訪問看護「駐車場ない」、到着遅れにつながり患者重篤化も…警察庁が規制見直し・自治体が貸し出す試みも
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高齢者らへの訪問看護や介護で、利用者宅周辺で駐車場がなく、看護師らの訪問の遅れにつながっている課題に対応するため、警察庁が駐車規制の運用見直しなどに乗り出した。住民らが協力して空いている駐車場を事業者に無料で利用してもらったり、自治体が貸し出したりする試みも始まっている。(大津支局 生田ちひろ)
複数の訪問看護事業所によれば、急な体調変化などに対応する緊急の訪問看護の際、利用者宅近くに駐車場がなく、やむを得ず路上に止めて看護師らが駐車違反になったり、警察の駐車許可証を掲示していても近隣住民から苦情が寄せられたりすることが絶えない。
日本訪問看護財団は全国の訪問看護事業所に実施した無記名調査の結果を昨年5月に公表。利用者宅の近くに駐車できなかったため、患者の重篤化や不利益が生じるなどの事例が過去に129件あったとした。
この中には、「駐車場を探すのに時間を要し、到着時には死亡」という回答もあった。駐車場探しや徒歩での移動に時間がかかり、患者が「意識消失」「窒息しかけていた」といった報告も寄せられた。
介護給付費等実態統計によると、今年4月時点で訪問看護の利用者は83万人、訪問介護は110万人に上る。駐車場確保を巡っては看護業界から改善を求める声が上がり、昨年6月に政府が閣議決定した規制改革実施計画で、駐車規制の見直しが盛り込まれた。
これを受けて警察庁は今年3月、看護師らが患者宅を緊急訪問する車について、駐車規制の除外対象となり得るとする通達を出した。除外標章を得て掲示すれば、駐車禁止区間でも原則違反に問われなくなった。
また、事前に駐車場所や時間、理由を警察署に申請して認められる「駐車許可証」は、手続きが煩雑で利用が進んでいなかったことから、駐車許可の運用も見直した。警察庁は関連する通達で、「おおむね100メートル以内」に駐車場がなければ許可を出せるとする基準を定めたほか、必要な書類を明確化し、迅速な審査も求めた。その後、都道府県警は手続きを簡素化している。
住民らで確保・無料提供、滋賀・草津市でスーパー・個人宅など670台分
滋賀県草津市では、訪問看護や介護のため、住民らが空き駐車場を無料で利用してもらう取り組みを始め、注目されている。
今月上旬、同市北山田町にある民家の駐車場に、草津市訪問看護ステーションの女性看護師(40)が車を止めた。これまで有料駐車場を利用し、療養生活を送る利用者宅まで徒歩10分以上かかったが、数分で着けるようになった。「とても助かる。住民から温かい声もかけられる」と喜ぶ。
同市内の三つの小学校区では4月、訪問看護や介護の車両向けにスーパーや自治会館、個人宅など67か所に計約670台分の駐車場を確保した。空きがある曜日や時間帯に事前に登録した事業者が利用できる。
実現までに市社会福祉協議会が、自治会やまちづくり協議会などと3年かけて協議を重ねた。事業者にアンケートしたところ9割が駐車場確保に困り、その負担が看護師らの離職にもつながることが住民に伝わり、協力が得られた。市社協の秋吉一樹・地域福祉課長は「地域の皆さんが『自分事』と考え、意識が変わって苦情も減った」と語る。
すでに市内の別の1学区でも取り組みが広がり、ほかにも2学区が準備を進めている。岐阜市社協も今年から草津市を参考に事業者や住民らと協議を始めた。
自治体が駐車場を確保する動きも出てきている。大阪府では、府営住宅の空き駐車場を活用し、訪問看護や介護の来訪者らが有料で事前予約できる仕組みを2018年度から本格的に導入した。福岡市でも23年からモデル事業として同様に有料で貸し出している。
訪問介護の経験もある岡山県立大の趙敏廷准教授(介護福祉)の話 「駐車できる場所でも通報されることは実際にある。行政の対応には限界があり、住民が関わる草津市の事例は画期的だ。訪問ケアを巡る環境が改善されれば住民の利益にもなる。地域貢献のモデルとして広がる可能性があり、期待したい」