再放送に「選」目立つNHKBS、衛星契約数が半期で12万件減…コロナ禍当時の下げ幅を通年で上回るか
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NHKの受信契約数が今年4~9月で24万件減少したことが、10月に公表された第2四半期業務報告書で明らかになった。とりわけ衛星契約数の落ち込みが半期で12万件と、コロナ禍当時の下げ幅を通年で上回りそうな勢いだ。一向に下げ止まる気配のない契約数の減少は、新年度以降の番組制作費のさらなる削減を余儀なくし、現在、水面下で続く会長人事にも影を落としそうだ。(文化部 旗本浩二)
「契約総数・支払数ともに減少幅は縮小」
契約総数は、過去最高だった2019年度末の4212万件からコロナ禍などで減り始め、24年度末は4067万件と5年間で145万件減少している。今回公表された第2四半期業務報告書によると、9月末現在の契約総数は4043万件で、昨年度末より24万件減少。実際の支払数は昨年度末の3893万件から3866万件となり、こちらは27万件減っている。この点について、同報告書は「契約総数と支払数はいずれも減少しているが、さまざまな営業施策を組み合わせた『新たな営業アプローチ』の強化により、減少幅は前年同時期から縮小に転じている」とする。
しかし、契約総数はこのままのペースだと、コロナ禍により年間43万件が減少した2020年度に次ぐ40万件の減少幅となった24年度に匹敵するか、さらにそれを上回る恐れが出てきた。中でも衛星契約数は、半期で早くも12万件減少。これまでコロナ禍の20年度でさえ年間17万件減でとどまっていただけに状況は深刻だ。
危ぶまれる27年度収支均衡
NHKの衛星放送には、ハイビジョン画質の2Kによる「NHKBS」、さらに高画質の4Kの「NHKBSプレミアム4K」、8Kの「BS8K」がある。しかし、BSプレミアム4Kの番組表を見るかぎり、4K独自の番組はほぼないに等しく、視聴者が増えているとの声は聞こえてこない。BS8Kとなると、巨大なディスプレーがない限り、その恩恵にあずかれるとは言い難く、こちらも一般家庭での利用が進んでいるとの話はない。
そもそも多くの視聴者を想定したNHKBS自体、再放送や、実質的な再放送の「選」が番組表で目立ち、地上契約より月額850円高い(2か月払いの場合)衛星契約料金に見合っていないとの声が出ており、衛星契約数減少の一因とも考えられる。どれだけ衛星契約者が納得できる番組を並べられるかは大きな課題だ。
ところがそれが容易でない。23年10月に受信料を1割値下げした影響で、27年度までの4年間で1000億円という巨額の支出削減を迫られる「緊縮財政下」にあるからだ。現在は赤字予算を組んでおり、27年度に年間5770億円で事業収支を均衡させる計画だが、昨今の契約件数の減少トレンドで、その実現も危ぶまれている。
人海戦術の営業活動をやめたことが契約減少の大きな要因だが、昨今の物価高や世帯数の減少、さらにインターネット社会の進展によるテレビ離れの拡大も影響してきている。井上樹彦副会長は7月の定例記者会見で、営業手法について「効率的な様々なやり方でアプローチできるのではないか。その手応えも少し見えてきている」と述べた。だが、起死回生の策はいまだ公表されていない。
番組拡充でチャンネル活性化も一策
NHKでは現在、26年度の予算を策定中だが、このままでは、さらなる支出削減に踏み切らざるを得ず、矛先は番組制作に向かうとみられる。25年度予算では、BSプレミアム4Kに88・2億円、BS8Kに5・9億円が番組費として計上されており、9月の定例記者会見で稲葉延雄会長は4Kには「これまで同様、積極的に取り組んでいく」とし、8Kについては「医療や他の分野に展開できる潜在力があるものなので、そういう面での貢献も含めて対応していきたい」と述べている。ただ、いずれは保有チャンネルの整理も必要になるかもしれない。
それでも全契約者の53%が衛星契約を結んでいる現状では、少なくとも2KのNHKBSそのものをやめることは考えにくい。逆に制作費を削るばかりでなく、多くの視聴者の関心事である国際的なスポーツ大会があれば、あえて高額の放送権料を支払ってでもNHKBSでの中継枠を十分に確保するなど、番組の拡充によりチャンネルの存在感を示すのも、衛星契約数減に歯止めをかける一策だろう。
外部会長候補、経営委最大の悩みのタネ
それだけに地上波番組も含め、NHKの真骨頂である見応え十分のスポーツ中継やドラマ、ドキュメンタリーをどれだけ打ち出せるか、新年度予算編成は正念場だ。その予算は国会で承認を得ねばならないが、議員たちにその説明を行うのは、稲葉会長が来年1月24日に任期満了となった後の新体制だ。
会長人事は現在、NHKの最高意思決定機関である経営委員会で議論されている。この20年、会長が3年ごとに交代する度に、予算作成に腐心した会長と国会説明を行う会長が異なってきた。これは、職員の不祥事をきっかけに大量の受信料の支払い拒否・保留が起きて05年1月に当時会長だった海老沢勝二氏が引責辞任して以来続いている。08年にアサヒビール相談役からNHK会長に就任した福地茂雄氏以降は、現在まで外部の人材が会長を務めており、予算だけでなく、NHK自体について短期間で一から頭に入れて国会に臨まねばならない。しかも報酬は年3092万円(25年度)と大手企業の役員報酬との格差は大きく、営利事業の兼業も禁止されることから、会長人事のたびに外部のなり手が見つからず、経営委の最大の悩みのタネだった。さらに事実上、官邸の意向も反映されるため、人選は毎回困難を極めてきた。また、役員経験者など内部からの登用を望む声もあるが、ガバナンスや経営効率化の面で「内部人材で十分な改革ができるか」と疑問の声もある。
新会長選出でも見えない進路
それに輪をかけて今回は、契約数の長期減少トレンドからの脱却というこれまでにない経営課題が、新会長の人選にも影響を及ぼしそうだ。経営委では、まずは現会長の業績評価を行い、続投の可否を議論。その上で新たな人材を探り、おおむね12月中旬には決定する。ただ、5月には古賀信行経営委員長が「放送法上、会長は権限が強いと言われるが、いくら強くても1人で全部はできない。経営はチームで臨むべきだ」と実効性のある役員体制のあり方について異例の問題提起を行っている。公共放送の懐具合が一層厳しくなる中、これまでのように会長さえ選出すれば、NHKの進路が見えてくるわけではないとの認識の表れだろう。
この20年、3年ごとに新しい会長を迎え、その旗のもとで事業が運営されてきたNHKだが、経営の足元を揺るがす契約数の減少を、果たして本当にストップできるのか。会長以下、執行部の双肩にかかっている。