高齢者の運転免許返納にブレーキ、死亡事故は3年連続増加…バスや鉄道の廃止も影響
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65歳以上の高齢者の事故防止対策として、警察が長年推奨してきた「運転免許の自主返納」が、2019年の57万件をピークに4年連続で減少している。バスなど公共交通網の衰退が続き、返納を勧めても買い物や通院などでマイカーが必要だと訴える高齢者が多く、警察や自治体は近年、高齢者の安全運転支援にも力を入れるようになった。(坂戸奎太)
ドラレコ映像基に
「停止線で止まれていないですね。左右を確認する際は、完全に停止してから徐行で前に出てください」
大阪府門真市の府警門真運転免許試験場で3月、同府守口市の自営業男性(84)は、自分の運転を記録したドライブレコーダー(ドラレコ)映像を確認しながら、運転免許課の男性警察官からアドバイスを受けた。仕事先を回る上で車は欠かせないといい、「自覚しないうちに危ない運転になっていた」と反省していた。
府警は昨年10月から、高齢者講習時に信号無視など危険な運転をしていた人らに働きかけ、日頃の運転状況を自分で確認してもらう取り組みを始めた。免許返納を促しても生活に必要だとして断られることが多く、ドラレコを約2週間貸し出し、後日、一緒に映像を見て改善点を指導している。府警幹部は「返納を訴えるだけでは限界がある。最近は、危険性を具体的に自覚してもらい、安全運転につなげる対策が必要になってきた」と話す。
踏み間違いが多発
警察庁によると、75歳以上のドライバーによる死亡事故は昨年384件発生。3年連続の増加で、免許保有者10万人あたりの件数は75歳未満の約2倍に達する。ブレーキとアクセルの踏み間違いが多いという。
一方、65歳以上の免許自主返納の動きは鈍っている。警察や自治体は、運転経歴証明書によるバスやタクシーの割引制度などで返納を後押ししてきたが、東京・池袋で乗用車が暴走して2人が死亡した事故が起きた19年の57万5559件をピークに減少が続いている。
コロナ禍での外出自粛のほか、公共交通網の弱体化も影響しているとみられる。国土交通省によると、慢性的な赤字や人手不足で、全国の路線バスは08~22年度に2万キロ以上が廃止。鉄道では00~23年に46路線が廃止された。特に路線バスは廃業する事業者も出ている。
データで注意喚起
免許を返納しにくい環境が広がる中、府警以外でも、運転を続ける高齢者向けの対策が進められている。
福井県警は22年から、事故を起こした65歳以上の人らを対象に危険回避能力を調べる「運転技能自動評価システム」を使った無料運転講習を始めた。ドライバーの頭や足につけたセンサーと、車の全地球測位システム(GPS)が、左右確認時の首の角度や、ブレーキのタイミングなどを測定し、運転を5段階で評価する。
県内全11署に導入され、これまでに2000人以上が受講した。県警は「客観的なデータは説得力がある。ドライバーも運転を改善しやすい」としている。
宮崎県では、高齢者が運転を控えるケースを事前に決めておく「制限運転」を19年から実施中だ。「体調不良時」「夜間」「悪天候時」といった運転を控えるケースを、本人が役場や警察署の窓口で宣誓し、これまでに約3万1000人が参加した。県は「安全運転を強く意識づけることが重要だ」としている。
運転能力「目に見える形で伝えて」
車の運転は「認知→判断→操作」の3要素で成り立ち、例えば、交差点では赤信号を「認知」し、停止の必要性を「判断」してブレーキを踏む「操作」を行う。ただ、高齢になると認知機能が低下して判断に遅れが生じる上、身体能力の低下で操作ミスが起きやすくなる。長年運転してきた「自信」が「過信」につながりやすい。
AI(人工知能)を活用して安全運転の研究をしている福岡国際医療福祉大の堀川悦夫教授(認知神経心理学)は「高齢者は、長年の運転で悪い癖が染みついていることが多く、運転能力の低下に自分で気づきにくい」と指摘。長く安全運転を続けてもらうためには「運転能力を得点化するなど、目に見える形で伝えて改善を促すことが重要だ」と話している。