ロシアが「闇バイト」工作、報酬欲しさにうその軍情報送った若者の後悔…関与すれば「死ぬか一生のけがか刑務所行き」
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【キーウ=倉茂由美子】ウクライナ侵略を続けるロシアは軍事面だけでなく、ウクライナ国内での工作活動を通じて社会に打撃を与えようとしている。手先として利用しているのが、ウクライナの若者たちだ。SNSで報酬をちらつかせて勧誘し、ロシアが求める情報を提供させて、犯罪に手を染めさせる――。ロシア版「闇バイト」とも言える手口の一端を、関与した少年が明かした。
キーウにある拘置所で昨年12月下旬、スエット姿のオレクサンドル(17)はうなだれ、短髪の頭をかいた。「なんと浅はかで、バカなことを――」。最高で終身刑にもなる重罪「国家反逆罪」で起訴され、公判が始まるのを待っている。
2024年10月。すべてはスマートフォンに届いた1通のショートメッセージから始まった。
<金を稼ぎたければ、ここをクリック>
南部オデーサで、一緒にいた友人3人にも同じメッセージが同時に届いた。何げなくリンクをクリックすると、通信アプリ「テレグラム」のメッセージ画面に飛び、会話形式でAI(人工知能)が自動応答する「チャットボット」が起動した。電話番号などを打ち込むと、こう表示された。
<防空部隊の位置情報を送れば、報酬>
アカウントはウクライナの電話番号とひも付いていたが、メッセージはロシア語だった。「もしかしてFSB(露連邦保安局)かもしれない」との疑問も頭をよぎったが、試しに地図アプリから適当な原っぱを選び、位置情報を送ってみた。
<50ドル入金>
2日後、スマホに銀行口座への入金通知が届いた。当時、アルバイトを辞めて金に困っていたオレクサンドルは、再びテレグラムでメッセージを送っていた。
放火、爆破、スパイ活動――。ロシアがSNSなどで勧誘し、工作活動に関与したウクライナ人は、英BBCによると2025年までの2年間で800人以上に上り、うち240人が18歳未満だ。動機の大半は「小遣いほしさ」(司法当局者)。ロシアは不安定な経済基盤や不安につけ込み、若者を標的にしている。
工作活動に協力したとして、国家反逆罪で起訴されたオレクサンドル(17)は24年10月以降、SNSでウクライナ軍の位置情報を求められた。計8回で手にしたのは計400ドル(約6万円)。当時は喉から手が出るほど欲しかった。
東部ドニプロペトロウシク州出身。闘病していた母が21年に亡くなり、看病してきた父(54)が修理工の仕事を再開しようとした頃、侵略が起きた。
地元は激しい戦闘にさらされ、オレクサンドルはより安全な南部オデーサへ移り、妊娠中だった姉(27)と暮らした。姉に負担をかけまいとパン工場で夜間に働き、毎月約2万フリブニャ(約7万円)を稼いで一部は父に送金したという。
だが、学校のオンライン授業との両立は厳しく、仕事を辞めざるを得なかった。そんな時、あの「報酬」のメッセージを見た。片手の一瞬の操作で50ドル。高額ではないが、つらいパン工場の日当より高かった。
「渡河地点。700~800人の兵士がいる」。うその位置情報だとばれないよう、橋の近くや廃屋がありそうな山奥などの地点を選び、信ぴょう性の高そうな情報も書き足した。現地の写真を送るよう指示された時には、ネットで検索した画像を送っていた。
25年2月の早朝、ウクライナの情報機関「保安局」(SBU)がアパートに押しかけ家宅捜索を受けた。携帯の履歴などから、その場で拘束された。「うその情報を送っても反逆罪になるなんて思わなかった」
面会に来た父は、責めずに抱きしめてくれた。でも手錠でつながれた自分は、父の背中に手を回すこともできない。最も後悔した瞬間だった。逮捕をきっかけに事件書類を読んだり、訴訟制度を調べたりする中で、「法律を学び弁護士になりたい」という夢を持つようになった。「でももう、それもかなうか分からない」
SBUや警察は、若者を守ろうと啓発活動に力を入れる。ネット情報に触れ続けている若者にはあえて、各校を回って対面での特別授業で「現実」を見せる。
クリスマス休暇を控えた昨年12月、西部リビウの学校の教室に、カーキ色の目出し帽をかぶったSBU職員が現れた。騒がしかった教室に緊張感が生まれた。
不穏なBGMに合わせて、編集された軍用車放火などの事件映像や、数千ドルを持ちかけるメッセージでの勧誘事例などの動画を再生。加害者になるだけでなく、爆発に巻き込まれたりして死亡した少年たちのケースも紹介した。「死ぬか、一生のけがか、刑務所行きか――。関与した者を待ち受けるのは三つしかない」と強い口調で伝えた。
授業を受けた女子生徒(16)は最近、「簡単な仕事で7000ドル」とのメッセージを受信したといい、こう憤った。「ロシアが私たちの人生を道具としてしか見ていない証拠。こんな策略に乗ってはいけない」(呼称略)