原潜保有論が問う 政権の地政学

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POINT
■自民・維新の連立政権が発足し、合意書には積極的な外交・安全保障政策が列挙された。原子力潜水艦を念頭に置いた「次世代の動力」潜水艦保有もその一つだ。

■原潜は強力だがコストが高く、政府内には慎重論も根強い。とりわけ日本の地の利を生かしたチョークポイント防衛がおろそかになるとの懸念が垣間見える。

■日本単独の防衛力強化と、米国や豪州との連携強化のどちらの理念も、原潜保有論に投影されうる。

■原潜の要否は、太平洋と中国大陸の間に位置する日本が、中国の進出をどう抑止し、米国には何を期待できるかという地政学上の自己認識にかかっている。
政治部 上村健太

 2025年10月21日、自民党と日本維新の会による連立政権が樹立され、高市内閣が発足した。「ブレーキ役」を自任してきた公明党が連立から離脱し、自維両党が交わした連立政権合意書には、積極的な外交・安全保障政策が列挙された。原子力潜水艦を念頭に置いた「次世代の動力」を活用した潜水艦保有もその一つだ。高市政権の外交・安保政策を評価するにはまだ早いが、今後を占う視点として、本稿では原潜保有論に着目した。防衛に加え、外交・財政・科学・教育など広範な論点を含んでおり、総合戦略が試されるテーマだからだ。これらの論点にぜひ地理も加わることを望みつつ、議論を見守る視点の提示を試みた。

首相の外交・安保観

原子力空母「ジョージ・ワシントン」でトランプ米大統領(右)と登壇した高市首相(25年10月28日)
原子力空母「ジョージ・ワシントン」でトランプ米大統領(右)と登壇した高市首相(25年10月28日)

 まず、高市政権の基本的な姿勢を確認しておく。高市首相の保守的な政治信条はよく知られている通りで、「強い国家」「強いリーダー」像を想起させる発信も目立つ。25年10月24日の所信表明演説では「力強い外交・安保政策」「力強い経済政策」といった言い回しが多用され、果断な印象を打ち出した。

 外交面では、首相就任前の同年4月に台湾を訪問。頼清徳(ライチンドォー)総統と会談し、「民主国家としての防波堤となる民主主義のチェーンの強化」を確認した。中国共産党機関紙傘下の環球時報が「保守タカ派の代表人物」と評するなど中国・韓国には首相への警戒感があった。

 自民党内にもこうした評価に同調する声があったが、首相就任前後の言動には現実路線に立とうという意思も見受けられた。政権発足にあたり、安倍内閣で首相秘書官、首相補佐官を務めた今井尚哉氏を内閣官房参与に起用した人事が代表的だ。

 安倍元首相は、「戦後レジームからの脱却」を掲げた第1次政権が短命で終わった反省から、第2次政権では観念的目標を前面に出さず、経済重視の姿勢を打ち出した。今井氏はそうした実利重視の政策立案を支え、歴史問題においても安倍氏に「(靖国神社を)参拝するならば秘書官を辞める」と迫ったこともあった(注1)。

 閣僚在任中もたびたび靖国神社を参拝してきた高市氏は過去、首相に就任した場合でも参拝を継続すると明言したこともあったが、25年総裁選ではその姿勢を変え、同年10月の秋季例大祭は参拝を見送るなど外交的な下地作りに努めた。

 就任直後はこのアプローチが奏功した。10月末、首相はアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開催された韓国で、中国の習近平(シージンピン)国家主席と会談し「戦略的互恵関係」の維持を確認した。左派で過去には反日的な発言で知られた韓国の李在明(イジェミョン)大統領との会談では、「日韓関係を未来志向で安定的に発展させていくこと」で一致した。その直前の同28日には、東京でトランプ米大統領と初めて対面で会談した。神奈川県横須賀市に停泊中の米原子力空母上で、首相とともに演説したトランプ氏が「日米同盟は世界で最も素晴らしい関係だ。太平洋の中で平和と安定の土台となっている」と述べるなど、日米の蜜月ぶりを印象づけた。トランプ氏が、首相と腕を組んで歩く写真をSNSに投稿するなど、首脳同士の関係構築も話題を呼び、外務省は「100%成功」(幹部)と手放しで評価した。

 しかし、11月の衆院予算委員会で首相が、中国が台湾を海上封鎖した場合、武力行使を伴えば台湾有事は「存立危機事態になり得る」と答弁したことで、日中関係は急速に悪化することとなる。答弁は、米軍の来援など前提条件を仮定した上で「個別具体的な状況に応じて総合判断する」と結論付けており、従来の政府見解を変更したわけではない。ただ、日本政府が台湾に関して一貫してきた曖昧戦略からは踏み出しており、中国は「戦後国際秩序を破壊し、日本の侵略を受けたアジア諸国への公然たる挑発」などと激しく反応。国連や各国への宣伝戦を始めた。首相の認識自体は間違っていないが、口に出したことで答弁は意図しない展開をもたらしてしまった。

 高市政権の外交・安保政策の成否は、強気の持論をいかにコントロールして実利を取るかがカギだという趣旨の指摘をよく耳にするが、それを裏付ける経過をたどっている。

原潜保有論

 25年10月20日、自民と維新が交わした「連立政権合意書」には、社会保障や政治改革など12分野の政策について、実現を目指す具体策が列挙された。外交・安全保障分野では、国家安保戦略など3文書の前倒し改定と、原潜を念頭に置いた新型潜水艦の保有が盛り込まれた。該当部分を引用する。

 「長射程のミサイルを搭載し長距離・長期間の移動や潜航を可能とする次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦の保有に係る政策を推進する」

 VLS(Vertical Launch System)はミサイルを発射する「垂直発射装置」のことで、海自ではイージス艦などに採用されている。既存の海自潜水艦には魚雷発射管が水平方向に取り付けられており、魚雷のほか対艦ミサイル「ハープーン」も発射できるが、VLSを搭載することでより大型で長射程の弾道ミサイルなども発射できるようになる。

 原潜保有論は過去にも浮上したことがあるが、今回の保有論は、22年末の3文書改定で保有が決まった反撃能力を論拠とする。反撃能力を担う長射程ミサイルは、車両、航空機、水上艦といった発射母体を分散させることで、敵の攻撃に対する残存性を高めることができる。とりわけ海中に存在する潜水艦は高い残存性が期待される。そのため、VLS搭載潜水艦は、22年末に改定された3文書の一つ「防衛力整備計画」ですでに取得方針が示されていた。ただ、その時点では動力の変更には言及されておらず、25年9月に防衛省の「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」がまとめた報告書で、「次世代の動力を活用することの検討」が促された。

 連立合意書に取り込まれた「次世代の動力」は、全固体電池など非核の新技術も含んでいるが、政府関係者は「原子力を念頭に置いたものだ」と口をそろえる。小泉防衛相も11月12日の参院予算委員会で、原潜保有について「議論するのは当然だ」と答弁するなど含みを持たせる発言を繰り返している。

 政府関係者によると、防衛省内では数年前から一部の背広組幹部が「通常動力型潜水艦にVLSを搭載しても速力が足りないため、原潜に搭載すべきだ」と検討の必要性を唱えるようになった。ミサイル発射後は潜水艦の位置が敵に特定されるため、攻撃から逃れるために速力の高い原潜が必要になるという指摘だ。

 原子力の利用を「平和目的」に限った原子力基本法との整合性も政治的には整理が必要となるが、防衛政策上の合理性として、実は防衛省・自衛隊を含めて政府内には慎重論が根強い。その内容は後述するとして、大づかみではあるが潜水艦の基本を確認しておこう。

通常動力と原子力

入港した「たいげい」(22年4月6日、神奈川県横須賀市の海上自衛隊横須賀基地で)
入港した「たいげい」(22年4月6日、神奈川県横須賀市の海上自衛隊横須賀基地で)

 潜水艦は水深数百メートルの海中を航行し、魚雷やミサイルで敵の水上艦や潜水艦を攻撃できる。相手に居場所を気づかれない隠密性が最大の強みであり、機密の塊だ。海上自衛隊の場合、乗員は航海日数を家族にも口外してはならず、家を出る際に持ち出す下着の枚数でおおよその帰宅時期を察してもらうしかない。

 海戦における最強兵器と称されることもあり、第2次世界大戦期、米軍潜水艦は日本海軍艦艇201隻を撃沈した。日本商船(500トン以上)は1113隻撃沈され、米軍潜水艦による日本船舶の被害は全体の約62%を占めた(注2)。これにより日本側は継戦能力が破壊され、敗因の一つとなった。

 輸出入の合計量(トン数ベース)の99%以上を海上輸送が占める日本にとってシーレーン(海上交通路)は生命線そのもので、海自は過去の戦訓から戦後、哨戒機や艦艇による非常に強力な対潜戦(対潜水艦戦)の態勢を作り上げた。ロシア(ソ連)や中国潜水艦が発する固有の雑音(音紋)を音響探知機(ソノブイ)などを使って地道に収集・分析・蓄積し続け、日本は世界有数の「対潜戦大国」となった。潜水艦開発においては、日本は戦前からイノベーティブな面があり、現在でもその水準は高い。

 現代の潜水艦は動力によって、通常動力型潜水艦と原子力潜水艦に大別される。現在22隻体制で運用されている海自の潜水艦は全て通常動力型だ。

 通常動力型は基本的に、ディーゼルエンジンと蓄電池を動力源とする。海面近くの浅い層を航行するモードではエンジンで発電し、蓄電池に充電しながら航行する。潜水時は蓄電池とモーターで航行するが、充電のため定期的に浮上してエンジンを回すモードに切り替えねばならず、この時に発見される危険性が非常に高い。AIP(Air-Independent Propulsion=非大気依存推進)装置やリチウムイオン電池の実用化などで潜航可能時間は徐々に延びているが、数週間が限界と言われている。原潜に比べて速力は劣り、海自潜水艦はいずれも水中で最大20ノット(時速約37キロ)程度だ。航続距離も短い。一方、一般的に静粛性では原潜より優れ、艦体の小型化が容易な分、潜航中の被探知リスクは相対的に低いとされる。海中で着底しての待ち伏せにも向く。

 これに対し、原潜は原子炉を動力とする。食料補給や乗員の健康管理を除けば浮上する必要がないため、数か月の連続潜航と長距離運用が可能だ。俊足でもあり、量産が続いている米国の攻撃型原潜「バージニア級」の水中速力は最大34ノット(時速約63キロ)とされる。原子炉から得る大電力により、敵を発見するための強力なソナー(水中音波探知機)など優れた機器も使用できる。原子炉は完全停止ができないため、静粛性では通常型に劣るが、発見された後でも俊足を生かして回避行動を取りやすいという利点はある。保有国は米中露英仏印の6か国のほか、豪州、韓国、ブラジル、北朝鮮でも保有計画が進んでいる。

 原潜はさらに、戦略原潜と攻撃型原潜に大別される。戦略原潜は核ミサイルの搭載を目的とした潜水艦だ。自国の国土が核攻撃を受けて壊滅しても、海中に秘匿しておいた戦略原潜が相手国に報復できる状態を維持することで抑止力とする核戦略を担っている。

 攻撃型原潜は通常動力型と同様に魚雷やミサイルで敵艦を撃沈する任務を担うほか、バージニア級などは通常弾頭のミサイル用にVLSを搭載している。

自衛隊内での賛否

 元海自潜水艦隊司令官の矢野一樹氏は、攻撃型原潜の性能上の優位性を全面的に認め、保有を求める。増大する中国海軍の脅威に対抗しつつ、北朝鮮・ロシアへの監視・哨戒行動を担保するには通常動力型潜水艦の機動力・探知能力では足りず、原潜の機動・探知能力が要求される(注3)という主張だ。実際に中国の海上兵力数は日本を大きく上回っており、質も引き続き急速に向上させている。日本が対抗する上で、単艦での戦闘力に優れる原潜に期待するのは自然な発想と言える【図1、2】。

 一方、元海自自衛艦隊司令官の香田洋二氏は「原潜は優秀な装備だが、保有には大きな金銭的、時間的、人的コストを要し、失うものが大きすぎる」として慎重論を唱える。

 コストの一例を挙げると、最新の海自潜水艦「そうげい」の建造費が約736億円で乗員70人なのに対し、米国の攻撃型原潜「バージニア級」は1隻約35億ドル(約5400億円)とされ、乗員130人程度だ。運用・訓練・整備のローテーションが必要になるため、常時1隻の任務に対し、複数隻必要となる。導入コストに加え、原子炉の維持費や廃炉・最終処分コスト、原子力工学を修める専門人材の育成コストも考慮する必要がある。米国からの購入によらず、自国開発すればさらに相当の開発コストが見込まれる。

 反撃能力との関係では、「日本は発射車両を秘匿する山間部に恵まれており、陸上で残存性を高める方が経済的だ」「核運用のための原潜でなければ、高いコストに見合うだけの保有メリットはない」との指摘が聞かれる。

 政府内での賛否もおおむね両氏の意見に集約される。とりわけ慎重論は、新たな3文書における予算・人員のリソース配分や運用の全体戦略がまだ見えてこない中で、原潜にかかる人的・経済的コストが既存の防衛力を損なうのではないかという警戒感が基底にあるように思われる。では、損なわれては困る既存の防衛力とは何か。無数に挙げられるが、次項では潜水艦に絞って考えたい。

チョークポイント

 日本を取り巻く安保環境がかつてないほど厳しいことはもはや説明不要だが、海洋環境を軍事的に見ると、実は日本の地理的条件は非常に恵まれている。

 中国の基本構想は、インド太平洋地域から米軍を排除することを狙ったA2AD(Anti-Access/Area Denial=接近阻止・領域拒否)戦略に軸足を置く。伊豆諸島とグアムを結ぶ「第2列島線」と、南西諸島からフィリピンに至る「第1列島線」の間で米軍の中国側への接近を阻み、「第1列島線」の領域内で米軍などの自由な行動を封じる戦略だ。中国本土に配備された対艦弾道ミサイル「DF-21D」(空母キラー)などがその主な担い手となるが、同時に中国の海軍力は太平洋への進出を強めている。25年5~6月には空母「遼寧」と「山東」が初めて太平洋上に同時展開した。2隻は南鳥島(東京都)や沖ノ鳥島(同)沖の日本EEZ内を航行し、展開期間中、艦載機による発着艦は計1100回を超えた。12月には、遼寧艦載機による空自戦闘機へのレーダー照射事件も太平洋側で起きた。有事には、太平洋上の米空母に中国の攻撃型原潜も近づこうとするだろう。

 さて、そうした中国の艦艇が、さらにはロシアの艦艇が大陸側から太平洋に出るには、宮古海峡や宗谷海峡といった日本列島が擁する海峡や、島々の間を必ず通過しなければならない【図3】。これら戦略的に重要な海上の通り道は「チョークポイント」と呼ばれる。このチョークポイントこそが海自潜水艦が守りを固めている位置であり、有事に敵艦艇の通峡を阻止したり、逆に日本のシーレーンを守ったりする要衝になる。必ず現れる敵艦を潜水艦が海中でじっと待ち伏せできる優位性は非常に大きい。

 こうした地理的条件は、時代や国力に左右されない不変の恩恵だ。日本は地の利を最大限に生かした潜水艦運用と対潜能力などにより、冷戦時代にはソ連に対し、現在ではこれに加えて対中国の通峡阻止能力を担保して日米同盟に大いなる貢献を果たしてきた。

 中国の軍拡により、海自が今後も従来の通峡阻止を有効に行えるかどうか、その戦略的価値が低下しないかどうかは検討が必要だが、防衛戦略とチョークポイントの密接性を改めて指摘しておきたい。

 ついでに述べると、日本は中国が渇望する水深にも恵まれている。資料によって数値にばらつきはあるが、中国が接する黄海(平均水深44メートル)と東シナ海(同188メートル)は大陸棚が広がるため浅く、日本海(同1350メートル)や太平洋(同4282メートル)とはまったく環境が異なる。だからこそ中国は、戦略原潜の隠し場所を求めて深い南シナ海(同1212メートル)を奪い、米国に伍する核の運用体制を確立しようとしている。

 少し話はそれるが、南西諸島防衛のためには、より中国側の東シナ海上で敵艦艇や上陸部隊を迎撃する必要がある。原潜か否かを問わず直径10メートル程度はある有人潜水艦を浅い東シナ海で潜航させるには一定の危険が伴う。そうした浅海域では小型の無人潜水機(UUV)が威力を発揮すると考えられ、この点でも地理的特性を踏まえた運用・開発計画が求められる。

一つの装備、多数の期待

 今回の原潜保有論は、潜水艦へのVLS搭載から派生したと前述したが、一つの装備に対して複数の主体が次元の異なる期待を寄せる現象は時折見受けられる。17年に明らかになった「いずも型」護衛艦の事実上の空母化がそうだった。航空機の地上拠点が乏しい太平洋側防衛を強化することを主目的として、現在、実現に向けて改修が進んでいるが、検討段階にあった同年前後では、海自や防衛省内で異説もそれなりの説得力を持って唱えられていた。その一つが、主として米軍の戦闘機F35Bを空母化したいずも型に搭載するという案だった。

 米軍の後方支援強化を表向きの理由としつつ、自衛隊の空母に米軍機と米軍人が乗っているかもしれないという状況が現出することは自衛隊にとっても都合が良い。米国は、自国の軍人に危害が加えられれば、必ず報復する国だ。米軍が乗っているかもしれない海自艦には、中国は手を出せないはず―。

 こうして同盟国の参戦を被害の共有を通じて保障しようとする計算をトリップワイヤ(仕掛け線)理論と呼ぶ。かつて在韓米軍の展開先が韓国の北方に比較的集中していたことも、韓国軍にとって同様の効果をもたらしていた。

 一方で、海自内には「空母保有は既存の運用を圧迫する」との懸念も多く聞かれた。18年末の記者会見で岩屋毅防衛相(当時)は「海自や空自から具体的なニーズや要請があって、こういう考え方(空母化)ができていったということではない」と述べ、自衛隊の運用上の需要がその時点であったわけではないことを認めていた。

 「次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦」、原潜保有論には、空母保有論の比ではないぐらい、当初の所要や発案者の意図を超えた論点が出てくる可能性がある。その例示は本稿の終盤でまとめることにする。

豪州と韓国の動向

 ごく簡単にではあるが、他国の状況に触れたい。豪州は21年に設立した米英豪3か国の安全保障協力枠組み「AUKUS」を通じて、攻撃型原潜の導入を進めている。30年代に米国のバージニア級を最大5隻購入し、その後は英国の次世代原潜をベースに、米技術も加えて独自開発するなど3段階の計画だ。これは南シナ海への進出を強める中国に対抗することを目的としている。さらに、南シナ海に隠れようとする中国の戦略原潜=対米核抑止力を、豪州の攻撃型原潜が自国近海を離れて監視・追尾することは米豪同盟を補完することにもなる。これは通常動力型潜水艦ではできない任務だ。豪州は「核兵器を保有せず、原潜用の核燃料は独自に生産しない」ことを表明している。

 韓国でも原潜導入の動きが進む。25年10月末、トランプ氏は韓国による原潜建造を承認した。直前の米韓首脳会談で李氏は、原潜用に核燃料の再処理を可能とするため、米韓原子力協定の改定を求めた。北朝鮮という地続きの脅威と対峙(たいじ)する韓国にとって原潜の必要性は低いはずだが、韓国側は、中国や北朝鮮の潜水艦追跡に必要だと説明した。

 韓国も豪州同様、核武装を否定している。ただ、韓国は(特に左派政党ほど)自主国防論が強く、各種の世論調査で韓国民の6割以上が核武装に賛成しているという背景もあり、将来、核武装を選択肢として検討するのではないかとの見方もある。

 日本への導入コストを見積もる場合、まず米国の協力が得られるのか否かが最初の論点となるはずで、豪州と韓国の動向はその意味でも参考になるだろう。人口、経済規模ともに日本より小さな英仏豪韓が原潜を保有または保有予定である一方、中国でさえ原潜と並行して通常動力型潜水艦を新たに投入し続けている。新型の「039C型」の存在が明らかになったのは21年のことだ。原潜のコスト論はこれら両面の事実を虚心坦懐(きょしんたんかい)に踏まえるべきだ。

30ノットの壁

 ところで、いずも型やイージス艦も含め、海自の護衛艦は、旧式のあぶくま型を除いてすべて最大速力が30ノット(時速約56キロ)ある。これは米原子力空母と同じ速力であり、米攻撃型原潜も30ノットを超える。つまり、日米の主要戦闘艦のうち、海自潜水艦だけが米空母に随伴できないことを意味する。中国海軍の「商級」攻撃型原潜も空母「遼寧」「山東」も30ノットとされている。

 速力に着目した場合、日本が原潜を導入して可能になることは、米空母打撃群との高度な連動と、通峡して太平洋に出てしまった中国海軍の追尾ということになろう。

六つの方向性

 以上見てきたことから、原潜保有を安保政策として観察する視点は、〈1〉通峡阻止の強化〈2〉太平洋での敵艦追尾〈3〉反撃能力の運用〈4〉米空母打撃群への随伴〈5〉豪州との連携強化〈6〉将来的な非核三原則の見直し―の6点が考えられる。

 6点を補足すると、〈1〉は原潜の長時間潜航と大電力を活用した探知能力の向上による従来任務の強化、〈2〉はチョークポイントを突破される可能性とその後の防衛策をどう予見するかの問題であり、〈3〉は先述の通りだ。

 〈4〉と〈5〉はインド太平洋地域で、中国に対して相対的に下がる米軍の優位性を、自衛隊または自衛隊と同志国の連携でどう補完するかの議論となる。ここは外交戦略の議論にもなるし、海自潜水艦の活動海域を広げることが、かえって日本の近海防衛をおろそかにしないか、という懸念に対する回答も必要となる。

 〈6〉はまず政府として現在、核保有は検討されていないことを断っておく。その上で言えば、日本の核武装論は基本的に、日本は既に発電用核燃料の処理と宇宙ロケットの実績から潜在的な核兵器保有能力を有しているとの評価を前提としている。将来的にその前提に原潜が並列され、その立場を強化する可能性はある。米国で同盟軽視が強まれば、〈5〉と〈6〉は追求が強まるだろう。

問われる地政学的な自画像

 原潜は、日本防衛の自助努力を強化する方向にも働きうるし、米豪などの同盟国・同志国連携を強化する方向にも使いうる。3文書改定で明確に保有を打ち出すかどうかもまだ分からないが、政権合意に盛り込んだ以上、これを機に日本の戦略環境について地に足の着いた議論が深まることを期待したい。

 繰り返しになるが、日本の従来の潜水艦戦略は地理的恩恵と一体をなしてきた。その地にとどまることも、離れることもできる原潜の使い道は、太平洋と中国大陸の間に位置する日本が、どのような事態に備えるべきかという意識の発露になろう。

 チョークポイントを越えようとする大陸国家を抑止することはもちろん、米国や豪州などとの海洋国家連合の中で、日本はどのような役割を果たしたいのか、逆に同盟国・米国には何を期待できるのかという見積もりの問題でもある。原潜保有論は、国家の地政学的な自画像をも問いかけている。

●注釈

(注1)安倍晋三(2023年)「安倍晋三回顧録」中央公論新社

(注2)C・W・ニミッツ、E・B・ポッター(1962年)「ニミッツの太平洋海戦史」恒文社

(注3)矢野一樹(2025年)「ダイナミックに変化する極東方面の水中戦力(日本周辺国の水中戦能力強化への対応に関する一考察)」安全保障懇話会

●主要参考文献

Janes Fighting Ships 2024-2025

 

 

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