「緊急銃猟」判断も腕章着ける前にクマが起き警官対応、アスファルトで跳弾の恐れ…実施判断に難しさ

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 市街地にクマが出没した際に、市町村の判断でハンターに発砲を命じることができる「緊急銃猟」の制度が先月始まった。山形県内では既に、鶴岡、米沢両市で市長が緊急銃猟を実施する判断をした。いずれも緊急銃猟による駆除には至らなかったが、住民やハンターらの安全をどう確保し、市町村の人材をどう育成するかなど、運用に向けた課題が見えてきた。(山田優芽)

膠着状態の現場

 全国初の緊急銃猟判断は、9月20日に鶴岡市で行われた。

 同市で午前10時頃から、市街地でクマを目撃したという通報が相次いだ。同11時10分頃に住宅の庭にいると通報が寄せられ、警察官のほか猟友会員や市職員も現場に駆けつけた。クマは木の下で後ろ向きに寝ている状態だったという。

 警察官職務執行法(警職法)では、クマへの発砲を警察官が許可できるのは「特に急を要する場合」とされ、クマが動かない状態では判断が難しい。現場は 膠着こうちゃく 状態となった。

ツキノワグマ
ツキノワグマ

 市職員らは住宅内からクマの様子をうかがい、交通規制や住民への周知が行われている状況を市幹部に共有した。それを受け、市長が午後0時20分頃、緊急銃猟の実施を判断し、現場に伝えた。

 だが、緊急銃猟の際に着用する腕章を準備している間にクマが起きてしまい、床下に入ろうとする動きを繰り返した。住宅内の猟友会員らに向かって来たことから、警職法に基づく発砲が可能となり、午後0時25分頃、警察官の指示を受けた猟友会員が、住宅の窓の隙間から発砲、捕獲した。

4要件で難しかったのは

 緊急銃猟の実施には〈1〉日常生活の場に侵入するか侵入の恐れが大きい〈2〉緊急性がある〈3〉銃猟以外で捕獲が困難である〈4〉発砲で人に危害が及ばない――ことが条件となる。4要件はそろったが、市農山漁村振興課の五十嵐崇・水産振興主幹は「特に〈4〉が難しかった」という。

 住民の安全確保には、弾丸がクマを貫通しても周囲に飛ばない環境が必要だ。地面がアスファルトだと弾が跳ね返る危険性がある。環境省は芝生や畑などを想定している。今回は地面が土だったため、緊急銃猟を判断できた。

 市は弾が跳ね返らないように、威力が比較的弱い散弾銃を選択した。さらに、他の住宅に被害がないよう、水平方向ではなく斜め上から角度をつけて撃つ必要があり、クマとの距離を詰めてから下向きに撃つこととした。

 今回は、クマが後ろ向きで寝ていたため、このような判断となった。猟友会員らの安全確保が優先されるので、最適な距離や撃ち方は状況によって変わる。クマと正対した場合はまた別の判断をすることになる。

「事前に役割」必要

 鶴岡市は今月、緊急銃猟実施の権限を現場の職員に委任した。

 五十嵐さんは「責任の重い判断だ。法律に明るく、クマの生態も分かっていて、かつ警察官や猟友会員とも対等に話せる人でないとできない。人材育成が課題だ」と話す。

 発砲前の交通規制や住民への周知などは、市職員だけでは手が回らないことも分かった。今回は警察官が既に行ってくれていたため緊急銃猟にスムーズに移行できたという。「改めて警察官などと連携し、事前に役割を決めておく必要があると感じた」。事例を検証し、今後に生かしていく。

2例目は箱わなに入り捕獲、発砲に至らず

 緊急銃猟の判断が行われた2例目は、今月6日の米沢市だった。

 午前中からクマ1頭が住宅街のやぶに居座り、箱わな2基を設置したが、やぶに隠れたまま膠着状態となった。猟友会員らは現場近くの建物2階に待機。撃ち下ろす形で発砲できることから、目撃から約8時間半後、緊急銃猟の判断が行われた。だが、直後にクマが箱わなに入り捕獲されたため、発砲には至らなかった。

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