市に大学新設構想、若者の流出に歯止めを…学生集まらなければ公金無駄になる恐れも
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和歌山県田辺市に公立大学の新設を目指す構想が動き出した。高校生が進学を機に市外に出てしまうのを防ぐとともに、全国から若者を呼び込む狙いだが、学生が集まらなければ公金が無駄になる恐れもある。有識者や自治会関係者、市職員らをメンバーとする検討委員会の初会合が13日夜、市役所であり、今年度中に実現可能かどうかについて見極めることを確認した。(津田啓生)
「(大学ができれば)地元高校生の進学の選択肢は広がり、地元定着の可能性が高まる。街のにぎわい創出、地域経済の活性化にも大きく寄与する」。初会合の冒頭、木村晃和副市長はこう意欲を示した。
公立大学はAI(人工知能)を含む情報科学や社会学を学ぶ文理融合型の教育を行う「熊野
初会合は冒頭以外、非公開だったが、参加者によると、近年の高等教育の動向や市の現状について認識を共有し、新設への期待や懸念などを話し合ったという。市が県内の高校生や企業を対象としたアンケートなどを実施しており、検討委はこの結果を踏まえ、今年度中に新設の可否を判断する予定だ。
議論のきっかけは、一般財団法人「立初創成大学設立準備財団」(兵庫県宝塚市)の昨年8月の提案だった。財団は関西学院大の関谷武司教授(教育開発学)とその教え子らが設立した団体だ。
市は人口減少、とりわけ高校生の流出への問題意識が高く、関心を持った。県内の大学の大半は和歌山市にある。紀の川市や高野町にもあるが、紀南地域は「空白地帯」だ。
田辺市は市内だけでなく、ほかの紀南地域に住む若者の受け皿になることを期待。市の試算によると、新設には約50億円かかるが、国の補助や企業などからの寄付を活用すれば、市の財政負担は約18億5000万円にとどまるという。私立大学に比べて学費が安いため、学生の確保も可能と見込む。
ただし、市民の間には慎重な意見もある。
今月8日に行われた、財団のメンバーを招いた勉強会では、「財源はあるのか」「本当に必要なのか」といった声も上がった。
また、旧市庁舎が津波浸水想定エリアにあるリスクや財源、学生確保の見通しの甘さを問題視する市民団体「公立大学を考える会」が近く発足する。事務局長を務める予定の山本智久さん(71)は「子育て支援など取り組むべき課題が多い中、不透明な大学新設に多額の公金を使うのは疑問だ。市の未来について議論を深めたい」と話している。
「大学守る」覚悟持てるか
国のまとめでは、公立大学は1989年度の39から2024年度には101に増えた。各地で計画があり、さらに増加する可能性もある。
21年4月に開学した三条市立大(新潟県三条市)は工学部のみの単科大学だ。工学と経営学を組み合わせた独自のカリキュラムを設定しており、5年連続で定員(80人)を上回る志願者を集めている。佐賀県や三重県四日市市も検討を進めている。
一方、開設に向けた準備をしてきた岩手県北上市では今年10月、関連予算が市議会で否決された。学生確保の懸念などがあり、理解が得られなかったという。
公立大学協会の中田晃事務局長は「これまで公立大学の定員割れはほとんどなかったが、18歳人口の減少が急激に進んでおり、今後、学生の確保が困難になる危険性がある」と指摘。「自治体、住民は『どんな状況でも大学を守る』という覚悟が持てるかを議論した上で、新設を考えてもらいたい」と話す。