白紙掲げた5分後に帰省させられ精神科に強制入院…中国「白紙運動」1年、参加者「自由求めただけ」
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2022年11月下旬から一時、中国政府が約3年にわたって続けた「ゼロコロナ」政策に若者らが抗議した「白紙運動」から間もなく1年となる。当時の参加者らは再発を警戒する中国当局の圧力の前に沈黙を強いられているが、不満の発露とみられる現象は今も続く。(上海支局 田村美穂、中国総局 川瀬大介)
海外で証言 家族に圧力…顔認証参加者 拘束続く
難民申請
「自由を求めただけ。自分の希望を訴えることもできないのか」
本紙のオンライン取材にこう訴えたのは、22年11月28日朝、北京の大学構内で1人白紙を掲げた江蘇省南通市出身の大学1年、張俊傑さん(18)だ。
新型コロナ感染が拡大した当時、各地の大学や住宅地が封鎖されていた。飛び級で入学したばかりの張さんも約3か月、寄宿舎のある校内から自由に出られなかった。そんな時、
ただ、白紙を掲げた5分後に大学関係者に見つかり、実家に帰省させられた。当局の意向で精神科病院に強制入院させられ、「中国共産党は素晴らしい」と、連日のように諭された。
耐えられないと感じ、ニュージーランドへの留学に踏み切った。反体制とみなされれば、出国を禁じられるケースも多い中でなぜ認められたのかは不明だ。ただ、海外メディアに自らの体験を語った後、中国国内の家族への当局からの圧力が強まったと知った。張さんは帰国すれば自身に危険が及びかねないとして、NZに難民申請した。
拘束・殴打
今年3月からドイツに留学中の黄意誠さん(27)も22年11月27日夕、上海中心部の「ウルムチ中路」で抗議活動に参加した。
北京大を卒業後に上海に戻っていた黄さん。前日に同じ場所で拘束された参加者の解放を呼びかけようと現場に向かった。白紙は掲げず、政治的なスローガンは叫ばなかった。だが、参加者は再び次々と拘束され、自身も全身を殴打され、車両に押し込まれた。一瞬の隙に乗じて逃走し、その後は国内外の友人との連絡を絶ち、自宅に閉じこもった。
ドイツでは「運動の記憶を歴史に残さなければならない」とあえて実名と顔を出し、海外メディアの取材に応じている。ただ、こうして運動を振り返ることができるのは、海外に逃れたからこそだ。当局は監視カメラによる顔認証やスマートフォンの位置情報を活用して参加者を特定し、抗議を主導したとみた人物を拘束した。関係者によれば、内陸部の都市では今も、一部参加者の拘束が続く。
抗議活動に関われば、中国独自の個人情報ファイル「
閉塞感
ただ、中国はコロナ後も経済は上向かず、若者の失業率は高止まりしている。かつての高成長は期待できず、社会の
10月に死去した
北京の改革派の学者はこう語った。「実際に政権打倒まで考えている人はほぼいないと思われるが、政権は不満を募らせる若者の反乱を恐れているようだ。政権にとっては、当面は我慢の期間となるだろう」
◆白紙運動 =2022年11月24日夜、新疆ウイグル自治区ウルムチで起きた高層マンション火災が発端となった。火災の犠牲者は当局発表で10人。ゼロコロナ政策が原因で住民避難や、消火活動に遅れが生じたと指摘され、追悼や当局への抗議を示す動きとして広がった。白い紙には「無言の抗議」の意思が込められている。
習政権と若者 意識に差…大東文化大東洋研究所 鈴木隆教授(中国政治)
「白紙運動」は一部で政権打倒が叫ばれたものの、本質はゼロコロナ政策の
習政権は家父長的な指導を強め、政策は個人のプライバシーの領域まで介入する。白紙運動で、政権の方針と若者たちの意識の差が明白になったとも言える。共産党が今後も政権を維持するには若者の支持が欠かせない。世代間ギャップをどう埋めるかが中国政治の大きな課題となるだろう。