大阪府泉佐野市の赤ちゃんポスト計画、病院設備・乳児院・養育環境の整備に課題…専門家「責任ある体制をつくる必要」
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親が養育できない赤ちゃんを匿名で託せる「赤ちゃんのゆりかご(仮称)」(赤ちゃんポスト)の開設を進める大阪府泉佐野市は来年1月にも、設置先となる医療機関「りんくう総合医療センター」内にワーキンググループを組織し、具体的な事業計画の策定に着手する。2026年度中に全国3例目の開設を目指すが、ハード面の整備や受け入れた赤ちゃんへの適切な養育環境の提供など取り組むべき課題は多い。(門間圭祐)
■内密出産も
「一日でも早く実現することで、救える命を早く救っていける」。22日、関連議案の市議会での可決を受けた記者会見で、千代松
赤ちゃんポストは、望まない妊娠や母親の困窮による乳幼児の遺棄、死亡を防ぐため、熊本市の慈恵病院が07年に初めて設置。今年3月には東京都墨田区の賛育会病院に2か所目が誕生した。両病院は、周囲に妊娠を知られたくない女性が、病院の担当者にのみ身元を明かして出産する「内密出産」も受け入れており、りんくう総合医療センターも双方の機能を併せ持つ病院を目指している。
実現にはまず、新たな設備が必要だ。慈恵病院では、24時間温度管理できる乳幼児用ベッドといった設備のほか、預けに来た母親のプライバシーを守りながら事情を聞くスペースや、短期滞在できる場所なども整備している。複雑な事情を抱えたケースが多く、対応する看護師らの負担も増加する。
泉佐野市は同センターに出資しており、予算や人材の確保で全面的に支援する意向だ。だが、同センターは地域の周産期医療の拠点病院であり、新たな役割を担うことで、従来の医療への影響も懸念される。記者会見に同席した同センターの松岡哲也病院長は「(赤ちゃんのゆりかごは)医療の領域を超えた部分もある。今行っている医療に支障の出ないよう、はめ込んでいく必要がある」と課題を口にした。
■府との連携
受け入れ後に適切な養育環境につなぐには、府を始めとする関係機関との連携も重要になる。
預けられた子は児童福祉法に基づき、児童相談所経由で、乳児院に託される。政令市・中核市でない泉佐野市は児相、乳児院を所管せず、府を頼ることになるが、府家庭支援課は「赤ちゃんポストの運用開始で、各施設の運営に支障が出ないかは、十分に検討する必要がある」と強調する。
府によると、府所管の乳児院4か所は、定員の3分の2超が常に埋まり、特に新生児の受け入れ余力は小さい。慈恵病院では年間10人以上を赤ちゃんポストで預かることもある。大阪の人口規模で年間の受け入れ数がどうなるかも見通せない。
府は、市の事業計画作成後に協議を本格化する方針だが、同課は「今の状況では支障が生じる可能性があると言わざるを得ない。市にも、計画を出したらすぐに始められるものではないとは伝えている」と話す。
■家庭養育
乳児院で受け入れ後の養育環境にも課題がある。
国は実親が育てられない社会的養護が必要な子に関し、乳児院や児童養護施設で育ち続けるのではなく、家庭同様の養育環境(家庭養育)を提供するのが望ましいとして、法的な親子関係を結ぶ「特別養子縁組」や「里親制度」などの普及に力を入れる。
特別養子縁組は児相のほか、許可を受けた民間の養子縁組あっせん事業者が仲介する。25年4月現在、民間の事業者は全国に22団体で、府内では2団体が許可を受ける。
ただし、こども家庭庁によると、社会的養護が必要な児童のうち家庭養育を受ける3歳未満の割合は、23年度末で26・9%と、国が29年度の目標とする75%にはまだ遠い。府も29年度までに54%とする目標だが、23年度末で18・6%だ。
千葉経済大短期大学部の柏木恭典教授(保育学)は「赤ちゃんポストは、あくまで緊急時の『救急車』だ。手がける以上、その後の養育にも責任ある体制をつくる必要がある。家庭養育については、日本は欧米ほど進んでおらず、赤ちゃんポスト設置を、府と市が連携して社会的養護のネットワークを構築する機会にしてほしい」と話している。