私大合格後の辞退、既に納めた入学金はどうなる?文科省通知受けて返還の動き…「大学も余裕ない」財政への影響大きく戸惑いも
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私立大入試に合格後、別の大学に入学を決めるなどした辞退者に対し、既に納めた入学金を大学側が返還する動きが始まった。入学金の「二重払い」を防ぎ、受験生の負担軽減を求める文部科学省の通知を受けた対応だ。受験生らは歓迎するが、入学金の支払いによって入学者数を予測してきた大学側からは戸惑いの声も上がる。(飯田拓)
歓迎と期待
桃山学院大(大阪府和泉市)は、今年度実施する入試から、辞退者に入学金23万円のうち18万円を返還する新制度を始める。返還されない5万円分は、入学金が納付された段階で始める事務手続きの経費などに充てるという。
関西の主な私立大で返還の方針を公表したのは初めてで、入試担当者は「受験生を支える家族や高校教員と接する中で入学金の負担の大きさを実感し、受験生のために何かしたいとの思いで制度を作った」と話す。
高校1年の娘がいる大阪市北区の会社員女性(54)は、先に子どもが受験を終えた知人から「(入学金で)数十万円が一度に消えた」と聞かされたといい、返還の動きに「親としては非常に助かる。娘が受験する頃にはもっと広がってほしい」と期待する。
これまで複数校を受ける受験生は、志望校の合否判定前に、既に合格した大学に入学金を納めて枠を確保してきた。志望校に合格して辞退した場合、入学金は「二重払い」となる。
近年は、受験生を多面的に評価する総合型や学校推薦型など、早期に合格が決まる「年内入試」が広がっている。以前に比べて受験生が多くの大学を受ける傾向があるため入学金の負担が議論され、文科省は6月、全国の私立大に負担軽減を求める通知を出した。
大阪府内のある私立高の進路担当教員は「経済的な事情で、本命の一発勝負に懸ける生徒もいる。入学金の返還が広がれば、より柔軟な受験戦略を練ることができる」と喜ぶ。
美作大(岡山県)も、国公立大に進む辞退者に入学金を全額返還すると発表した。学生確保に苦戦している学科もあり、担当者は「これを機に受験しようと思ってもらえたら」と話す。
文化学園大(東京都)や新潟工科大(新潟県)、新潟産業大(同)も、入学金の返還制度を始める。
定員管理難しく
私立大の入学金は、医、歯、薬学部を除けば20万円台が一般的だ。返還に踏み切る大学がある一方、少なくとも今年は、慎重な姿勢が根強い。今年度の予算や入試日程がほぼ確定しており、大規模大では財政への影響が大きいとみられる。
関西のある私立大の入試担当者は「大学も余裕がない。辞退者の入学金を返すとなれば、授業料を値上げする可能性もある」と語る。
多くの大学は、入学金の払い込みをした合格者の大半の入学を見込み、その後に実施される入試の合格者数を調整している。入学者が定員に足りないと授業料収入が減るのはもちろんだが、定員不足でも超過でも、国からの補助金がカットされたり交付されなかったりするからだ。返還制度が広まり、多くの大学で枠を確保した受験生が志望校合格後に辞退した場合、定員の管理が難しくなる。
成績上位層がいくつも合格枠を押さえると、その大学を第1志望とする受験生が入学できないという指摘もある。別の私立大の関係者は「回り回って受験生が損をしかねない。容易には動けない」と明かす。
「返還義務なし」
最高裁は2006年、辞退者が入学金の返還などを求めた裁判で、入学金は「入学できる地位を取得するための対価」とし、特別の事情がなければ大学に返還義務はないとした。
文科省の推計では、23年度に大学に進んだ人の23・5%が、実際は通っていない大学へ入学金を支払った。同省の担当者は読売新聞の取材に「大学側の事情は理解できるが、受験生の目線に立てば、経済的な理由から進路選択の幅が狭まるべきではない」と語った。
河合塾教育研究開発本部の近藤治・主席研究員は「高額な入学金がなぜ必要なのか、大学が受験生に納得できる説明をしてこなかったことも背景にある。今年は返還の仕組み作りが間に合わない大学が多かったが、今後広がる可能性はある」と指摘する。