柔軟剤の香りで救急搬送・一時は危険な状態に、小5で発症した「化学物質過敏症」…コロナ対策の消毒原因か?絶たれた学校生活と今抱く夢
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「突然、学校に行けなくなってしまった」。日常的に使われる柔軟剤や化粧品などが原因で体調不良となる化学物質過敏症を発症した奈良県王寺町出身の足立
児童約150人や保護者が集まった体育館は、空気がこもらないように窓が開け放たれた。マイクを握った足立さんは、「私は小学5年の時に病気になってしまった。その病気について、みんなに知ってほしい」と語りかけた。
保育園の頃からサッカー、小学3年からはバレエを習うなど、幼い頃から運動が得意で、友達と遊ぶのが大好きだった。
異変があったのは小学5年生で、コロナ禍が始まった2020年。しばらく休校となり、久しぶりに登校して校舎に入ったとたん、頭が痛くなった。階段を上るのもつらく、黒板の文字がかすんだ。数日間、ぜんそくの発作が出て、鼻血が出た。原因が分からず、夏休みは自宅で過ごしていた。
ある日、自宅でかすかに柔軟剤の香りがして、急に息が吸えなくなった。玄関の小窓から、外にいた人の香りが入ってきたからだった。救急車で搬送されて緊急入院。血中酸素濃度が低下する危険な状態だった。1週間ほどで退院できたが、登校すると首にみみず腫れが出て、それ以降は学校に行けなくなった。
母の洋乃さん(44)が調べたところ、症状から化学物質過敏症を疑い、東京の専門病院を探して受診し、過敏症と診断された。コロナ対策のため学校で消毒が始まったのが、発症の原因とみられた。
屋外での体育以外はリモートで授業を受け、教員らはインクの香りを吸わないようにと、教科書を外で干してくれた。バレエ教室ではレッスン中に窓を開けるなど工夫してくれたが、友達のわずかな香りに耐えられず通えなくなった。
「どこにも安心して行けない。友達にも会えない」。小学校の卒業式は、屋外で卒業証書を受け取った。周囲から「学校は行った方がいいよ」「将来はどうするの」と、何げなくかけられる言葉にも傷ついた。
中学進学を機に、和歌山県高野町の山間にある富貴地区に引っ越した。「自然の中で暮らせば良くなる」と期待したが、夏に除草剤の影響で発作が出た。結局、登校できない日が多く、「なんで私だけ、こんな思いをするんだろう」と落ち込んだ。
そんな中でも、徐々に日常生活で楽しみを見つけることができた。学校に行けなくなったのを機に洋菓子作りに夢中になり、小学6年から直売市などに出店。海外の貧しい子どもたちに食事を提供する社会活動家のトーク会に参加し、中学1年時には会で自身の経験を伝えた。インスタグラムでも、香害の苦しみや日常の楽しみを発信している。
食べ物に気を使い、規則正しい生活を心がけ、香りを感じそうな時はマスクを着けるなどの工夫をし、時々は外出できることも分かってきた。
昨年、中学生が日頃の考えや思いを訴える「少年メッセージ2024」に出場。「みんなが知れば必ず変わる」とのタイトルで、「この病気を理解してもらうだけで変わることもある。どんな社会問題でも一人では解決できません。だからこそ、発信し続けたい」と、原稿用紙4枚半に思いをつづった。応募された8962作品の中から予選会を経て、夏の和歌山県大会で壇上から力強く訴え、最優秀賞に選ばれた。
11月21日に開かれた五條小での講演は、同小の教員が3月に笑子さんの話を聞き、子どもたちに聞かせたいと思い依頼した。笑子さんは、子どもたちをまっすぐ見つめて、こう締めくくった。「発症してつらいことがたくさんあったけど、なってなかったら、今日みなさんに会うこともなかった。今の私が伝えられることを、これからも全力で伝え続けます」
中学を卒業した今年春から高校には通っていないが、お菓子の販売は封印して、高卒認定試験の受験勉強に励んでいる。「医者になる」という新たな夢ができたからだ。今後も体調に合わせながら、講演や発信を続けていくつもりだ。
◆化学物質過敏症= 空気中の微量な化学物質に反応して、皮膚炎、頭痛、疲労感、めまい、吐き気など様々な症状が表れる。人工的な香料による「香害」のほか、塗料や殺虫剤、排ガスなどに含まれる化学物質が原因だが、発症のメカニズムは未解明で、治療法は確立されていない。一見して病気と分からないケースも多く、周囲の理解を得にくいという。