外は氷点下10度、暖房止まり「こんな厳しい冬は経験ない」…攻撃止まず疲弊する国民に広がる「領土譲歩」容認論
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[ウクライナ侵略4年]遠い和平<上>
暗闇に包まれたウクライナの首都キーウの集合住宅。その一室で6歳の息子を育てるシングルマザーのアラさん(40)がカセットコンロで夕飯を用意していた。室内を弱く照らすのはUSB給電式ライトだけだ。
「こんな厳しい冬は経験したことがない」
外気温は氷点下10度。ベッドの上にテントを張り、コンロで沸かしたお湯を入れたペットボトルで布団を暖め、息子と添い寝する。
集合住宅は2025年11月25日、ロシア軍の攻撃を受け、住民2人が亡くなった。以来、ガスと暖房の供給が止まり、電気も1日2時間使えるかどうかだ。
侵略直後は隣国ポーランドに避難した。一般家庭に身を寄せ、衣類は隣人にもらった。ただ次第に周囲も変化していく。ポーランド政府の支援が打ち切られ、「よそ者は帰れ」と心ない言葉も耳にした。23年末に帰国したが、待っていたのは露軍の攻撃におびえる日々だった。眠れぬ夜が続き、睡眠薬を買ったが、「警報に気付かず逃げ遅れるのが怖い」と服用できない。
大寒波が訪れたこの冬、ロシアは数百機規模の無人機(ドローン)とミサイルで発電施設や送電網に集中攻撃を仕掛けた。気温は氷点下20度まで下がり、市民生活に深刻な影響が出た。キーウでは一時、70%の地域が停電に陥った。
ウクライナ国民を疲弊させるロシアの狙いは成果を上げている。調査機関「キーウ国際社会学研究所」(KIIS)が2日発表した世論調査では、ロシアの再侵略を防ぐ「安全の保証」が米欧から提供されれば、ロシアに東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク州)を明け渡すことを容認するとの回答が40%を占めた。侵略直後の調査では「平和のために領土を諦めてもよい」との回答は10%だった。譲歩を容認する世論が広がりつつある。
圧力はロシアからだけではない。ウクライナは米国からもドンバス地方からの軍撤退を求められている。
「トランプ大統領はウクライナにのみ妥協を求めている。不公平だ」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は17日、米メディアのインタビューで不満を隠さなかった。厳寒の停電多発、米露の圧力、兵力不足、相次ぐ汚職事件の発覚――。「四重苦」にゼレンスキー氏はいらだちをにじませる。もっとも「領土割譲を容認すれば国民が私を許さない」(ゼレンスキー氏)ため、安易に妥協も出来ない。
欧州の支援にも限界がある。ドイツの調査研究機関「キール世界経済研究所」によると、24年までウクライナへの軍事支援額で米国が半分近くを占めていたが、25年にトランプ政権が発足してから、ほぼ停止した状態だ。25年の総額は前年比11%減の308億ユーロで、22年以降で最低だった。欧州は、抜けた米国の穴を埋めきれていない。
特に米国の地対空ミサイルシステム「パトリオット」の不足は、防空能力の低下に如実に表れる。英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」によると、露軍のミサイル攻撃に対する迎撃率はこれまでの平均60%から、今年1月上旬に36%まで低下した。
ゼレンスキー氏は18日、26年は迎撃ミサイル購入などの防空力強化に150億ドルが必要との見通しを示し、支援強化を求めた。ただ、これまでの支援表明は英国やノルウェーなどからの5・8億ドルにとどまる。
ウクライナの元情報政策副大臣のドミトロ・ゾロトゥヒン氏は悲観的だ。「今できるのは可能な限り前線で持ちこたえ、生き残ること。それ以外の未来を描くのは難しい」。そして英国の作家ルイス・キャロルの著作「鏡の国のアリス」の有名なセリフを引用して現状を憂えた。「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」
24日でロシアによるウクライナ侵略の開始から4年。これまでになく苦境に追い込まれたウクライナ。和平への道は見えない。