選挙争点や各党の政策比較巡り「偽番組」、世論水増し「誤解与える可能性」…量産する男性「ウソはついていない」
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選挙の争点や各党の政策を巡り、生成AI(人工知能)で作られた架空のニュースや情報番組、インタビューのショート動画がネット上で拡散している。特定の政党を支持したり、批判したりする内容が大半で、今回の衆院選で目立つようになった。専門家は「視聴者に誤解を与える可能性もある」と指摘している。
テレビの情報番組を思わせるスタジオで、高齢女性が「高市さんの台湾発言、火をつけたのは立憲の岡田やないか。ええかげんにせえ」と関西弁でまくし立てると、出演者が「なるほど」と相づちを打つ。
この15秒の動画はユーチューブで300万回以上再生された。実際にはこうした番組は存在しない。
台湾有事を巡っては、高市首相が昨年11月、立憲民主党(当時)の岡田克也元外相に対する国会答弁で、集団的自衛権を行使する「存立危機事態」になり得るとの認識を示し、中国が反発した経緯がある。
この動画が投稿されているチャンネルには、他にも報道や情報番組風の動画が約240本あり、計9000万回近く再生されている。野党や中国、マスコミを批判する動画が多く、いずれもAIで作られた。
投稿者は大阪市在住の不動産業の男性(45)。「だましたり隠したりするつもりもない」と26日、読売新聞の電話取材に応じた。
男性は以前は、投資関連の動画を投稿していた。昨年秋の自民党総裁選の時、動画生成AI「Sora2」で「90歳のおばあちゃん」が政治や選挙について語る動画を作成し投稿すると、一気に視聴者が増えた。
男性は、政治のニュースや話題に自身の考えを加え、AIに「ニュース番組」などプロンプト(指示文)を入力して動画を作っている。自身は高市首相を支持しており、保守的な動画が多いと自覚しているが、「特定の政党への投票を促すつもりはなく、政治への関心を高めるのが目的だ」と説明する。
動画のタイトルやチャンネル名にAIの記載はないが、説明欄を開くと「ai」と記されている。コメント欄には「元議員さんかな」「長生きしてほしい」と、女性や番組が実在すると信じているとみられる書き込みも少なくない。男性は「ウソはついておらず、大きな問題だとは思っていない」と話す。
インタビュー風
この男性とは別の人物によって作成された街頭インタビュー風の動画もある。
X(旧ツイッター)では18日、女性が路上でマイクを向けられ、新党の中道改革連合を批判する動画が拡散し、45万回表示。28日にも「高市氏の街頭演説を聞いて胸が熱くなった」と話す動画が広まり、100万回以上表示された。
いずれもユーチューブで「AI」として投稿されたものだが、転載先のXではAIで作成したとの表示はなく、本当の番組であるかのように拡散していた。
20日には、報道風の番組で専門家や記者のような人物がモニターを前に解説している場面の画像がXで拡散。モニターには、ある政党のSNSで不自然にフォロワーが増え、「不正操作の疑惑」とする文字やグラフが映っているが、AIで作成されたことを示すマークが入っていた。
自分で考える
こうした現状について、立命館大の谷原つかさ准教授(社会情報学)は「マスメディアの権威を借り、特定の意見が共感を得ているかのように世論を水増ししている感じがある。視聴者に誤解を与える可能性がある」と指摘する。
一方、谷原准教授は有権者の心構えとして、「ネット上やテレビに、個人の意見形成に影響を与える『解説』や『論評』が多すぎる。投票の前に、一度スマートフォンやテレビから離れて自分が政治に望むことは何か、確かな事実に基づいて考えることも大切だ」と話す。