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2026.02.02 (月) 印刷する

帰還事業裁判の判決が意味するもの 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表)

川崎栄子さんら脱北帰国者が北朝鮮政府を相手取って起こしていた帰還事業とその後の北朝鮮における人権侵害に関する訴訟について、東京地裁は1月26日、原告4人の訴えを認め、総額8800万円の支払いを命じる判決を下した。私も地裁で傍聴していたが、歴史的な判決と言えるだろう。

北朝鮮に賠償支払い命令く

「帰還事業」とは昭和34(1959)年から59(1984)年までの間に合計9万3000人余りの在日朝鮮人及びその日本人家族が北朝鮮に移住したことを言い、「帰国事業」あるいは「北送事業」とも呼ばれる。「北朝鮮は地上の楽園」「希望に応じて進学・就職ができる」「無償教育・無償医療」などの嘘に騙されて北朝鮮に渡った人たちの大部分が日本以上に厳しく差別され、社会の最下層で苦しめられてきたことはすでに多くの人が知っている。

今回の裁判は帰還事業で北朝鮮に渡り、その後脱北して日本に戻った人々(脱北帰国者)がその責任を北朝鮮当局に問うものだった。当初東京地裁では帰還事業の不法性は認めたものの、それと北朝鮮での人権弾圧を別途の問題として扱い、前者は損害賠償の除斥期間が過ぎており、後者は日本の裁判所に管轄権がないとして却下された。しかし控訴審において、帰還事業と北朝鮮での人権侵害は連続しているという原告側の主張が認められ、差し戻しになり、26日の判決になった。私はほとんどお手伝いしていないが、原告、弁護団、支援者の皆さんの長年の努力が実ったことは何よりだった。

今回の裁判では被告側は誰も出廷していないので判決は確定する。次の問題は判決の実効性をどう担保するかだ。私が判決を聞いた時にすぐに思ったのは「北朝鮮に経済援助するようになったらその金は差し押さえられるはずだ」ということである。民事訴訟の差し押さえで被告の給与を差し押さえることはあるので、決して夢物語ではない。日本からの援助は当然現在の体制を維持するために使われるのだから、それにブレーキをかける意味でも効果があるはずだ。

拉致問題への含意く

もう一つ、当初帰還事業と北朝鮮での人権侵害が別扱いされて却下されたこの裁判で、両者が連続したものとして判決を下されたことは、拉致問題についても大きな意味がある。この場合、拉致をされた時点から北朝鮮における人権侵害が明確につながっているからだ。拉致事件の全てについて同様の判断がなされれば将来経済援助をすることになっても全て差し押さえられて、北朝鮮に渡すのは領収書だけということになるかもしれない。

もちろん結局は日本の金なのだが、国家犯罪の被害なのだからやった北朝鮮か、国民を守れなかった日本政府か、どちらかが被害の保障をしなければならないことは明らかだ。ちなみに平成14(2002)年に帰国した5人に対しては、帰国後の生活支援は法律(支援法)でなされているが、拉致をされていた24年間についての補償は未だなされていないのである。

総選挙の結果がどうなるか分からないが、与野党で拉致問題に関する政策には大きな違いはない。逆に言えば選挙の結果がどうなってもあまり大きな変化は期待できないとも言える。一喜一憂するより私たち国民が政治も含めて動かしていくことの方が大事である。今回の裁判のように実質で北朝鮮を追い詰めていくのは大きな意味があると思う。(了)

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