研究者の争奪戦、大阪大が果敢にチャレンジ…トランプ政権の科学予算大幅削減が背景 

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大阪大大学院・医学系研究科長 石井優さん52 

「日本が世界の科学を守り、支えていくという気概があっていい」と話す大阪大大学院医学系研究科の石井優科長(大阪府吹田市で)=大久保忠司撮影
「日本が世界の科学を守り、支えていくという気概があっていい」と話す大阪大大学院医学系研究科の石井優科長(大阪府吹田市で)=大久保忠司撮影

 友好国にも高関税を課すなど、トランプ米政権による多岐にわたる政策変更が、多方面に影響を与えている。その一つが科学予算の大幅な削減だ。米国内の大学などで、研究の継続が難しくなり、海外に活路を求める研究者の争奪戦が世界各国で進んでいる。日本の大学も“参戦”しているが、いち早く獲得競争に手を挙げた大阪大大学院の石井優・医学系研究科長は「優秀な人をリクルートできる千載一遇のチャンス」と意欲的だ。今月17日には、現地でイベントを開き、阪大の研究力を世界にアピールし、採用につなげたいという。

(編集委員 秦重信)

100人雇用

 大阪大は5月末、米国内を拠点とする研究者を医学系研究科の特任研究員として最大100人雇用すると発表し、8月から公募を始めた。現在約20人の応募者から選考中で、第1弾として11月までに数人を雇用する予定だ。自己財源で6億~10億円確保するなど、他大学に比べて具体的で早かった対応について、石井研究科長は「阪大のチャレンジ精神だ」と説く。

 「国家に最も近くすべての中心であり続ける『東大』、古都にあり歴史と伝統を守る『京大』がある中で、『阪大』の価値は、そういったある意味の『しがらみ』がなく、常に挑戦できることにある。阪大の源流である適塾では、東洋医学全盛の江戸時代に西洋医学をいち早く取り入れ、種痘(牛痘接種)を普及させた。当時の大阪帝国大学は、民間の資金で設立された経緯があり、お上のお仕着せではなく、常に自分たちの創意工夫でチャレンジし続けてきたことが阪大の誇るべき歴史だと思っている」

最後は人

 阪大の公募対象は、40歳くらいまでの博士研究員(ポスドク)が中心で、基本年俸は約600万円。米国の教授クラスを雇用できるほどの額ではないものの、国内の大学ではポスドクでも満足な待遇を受けられない人も少なからずいる。米国内の研究者受け入れに予算を割くことに批判もあるが、「日本の科学の発展につながる」と、その意義を語る。

 「日本ではポスドクを増やしたけれども、(20年以上前の)国立大学の独立行政法人化で定員が減り受け皿が減った。そういう人たちをないがしろにするわけではない。公募も国籍は問わず、米国の大学にいたり、目指していたりする日本人も対象になるので、広い意味で助けになる。ただ、今回は別の課題として考えている。本来であれば、日本に来ないような優秀な研究者が応募してきている。彼らが日本の学術レベルを引き上げてくれることはひいては新たな科学技術の発展、産業化に結びついて日本の国力を上げることにつながる。やっぱり科学って最後は人。すぐれた研究とは『無から有』を生み出す。AIでもできない。いくら研究費が潤沢で、高価な装置があっても優秀な人がいないと進まない。いい人が来れば、人材も育つ」

現地でPR

 阪大は免疫学で国際的な評価が高い。石井科長はそうした先端的な研究をしている教授3人を伴い、17日に米国・ボストンの名門ハーバード大でイベントを開く。国内でも京大や東北大などが受け入れに名乗りを上げるが、「阪大の研究力をじかに伝える機会」と意気込む。

 「ボストンは、ハーバード大以外にもマサチューセッツ工科大学(MIT)などがあり、優秀な研究者が多い。異動を望んでいる人も多いと聞いている。100人のうち、何人かをここでリクルートしたい」

 ◆1998年大阪大学医学部卒業。2000年同大学大学院医学系研究科助手、06~08年米国立衛生研究所、国立アレルギー感染症研究所の客員研究員などを経て、13年同大学院生命機能研究科教授。25年から医学系研究科長・医学部長。

人材育成の大切さ思う 

 石井さんは、生命科学・医学の分野で世界最大級の研究所である米国立衛生研究所(NIH)などで2006年~08年に客員研究員として学び、米国の研究レベルの高さを肌で知る。しかし、そのNIHの新年度予算は今月から始まる予定の予算教書で、前年度比40%減の約270億ドル(約4兆円)となり、研究者も多数解雇されている。

トランプ政権に科学研究を守るよう訴える抗議デモのNIHの研究者(5月1日、米ワシントンで)=中根圭一撮影
トランプ政権に科学研究を守るよう訴える抗議デモのNIHの研究者(5月1日、米ワシントンで)=中根圭一撮影

 米国の科学予算の大幅な削減は世界の勢力地図を大きく変えるかもしれないと、石井さんは読み解く。「米国の繁栄は、世界最大の科学立国になったことが大きい。先の大戦でドイツなど欧州から大量の科学者を受け入れるなどし米国の科学を支えてきた」。しかし、今の米政権は、真逆の政策を進める。「欧州や中国は歴史を理解し、今米国を出し抜くチャンスだと考え、優秀な研究者の獲得に熱心だ。日本も国を挙げての取り組みが必要だ」と指摘する。

 今年のノーベル賞では生理学・医学賞に阪大特任教授の坂口志文氏(74)、化学賞に京都大特別教授の北川進氏(74)が選ばれた。物理学賞を含めた自然科学3賞で、今後も受賞が期待できる日本の候補者は控えているが、研究成果は20年~30年以上前のものが多い。坂口、北川両氏の成果も約30年前に遡る。

 未来を見据えれば、日本の基礎科学に関して楽観できないデータが並ぶ。「注目度の高い論文」として引用された回数で上位10%に入る論文数は、1990年代後半は世界4位だったが、今では13位と低迷。研究の質の低下、人材の先細りを表している。

 「科学って最後は人」。石井さんの言葉が切実さを増す。資源小国の日本は科学技術力の高さで国力を支えてきたが、人材がいてこそだ。米国の研究者の獲得競争を巡り、改めて科学における人材育成の大切さを思う。(秦)

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