蒸着!魔空空間へ!令和版ギャバン始動…特撮レジェンド 「仮面ライダーに『おのれギャバン』と言わせたい」
完了しました
「秘密戦隊ゴレンジャー」に始まり、「太陽戦隊サンバルカン」「侍戦隊シンケンジャー」……。恐竜に車、忍者に警察とテーマを変え、敵を変えながら、50年に渡って子どもたちのヒーローであり続けた「スーパー戦隊シリーズ」が今月、放送を終了した。代わって今月15日始まったのは、「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」。なぜ今、チームでなく、昭和末期のヒーロー、ギャバンに? 平成仮面ライダーシリーズなど、特撮界のレジェンド、東映の白倉伸一郎・上席執行役員(60)にその狙いを聞いた。(文化部 宮嶋範)
「全部、ライダーのせい」いきなり核心に
「はっきり言えば、仮面ライダーのせいですね」。白倉がいきなり、核心に切り込んだ。「ライダー」と「戦隊」は長く、「スーパーヒーロータイム」枠で、日曜朝に30分番組として連続で放送されていた。だが近年、話題性や、動画配信サービスなどでの視聴、グッズ売り上げなどの経済的な面で、好調が続くライダーとの差が隔絶していたという。
特に大きな差は、ライダーの場合、過去の作品にも熱烈な支持が寄せられること。放送中の作品はもちろんだが、かつて楽しんでいた大人たちが過去作を視聴し、スピンオフ作品があれば見たり、新たにグッズが売り出されれば購入したりと、強力な後押しがあるのだ。一方、戦隊にはそうした動きは微々たるもの。つまり、「戦隊ファンは卒業しちゃうけど、ライダーファンは卒業しない」。その差が見過ごせないレベルになってきたということのようだ。
毎年のてこ入れもマンネリ解消できず
もちろん戦隊も毎年、てこ入れはしてきた。色違いのスーツを身にまとった5人程度の戦士が、地球を狙う悪の組織と戦う――、この基本線は壊さないように様々なアイデアをひねり出してきた。
近年では、2018年放送開始の「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」で、一つの作品に二つの戦隊を出すという発想を打ち出した。21年に始まった「機界戦隊ゼンカイジャー」は、メンバーのほとんどをロボットにした。残念ながら、それらもマンネリズムを打破するまではいかず、「しがらみを取っ払って、全く新しいヒーロー像を作るために、新たな枠組が必要だった」と語った。
「ギャバンは、なんでああなっちゃったのかわからない作品なんです」
そんな中、なぜ全く新しい企画ではなく、1980年代に放送された「宇宙刑事ギャバン」の名を冠した作品にしたのか。白倉は「新作を突然やっても、視聴者は置いてけぼりになる。それはもったいない」と指摘する。昔のファンを新しいファンにしていく意味で、かつて誰もが知っていたヒーロー「ギャバン」は格好の題材に映った。
元祖「ギャバン」は82年、メタリックな「コンバットスーツ」を身にまとう全く新しい特撮ヒーローとして登場。米映画「スター・ウォーズ」でジェダイの騎士らが使うライトセーバー風の「レーザーブレード」を武器に、「魔空空間」と呼ばれる異次元空間で戦う。その斬新な発想に当時の子どもたちは熱狂した。続編「宇宙刑事シャリバン」「宇宙刑事シャイダー」などに受け継がれ、メタルヒーローシリーズは99年まで続いた。
今見れば、元祖は突っ込みどころが満載だという。「なんでああなっちゃったのかわからない作品なんです。宇宙刑事と銘打つのに、舞台は基本的に地球。宇宙人がわざわざ訪れる。しかもギャバンは魔空空間で戦う。それだと地球刑事、異次元刑事だろ、と。不思議なぐらい宇宙刑事じゃない」。だが、とう当時の制作者たちの自由さが、新シリーズを始めるうえで心強く思えた。「戦隊シリーズが長く続き、作り手も理屈っぽくなった。ギャバンの非凡な発想や、はっちゃけたDNAを受け継げたらいい」
あえて既存の看板を掲げておくことで、いい意味で予想を裏切ってやろう、という気持ちもある。「ギャバンを出したことで、一種の“侮り”も出てくると思うんです。次はどうせ『シャリバン』だろう、とかね。そうでなかったときの驚きは際立つでしょ」
今をときめく仮面ライダーも、「仮面ライダーBLACK RX」の放送が終わった1989年からテレビシリーズは長い空白があった。その後、メタルヒーローシリーズが終わった翌年の2000年、リアル志向やストーリーの難解さなど、昭和の仮面ライダーとはひと味違った「仮面ライダークウガ」が新たに始まった。クウガに始まる「平成ライダー」シリーズ人気は令和の今も続いている。その立役者の一人だった白倉が言う。「令和版『ギャバン』は『クウガ』以上に激しくジャンプアップしてくれるはず。今度は仮面ライダーに『おのれ、ギャバン』と言わせたい」
今後は2年目に入る作品も…?
今回の「ギャバン」は、東映が手がける新たな特撮シリーズ「PROJECT R.E.D」の第1弾という位置づけとなる。第2弾以降がどんなものになるかは全く未定だ。だが、これまでスーパー戦隊シリーズは毎年、世界観を変えてきたが、今後は、通常は1年交代だが、同じ主人公で2年目に突入するなど、番組の立て付け自体を変えることも視野に入れている。
白倉は「せっかくファンになってくれた子たちも、全く別のメンバーや世界観の番組が始まれば、卒業していってしまうのは当たり前ですよね」と語る。「少子化の今、これまでのサイクルが時代に合わなくなってきた」
新しいヒーローを作るうえで難しいのは、動画配信サービスでいつでも見られるようになった過去の人気シリーズが“敵”になってくること。
新ヒーローは、過去のヒーローたちの物語より面白いのかどうか、比較で語られてしまうからだ。しかも、放送では毎週1話しか見られないが、配信ならば、その気になれば過去の作品を全話一気に視聴できる。それでも選んでもらえる作品に仕上げなければ戦えないのだ。その意味で、「(2009年から放送された)『侍戦隊シンケンジャー』は(その後の戦隊シリーズの)最大の敵でしたよ」。その後、人気俳優となった松坂桃李主演の人気作を挙げた。
とはいえ、世界観を維持してシリーズを続ければ、その問題点も強みに変わりうる。「新作を見て、世界観がつながる過去作を見てもらえれば、この世界観の中にファンを囲い込むことができる」と力を込めた。
別の地球に別の「ギャバン」
「スーパー戦隊」の衣を脱ぎ捨て、新たに挑んだ新ヒーロー「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」。白倉よりも二回りほど年下のチーフプロデューサー・久慈麗人(37)は「無意識に戦隊という枠にとらわれていたけど、ヒーローの魅力は何かと一から向き合えた」と語る。
舞台を、様々な宇宙人たちが共生する時代になった地球に設定。銀河連邦警察の捜査官・
いくつもの宇宙をまたぐ世界観を、「ドラえもん」の映画に例える。「のび太たちが、別世界で友達と仲良くなって、また家に帰る、みたいな映画での交流をテレビで毎話するのは面白いんじゃないか」。主人公のギャバンも、別のギャバンや、各地で出会う人々と“合同捜査”に当たる。
一方で、金属質な外見に加え、「1ミリ秒」という短時間で変身する際のかけ声「蒸着!」や、引きずり込まれると敵が強くなる「魔空空間」といった昭和版の設定はきっちり生かした。変身直後、「では、蒸着プロセスをもう一度見てみよう!」とナレーターが語り、スローで再び変身シーンを流すお約束もそのままだ。
「昔の『ギャバン』の設定の話になると、企画チームも前のめりになって盛り上がった。視聴者にもきっと楽しんでもらえるポイントなので、盛り込みたかった」
監督は元熟練スーツアクター…プロデューサーもヒーローショー経験
実は久慈は入社前、スーツアクターとしてヒーローショーに出演していた異色の経歴の持ち主。「足を開く幅、背筋の伸ばし具合にもスーツアクターはこだわる。CGではなく実物が動いているぶん、子供たちが勇気をもらえる度合いが全然違う」。さらに、今作の監督・福沢博文は、「シンケンジャー」などでスーツアクターとして活躍していた。“現場”を熟知したスタッフ陣が、特撮ヒーローならではの魅力を高める。
「鬼滅の刃」「チェンソーマン」など、最近は日本発のアニメ映画が世界的に人気で、米国発のCGを駆使したヒーロー映画も好評だ。だが、特撮番組が生み出す生の造形物の迫力は、それらに引けを取らないととらえている。スーパー戦隊のリーダーの色・レッドを引き継ぎ、赤く輝くコンバットスーツのギャバン・インフィニティ。子どもたちの心に火を付けるか、注目したい。