうと、必ずといっていいほど女性トイレの前に「行列」ができていることです。筆者は毎回このことを忘れて気軽な気持ちでトイレに向かい、そして毎回のように長い行列を目の当たりにし、毎回のようにイライラします。さらに腹立たしいのは、ふと隣の男性トイレを見ると、行列がない!男性はスーイスイとトイレの中に入っていきます。
筆者の知人女性が夫と10代の息子と3人で家族旅行をする時、この「トイレ問題」に悩まされることが多いと言います。新幹線の駅にある男子トイレはそれほど混んでいないため、急いでいる場合でも、夫と息子は難なくトイレに行けるのだとか。けれど知人女性は、女性トイレの長蛇の列を見て、行くのを我慢してしまうことが多いそうです。
SNSでもしばしば「#女性トイレだけ行列」というハッシュタグがあがっており、女性なら誰もが直面する問題のようです。今回は、なぜ「女性のトイレばかりが行列するのか」問題を考えながら、海外の状況にもスポットを当てます。
男性は理解していないことも
この問題は、近年ようやくクローズアップされるようになりましたが、男性は当事者ではないため、女性のトイレが行列することを忘れてしまうことがあるようです。
先日、ビルの中で行われた会合に参加したら、その場を仕切っている男性が「今から、10分間トイレ休憩です。10分後の何時何分には必ず戻ってきてください」と強めの口調で言っていて、ビックリしてしまいました。会合に参加していたのは40人ぐらいですが、その約半分が女性です。
そのトイレは、ビルに入っている会社の人など会合の参加者以外も使用しています。女性トイレに向かうと案の定、長い行列ができていました。そして一向に進む様子はありません。これはどう考えても時間に間に合わないと思った筆者は引き返し、仕切り役の男性に「女性トイレの行列、見ました?廊下まで並んでますよ、10分では間に合いませんよ」と苦情を言ってしまいました。
なぜ男女の便器の数は同じではないのか
女子トイレの行列について、昔は「女性はトイレに時間がかかるから」ということで片づけられていた気がします。でも近年は、メディアによって「トイレの男女格差」があることが知られるようになりました。
男女のトイレの数は、同じように見えて実際は違います。同じ面積のトイレでも、男性は小便器4台、個室3室があるのに対し、女性は個室4室だけといったケースがあります。男性用の小便器は個室よりも場所をとらないため設置しやすいのでしょう。しかし、上記の例でいえば、女性のトイレのほうが三つ少ないことになってしまいます。
ドイツのトイレは快適でないから、回転率が早い?
筆者は日本とドイツを比較するのが好きです。ことあるごとに「海外では、海外では」と言っている「
ドイツでは州ごとにトイレの数に規定があります。一概にはいえないものの、例えばノルトライン=ウェストファーレン州では、1000人規模が入る会場には、女性トイレに12個の個室があります。対して、男性トイレには8個の個室に加えて12個の小便器。ここの例では、男性トイレのほうが女性トイレよりも八つも多いことになります。日本だけではなく、ドイツでも男性のトイレの数のほうが多いのです。
「トイレが近い」筆者はミュンヘンの中心部のトイレの場所を複数把握していますが、いつ訪れても行列しています。でも不思議なことに、回転はとても早いのです。つまり女性が個室から早めにサッと出てくるため、行列に並んでも、その行列がなかなか進まない……というようなことはなく、あっという間に自分の番が来る印象です。
回転が早い理由については、身も蓋もないようですが、「ドイツのトイレはそれほど居心地が良くないから」というのが理由に挙げられると思います。トイレットペーパーが硬めでゴワゴワであることはさておき、洗ってくれたり、温めてくれたりする機能などはありません。さらに防犯上の理由から、個室のドアと床の間に結構な大きさのすき間があるので、使用中に「あっ、いまドアの前を歩いて、奥に行った人がいるな」と、嫌でも個室の外にいる人の動きが分かるのです。
また、ドイツのトイレの入り口には清掃係の人が座っていることが多く、使用する前や後にチップを渡すのがマナーです。もちろん清掃係の人は入り口にずっと座っているのではなく、個室に入って掃除をしたり、社交的な人だと利用者と話したりしながら、トイレ内を行ったり来たりしています。ドイツのトイレには
何が言いたいのかというと、ドイツのトイレは「落ち着けるような場所ではない」ということです。ドイツのようなトイレだと、心理的に長居はしにくいでしょう。
日本のトイレは快適さがあだに?
長い行列の末にたどり着くことができれば、日本のトイレの個室は、本当に快適です。清潔なのはもちろん、排泄の音を聞こえないようにする音姫があったり、温水洗浄便座があったり。トイレットペーパーだって常備されていて、何より柔らかいです。
先日、筆者が都内の某テレビ局に行った時のこと。打ち合わせの合間にトイレに入ると、何と、個室のドアの内側に「トイレの中で寝てはいけません。発覚した場合は通報します」というような内容が書かれた貼り紙があって、びっくりしてしまいました。貼り紙があるということは、そのテレビ局ではそうしたことが多く発生していたのだと思われます。「トイレで寝る人がいては、行列もできるだろうな」とは思いましたが、過酷な労働でここの従業員は疲れているのかもしれません。
一般の公衆トイレの個室で、寝ている人がいるのかどうかは確かめようもありませんが、排泄や生理用品を取り替える以外のこと、例えばスマホをチェックしたり、一瞬眠ったりなどゆっくりすることは、本人にとってはリラックスタイムであったとしても、行列に並んでいる人にしてみたら、迷惑でしかありません。
「ジェンダー・ニュートラルなトイレ」で起きたこと
この問題を、男女に分けないユニセックスのトイレを設置することで解消しようという動きもあります。でも、設計段階でミスが起きると、とんでもない事態に発展することがあります。「存在しない女たち 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く」(河出書房新社刊、キャロライン・クリアド=ペレス著、神崎朗子訳)という本の中で、こんなエピソードが紹介されています。
英BBCの女性ジャーナリストであるサミーラ・アフマッド氏がヨーロッパ最大規模の文化施設であるロンドンのバービカン・センターで映画を鑑賞した際、休憩時間にトイレに行こうとしたら、トイレの前に尋常ではない長さの行列ができていて、その多くは女性でした。
そのトイレは男女で分かれておらず、全てが「ジェンダー・ニュートラルなトイレ」でした。そして、「ジェンダー・ニュートラル個室」と「ジェンダー・ニュートラル小便器」の両方が設けられていたものの、女性は小便器の方は使えません。結果としてこの施設は、男性が使えるトイレを増やしただけでした。しかも驚くべきことに、使用済み生理用品を捨てるサニタリーボックスの多くが撤去されていたのです。
この本で書かれたジェンダー・ニュートラルなトイレは、「女性のニーズを全く配慮していないトイレ」としてその後、話題になりました。発想は進歩的であっても、設計者が利用者の実際のニーズを分かっていないと、このような笑うに笑えない話になってしまいます。
そうはいっても、欧州では一般論としてジェンダー・ニュートラルなトイレは支持されがちです。上記のような過ちさえ避けられれば、ジェンダー・ニュートラルなトイレにすることで、男性のトイレの待ち時間は少し長くなりますが、女性は待ち時間が半分以下になるとの研究もあります。
何はともあれ、人間に生理現象があるのは自然なことですから、我慢を強いられるのは理不尽です。筆者は気が短く、トイレに長蛇の列ができていると、よほどのことがない限り、そこには並ばず他のすいているトイレを探すことが多いです。探した先でも行列ができていることがありますが……。
ところで筆者がひいきにしている某カフェチェーンでは、難なくトイレを使えることが多いです。何も買わずに出るのは申し訳ないので、筆者のカバンの中には今日も「ひよこ豆チップス」が3袋入っています。(コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)
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