カープの元ドラフト3位投手、瀬戸内海を一望の丘でレモン農家に転身…「再スタートするなら広島しか頭になかった」
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広大な瀬戸内海を一望する丘の上の農地。広島東洋カープで投手として活躍し、現在は農業を営む戸田隆矢さん(32)が、実ったレモンの状況を一つひとつ確認していった。「広島ではファンを含め、さまざまな人に助けられてきた。再スタートするなら広島しか頭になかった」
2011年にドラフト3位で指名され、カープに入団。16年には初の完封勝利も達成し、セ・リーグ3連覇(16~18年)にも貢献した。だが、その後はけがに苦しみ、22年に現役引退した。球界を去った後は、出身地の神戸に戻ることはなく、広島県の東広島市安芸津町でレモン栽培に挑戦することになった。
農業のことを考え始めたのは左肘の手術を受けた20年のオフシーズンだ。四国の独立リーグでプレーしていた幼なじみが引退し、地元で農業をしていたことから現場を見せてもらった。
おいしい作物を育てるには、ただ水をやるだけではなく、土作りから
引退後まもなく、レモン農家をしている別の知りあいから「農業に興味があるなら、レモン農家にならないか。元カープの選手がレモン農家をやるのは面白く、話題になる」と誘われた。ちょうど、美容業の妻から「レモンを使った美容品を作りたい」という要望を聞いていた。レモンとの「縁」を感じ、農家への転身を決めた。
23年1月、県内の農地の中から、東広島市安芸津町の農地を選んだ。千葉県からの移住者で農園を経営する甲斐直樹さん(40)が、農業の指南役になってくれることが決め手だった。農業の知識はなかったが、甲斐さんから栽培について学び、農地を決めてから2か月後に40本の苗木を植え付けた。
レモン栽培は試行錯誤の毎日だった。野球で鍛えた体でも、「真夏の炎天下、1~2時間草刈りをするだけでふらふらになった」。それでも、何か困りごとがあると、甲斐さんに加え、地域の人たちもいろいろと助言をくれた。
同じ農地でも苗木を植えた場所によって生育状況に差が出てしまうことに悩んでいた際には、「肥料を変えてみたら」というアドバイスをもらった。肥料にはこれまで牛ふんを使っていたが、鳥のふんもまいてみた。その結果、育ちが悪かった木が、大きく成長するようになった。
最近では、この地域の人たちに恩返しをしたいと願っている。元プロ野球選手として発信力はあるはずだ。「もっともっと安芸津でレモンを栽培していることを周知したい」。少しでも多くの人に地域に足を運んでもらおうと、テレビなどの取材も積極的に受けた。
レモンは今年10月に初収穫される見込みだ。「ゼロからスタートした思いのこもったレモン。待ってくれている人に届けたい」。その瞬間を、今から待ち望んでいる。(綾木佑我、おわり)