仮想空間で不登校児支援 人とつながる場所に
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県内の教育現場で、インターネット上の仮想空間「メタバース」を活用した不登校児の支援が始まっている。学校や教室に通うのが難しい子どもたちが、社会とつながる新たなきっかけとして期待されている。(上田津希乃、野内凪輔)
■画面上で会話
「この画像が、どこにあるかわかる?」「あった、あった」――。画面上で、動物や人の姿をしたキャラクターが会話したり、クイズを出したりしている。操るのは不登校児や支援員。富山市がオンライン上に設けた交流の場「MAP メタバース」の一場面だ。
同市は10月、県内で初めてメタバースによる不登校児支援を始めた。子どもと支援員がアバター(分身)を操作し、部屋のようなデザインの仮想空間で会話したり、一緒に絵を描いたりして交流する。会話だけでなく、手を振る、ガッツポーズ、頭を抱えるなど、動作で感情を伝えられる。
オンライン教材を用いた自習も可能だ。国語や数学といった教科の動画やテストに挑戦し、自分のペースで学ぶ。
対象は、自宅で過ごす時間が長く、家族以外と話す機会が少ない不登校の児童生徒だ。市教育センターの奥野由子指導主事は「言葉で感情を表すのが苦手な子どもでも、アバターの操作なら感情を表現しやすい」と手応えを感じている。「居場所の一つとして周知し、ニーズに合った支援をしたい」と話す。
■受け皿が不足
メタバースの活用を始めた背景には、市内の不登校児の急増がある。市によると、2023年度の不登校の小中学生は1120人。19年度から580人増え、ほぼ2倍になった。
市ではこれまで、学校に行けても教室に入れない子どものため、クラス以外に居場所をつくる「校内サポートルーム」や、学校外の支援拠点「MAP(旧適応指導教室)」を設けてきた。しかし、家からほとんど出られない不登校児向けの受け皿は不足していた。
メタバース運用の効果が出るかはこれからだが、同センターの山岸朋子所長は「足踏みしていた子どもたちが、社会とつながる足がかりになれば」と期待する。
県全体でも不登校は増加傾向だ。文部科学省の調査によると、24年度の不登校の小中学生数は計3182人で、23年度に次ぐ過去2番目の多さだった。
■教職員ら設計学ぶ
メタバース導入を目指し、教職員らがノウハウを学ぶ動きも出てきた。
富山市の特別支援学校「県立ふるさと支援学校」では9月下旬に研修会が開催され、教職員ら約20人が参加。仮想空間の設計について、専用のソフトを使って学んだ。
同校には22人の生徒が在籍するが、半分ほどは病気で入院中。適応障害などで学校に通えない子どももいる。「みんなが同じ空間で授業を受けられたら」との学校の思いに応え、富山大学のコーディネーター、木下夕嗣さん(30)がメタバース活用を提案した。野口貴史校長は「教育現場で積極的にメタバースを使う未来もあり得ない話ではない。教職員も、新しい手法を学ばねば」と強調。「生徒たちが社会に出るときに役立つよう、人とのつきあい方を学ぶきっかけになれば」と力を込める。
将来は、仮想空間での授業のほか、保護者の授業参観や学園祭も目指すという。研修に参加した同校の講師、八田雅代さん(63)は「不登校の子どもにとっては学校に来るより、メタバース上の会話の方が、難易度が低いかもしれない」と感じていた。