厳しさ増す安全保障環境、なり手不足の自衛官…AI活用や無人化では効果に限界
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陸海空3自衛隊の中で、定員を「比較的減らしやすい」と指摘されるのが陸自(定員約15万人、現員約13万人)だ。海上自衛隊、航空自衛隊は保有する艦船や航空機の数に応じて、それらを動かすために必要な最少人数が決まるためだ。
政府関係者によると、近年、ある研究が行われた。人口減少や採用状況をもとに充足率ができるだけ100%になるように試算すると、陸海空部隊の定員は計5万人減らす必要がある。その場合はどう戦えるか――。定員削減が「5万人」より少ないと、結局、すぐに定員と現員の乖離が生じる。ギリギリのラインとしてはじき出された数字という。
ただ、陸自は「組織文化として定員削減に対する抵抗感が非常に強い」(陸自幹部)。陸上部隊にとって人数は能力そのものを意味するからだ。
陸自は数百人単位の部隊を迅速かつ的確に動かすために、様々な訓練を繰り返して練度を維持している。部隊編成を縮小すると再び拡充するのは容易ではない。「有事の際に増員の必要性が生じる可能性を考えると、削減には慎重にならざるを得ない」と陸自幹部は語る。人命救助やがれきの撤去など、マンパワーが必要な災害派遣の現場でも主体となるのは陸自だ。
それでも人口減は待ったなしだ。昨年度の陸自全体の充足率は87・7%だが、中には5割に満たない部隊もあるという。複数の幹部によると、厳しい現実を踏まえ、陸自内部でも今、水面下で定員を巡る議論が活発化している。
冷戦終結から30年が過ぎ、安保環境が悪化する今、防衛省は敵の重要拠点を攻撃できる長射程ミサイルなど、新たな態勢をつくることで抑止力を高める方針だ。
別の防衛省幹部は「より少ない人員で他国に攻撃を思いとどまらせる自衛隊の形をもっと追求すべきだ」と力を込める。離島防衛にあたる水陸機動団や
国全体で議論
人員体制の再検討には「中間司令部」と「駐屯地・基地」の見直しも避けられない。3自衛隊が全国にそれぞれ4~5か所置く総監部や司令部の一部機能は、3月に新設されたより上位の「統合作戦司令部」と重複する。全国に多数ある駐屯地や基地の一部も統廃合や無人化できる余地があると指摘される。そのためには、協力関係にある地元自治体の理解が不可欠。自衛官と家族が転出することによる税収や地元経済への影響を懸念する自治体も多いからだ。
防衛研究所の小野圭司主任研究官は「人口減の中で現体制を将来も維持するのは不可能だ」と言い切る。そのうえで「確保できる人員を現実的に検討し、主たる防衛任務に隙を見せないようにする必要がある。そのためにも、従たる任務はどこまで担うべきか、抜本的に見直すべきだ」と指摘する。
自衛隊の編成も自衛隊法で定める。そのあり方を議論して決めるのは国会であり、政治家を選ぶ有権者だ。日本の平和な社会は、自衛隊の絶え間ない活動の上に成り立っている。国際秩序が揺らぐ今、国民全体で考え直すべき時が来ている。
社会部主任 溝田拓士(みぞた・ひろし)= 2005年入社。社会部、カイロ支局、ソウル支局などを経て23年12月から防衛省・自衛隊を担当。安全保障問題を中心に国内外のニュースを追う。