中央大学×大手町アカデミア「あらためて養育費不払い問題を考える~民法・民事執行法改正がどのようなインパクトをもたらすのか?」講演要旨

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 中央大学法学部の遠藤研一郎(学部長)、冷水登紀代、秦公正の3教授が2025年9月17日、養育費不払い問題について、中央大と読売調査研究機構が共催したオンラインセミナーで講演しました。2024年の民法・民事執行法改正がどのような影響を及ぼすのか、それぞれの専門的見地から解説し、後半のトークセッションでも、改正の効果と課題について意見を交換しました。

冷水教授の講演要旨

 養育費とは誰の権利で、誰が義務を負担するものでしょうか。多くの方は、離婚の時に子どものために払うもの、というイメージを持たれているかもしれません。子は生まれていきなり自立して生活することはできませんし、成長するためにはお金がそれなりにかかります。民法には親権という制度があり、親の子に対する監護や養育の責任について定めています。

 2024年の民法改正(民法等の一部を改正する法律〔令和6年法律第33号〕は2024年5月24日公布2026年4月1日施行)では、離婚後でも共同親権を選択することができるようになりました。しかし、親権という制度があるから、親は子に対して責任を負うのでしょうか。2024年改正では、親権の有無や婚姻しているかどうかにかかわらず、法律上、親であれば子のために責任を負うことが817条の12第1項で明確に規定されました。この規定は、親は子を養育する際、子の心身の発達を図るために人格を尊重し、年齢や発達の程度にも配慮し、さらに、子が自分(親)と同等の生活が維持できるように扶養しなければならないとも定めています。

 離別や死別を契機に一人親世帯になる場合が多いわけですが、特に母子世帯の世帯収入が低いという統計があります。離婚後も父母の子に対する責任は続くわけで、離婚の際、養育費を取り決める必要がありますが、取り決めをしているのは、母子世帯で約50%、父子世帯は30%未満という状況です。父母ともに子に対して扶養の義務を負うわけですから、子の側から見れば、(父母に対する)扶養の請求という形で考えることも可能になります。2024年改正で817条の12(親の責務等)が出てくる前は、民法にはこういう規定がなかったため、直系血族や兄弟姉妹は互いに扶養義務があるという877条を根拠に子に対する扶養義務を考えるのが一般的でした。他方で、親権の規定を根拠に扶養義務があると考える立場もありました。いずれにしても、未成年者や夫婦の立場は特別であり、他の親族よりも程度の高い生活保持義務を課すべきだという考え方から817条の12第1項が設けられたわけで、子はどちらの親に対しても扶養料を請求できると考えられます。

 一般的に使われている「養育費」という言葉は、親の側から見た言葉です。日本の場合、婚姻をして子供を生むことが多く、民法は752条で夫婦の同居・協力・扶助義務を規定しています。婚姻した夫婦は家事や育児は互いに協力し、生活にかかる費用も互いに負担しましょう、という義務です。夫婦によって家事・育児のあり方や収入が違いますから、総じてうまくいくように話し合って決めればいい、という考え方です。夫婦の生活にかかわる費用である婚姻費用も相互に分担するという規定があります。夫婦の実態に合わせて分担額を決めればいいわけで、子の扶養料の問題は婚姻費用の分担の問題に吸収されていくことになります。そして、夫婦が別居すると、子と同居した親の収入が低い場合は、婚姻費用分担の問題が顕在化します。家庭裁判所の実務では、別居中でも夫婦である以上、収入の少ない夫婦の一方が他の一方に婚姻費用の分担請求を行う形が一般的であり、「婚姻費用」の中で、子の養育費相当額も含めて請求する形になります。

 そして、離婚へと進んでも、離婚は夫婦関係の延長線上にある問題と位置づけられており、子の生活にかかわる費用も夫婦が離婚の話し合いの中で決めるもの、という考え方が日本では強いのです。このため、766条で協議離婚する場合は、「子の監護に要する費用」についても協議して決めましょうと規定されています。「子の監護に要する費用」が、一般的に「養育費」といわれるものであり、養育費は結局、両親が話し合いで決め、子と同居する親が、もう一方の親に請求するという形で考えられることになります。親は、同居か別居か、婚姻や親権の有無にかかわらず、子の監護について責任を負います。女性が婚外で子を産み、父親側が子を認知した場合も、766条の養育費に関する規定が準用されます。離婚届は、養育費の分担についての取り決めの有無にチェックを入れる欄を設けて取り決めをするように促していますが、チェックがないからといって離婚できないわけではありません。

 夫婦が協議で養育費を定められない場合、家庭裁判所に調停を申し立て、調停が成立しない時は、家庭裁判所が審判で養育費を定めます。家庭裁判所の実務で活用されている算定表には、夫婦双方が養育費を負担するという考え方に基づき、子の年齢や子の数に応じ、それぞれの収入で負担割合を案分して負担額を定める形になっています。法的拘束力はありませんが、ホームページで公開されていますので、是非、参考にしてください。

 まだ施行はされていませんが、2024年改正で法定養育費が導入されることになりました。厚生労働省の調査では、養育費を取り決めない理由は、交渉が煩わしい、相手に払う意思や能力がない、もう相手にかかわりたくない、といった理由が多いようです。DVなどの事情で取り決めができない場合もあるでしょう。しかし、養育費の本質は親の子に対する責任であり、子の権利にかかわるものです。そこで、養育費に関する協議をせずに離婚した場合でも、法令で定められた最低限度の額は請求できるというのが法定養育費の制度です。あくまでも協議で定められるまでの間の暫定的なものであり、協議で定められれば、それが最終的な養育費となります。このため、最低限度の生活の維持に要する費用と位置づけた上で、法務省は月2万円という案を示して、一般から意見を募集しました(月2万円とする法務省令を改正法と合わせて施行予定であることが、2025年11月28日の法務大臣記者会見で公表された)。

 この制度は、扶養義務者から見れば、急に請求される可能性があるため、義務者側の生活にも配慮する必要があります。義務者側が生活に困窮するような事情があれば、免責や減額を求めて家庭裁判所に請求することが可能です。

 養育費の制度をまとめると、中心にあるのは、親の責任として扶養義務があるということです(817条の12第1項)。これを前提に、夫婦間の婚姻費用については別居時も含め、子の養育費相当額も含めた請求をすることが可能になり(760条)、離婚の場面でもその延長線上として父母間で請求ができる制度になっています(766条)。他方で、民法には、扶養に関する規定(877条)もあり、子供自身が請求権者となって親に対して扶養の請求ができるという制度になっています。2024年の民法改正の際、これらの関係について明確に議論されていませんが、これまでの解釈が基本的には踏襲される、つまり、877条を根拠に子は自ら親に扶養料を請求することができると私は理解しています。ただし、新たに整備される法定養育費は、離婚した夫婦の子あるいは父が認知した場合の婚外の子のための費用を想定していることから、877条ではなく、766条に基づく父母間での請求を前提とした規定(766条の3、788条)になっています。

遠藤教授の講演要旨

 冷水先生から養育費の本質についての説明があり、秦先生から養育費の回収についての説明が予定されていますので、私は、民法改正で養育費の支払いを求める権利に先取特権という担保物権が与えられることについて説明します。

遠藤研一郎 中央大学法学部教授
遠藤研一郎 中央大学法学部教授

 まず、債権者平等の原則についてです。A、B、Cの3人がYに対し、100万円、200万円、300万円の債権をそれぞれ持っていて、Yが倒産状態になり、残余財産が300万円だったとします。この場合、A、B、Cは、債権額に応じて残余財産を案分することになり、Aが50万円、Bが100万円、Cが150万円を回収することになります。このような平等原則を破って、他の債権者より優先的に弁済が受けられる制度が担保物権です。例えば、AがYの残余財産に対して担保物権を持っていると、BやCよりも優先的に弁済が受けられるため、Aが債権全額の100万円を回収し、BとCが残りの200万円を案分します。民法やその他の法律では、このような担保物権がいろいろ定められています。

 担保物権の中の一つに先取特権があります。特定の債権を持っている人に優先的回収の権利を与えて保護をする制度です。先取特権にも様々なものがありますが、養育費を支払ってもらう債権に先取特権を与え、優先的に弁済が受けられるようにしたのが民法改正による先取特権です。今までは養育費を払ってもらう債権は、他の一般的な債権と同じ扱いでしたが、改正民法が施行されると、養育費の支払い義務を負う人に信用不安が発生したとしても、他の債権者よりも優先的に回収が受けられるようになります。ただ、現実はそれほど単純ではなく、実際に養育費を回収できるかどうかは、司法(裁判所)へのアクセスの良さ、権利行使のしやすさ、という観点が重要です。これは民法というよりも、民事執行法など手続法の世界になります。この点、民事執行法の改正によってどのように変わったのかということを、この後、秦先生からお話いただきます。

秦教授の講演要旨

秦公正 中央大学法学部教授
秦公正 中央大学法学部教授

 私からは、養育費の支払い強制の方法と2024年民事執行法の改正内容についてお話をします。お金の支払いを求める権利を持つ人が、実力行使で債務者に支払いを強制する「自力救済」は許されていません。代わりに、国は権利者の権利を強制的に実現する制度を設け、それを裁判所に担わせています。二つの方法があり、一つは強制執行、もう一つは担保権の実行ですが、両者の手続き構造は基本的に共通しています。XがYに対して支払いを求める権利を持っている場合、Yが返還しなければ、Xは裁判所にYの財産の差し押さえを申し立て、裁判所はYの財産の差し押さえを命じます。差し押さえられた財産は強制的に売却(法律的には競売)されると、その代金が権利者に配当されます。

 裁判所が強制的な手続きに入るためには、XがYに対して支払いを求める権利を持っていることを確認しなければなりません。強制執行の場合、裁判所は裁判所の判決や審判、調停調書などの「債務名義」と呼ばれる公文書をもって権利の有無を確認しますが、Xにとって、債務名義の取得は大きな負担です。一方、担保権の実行は、一般先取特権といった担保権を持っている者だけが行うことができる手続きです。債務名義は必要なく、担保権の存在を証する文書があれば足ります。一般先取特権であれば、契約書などでも足りますので、強制執行に比べ、はるかにハードルは低いと言えるでしょう。債務名義なしに担保権の実行ができる日本の制度は、外国と比較すると、少し緩やかに過ぎるのではという批判もありますが、日本は従来、この仕組みを維持してきています。

 養育費の金額が毎月数万円から10万円程度だとすれば、相手が給与所得者なら、不動産や動産を差し押さえるより、勤務先の給料債権を差し押さえる方が適していると思われます。手続きとしては、まず権利者が裁判所に対して義務者の給料の差し押さえを申し立てます。(2024年改正が施行される前の)現行法上、養育費請求権は担保権ではありませんので、権利者は債務名義が必要で、申し立ての際、誰に対する給料債権を差し押さえるのかも明らかにしなければなりません。日本では、差し押さえる債務者の財産を裁判所が探索することはありませんので、権利者が義務者の勤務先を探し出す必要があります。さらに、権利者自身が勤務先に対し、私に払ってくださいと言わなければなりません。勤務先の企業から拒否された場合に、権利者は勤務先に対して訴訟を起こすといった手続きが必要になり、養育費の支払い強制は手続上の負担が非常に重かったのです。

 2000年代以降、数回に渡って民事執行法が改正されてきました。養育費に関する改正のポイントとしては、2003年改正で、過去に養育費の不払いがあれば、将来分についても手続き開始が認められるようになり、不払いがある度に差し押さえの手続きをする必要がなくなりました。給料は債務者の生活を保障するものですから、毎月の給料の4分の1までしか差し押さえることができませんでしたが、養育費については2分の1まで差し押さえられるようになりました。2004年改正では、間接強制も許容されました。債務者が義務違反をした場合はペナルティのお金(間接強制金)を払ってもらうことを予告しておくことで、心理的な圧力により自発的な履行を促そうという仕組みです。

 給料を差し押さえるために第三者から勤務先等の情報を得ることができるようになったのも重要です(2019年改正)。転職などで勤務先がわからなくなった場合、裁判所に申し立てて相手の財産情報を求める制度が2004年からありましたが、本人に聞いても教えてくれないことも多く、実効性に問題がありました。そこで、2019年の改正で、給料の差し押さえのために市区町村などの第三者から勤務先などの情報を提供させる制度が設けられました。ただし、相手のプライバシーや不利益にも配慮する必要もあるため、この制度を利用するためには、過去に強制執行がうまくいかなかった、現在分かっている相手の財産だけでは十分に債権回収ができない、財産開示の申し立てなどにより本人にしっかり聞こうとした、といった条件を満たした場合、裁判所が第三者に対して情報の提供を命じ、その情報を基に、権利者自らが、給料の差し押さえによる養育費の支払いを相手の勤務先に求めることになります。なお、第三者から取得できる情報は不動産や預貯金の情報なども対象になります。

 2004年から導入されている財産開示制度は、前述の通り実効性に問題があったため、2019年改正で違反者に刑事罰の可能性が認められるようになったことで、施行された翌年以降、申立件数が急増しました。第三者からの情報取得制度も導入初年度からかなりの数の申し立てがなされています。

 2024年の民事執行法改正は、養育費支払いのさらなる履行確保を目指し、執行手続きの負担軽減を図るものです。これは意味があることですが、すでに遠藤先生が紹介された2024年民法改正で養育費請求権が一般先取特権化されたことの方が、手続きに与えるインパクトは大きいと思います。それまでは、判決や審判、調停調書などの債務名義がなければ養育費の支払いを強制できず、そこが権利者の大きな負担でしたが、養育費請求権が一般先取特権化されたことで、権利者は債務名義がなくても、担保権を実行すればよいわけです。担保権の存在を示す文書は必要ですが、これは特定の文書に限定されておらず、当事者間で交わされた養育費の支払い合意書や、それを含むような離婚協議書など、養育費請求権を持っていることを示す文書を用意すればよいのです。

 2024年の改正民法は、養育費について先取特権が認められる範囲を法務省令で定めるとしています。今年(2025年)8月下旬に公開された法務省案では、1か月につき8万円とされています(その後、法務省は月8万円とする省令を2026年4月1日に施行予定であることを公表している)。

 民事執行法の2024年改正では、執行手続きのワンストップ化が導入されます。主に差し押さえる財産が見つからない場合を念頭に置いた改正です。現行法上、相手の勤務先がわからなくて給料の差し押さえができない場合、まず、債務者本人に対する財産開示を申し立てますが、うまくいかない場合には第三者から情報を取得するための申し立てを行い、その情報を基に、ようやく給料債権の差し押さえの申し立てができるわけです。申し立てを3回して手数料を3回払うわけですが、2024年改正では、財産開示あるいは第三者からの情報取得の申し立てをもって、債権差し押さえの申し立てもしたとみなすことにしました。申し立ては1回で済み、権利者の手続きの負担軽減が大いに期待されるところです。

中央大学×大手町アカデミア「あらためて養育費不払い問題を考える~民法・民事執行法改正がどのようなインパクトをもたらすのか?」トークセッション要旨は こちら から

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7473197 0 大手町アカデミア 2025/12/23 13:44:00 2025/12/23 16:57:01 /media/2025/12/20251223-GYT8I00072-T.jpg?type=thumbnail
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