[時代の証言者]アニメで描く物語 富野由悠季<3>アムロ父 実父がモデル

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父が開発に関わっていた与圧服の写真=本人提供
父が開発に関わっていた与圧服の写真=本人提供

 《父・喜平さんは神奈川県小田原市に移住し、日本軍関係の軍需工場で働くことになる》

 父は29歳ぐらいまで学生でした。化学者として軍需工場に勤めたのは兵役逃れの意味もあったのでしょう。一度だけ朝鮮半島の部隊に引っ張られていますが、軍事技術者ということが判明して、3か月で日本に戻されています。

 父の勤めていた工場はゴム引きの不織布を製造しており、軍人が着る雨がっぱを製造していました。後に戦闘機のパイロットが着る「与圧服」の開発や研究に携わるようになります。

 与圧服を作る際に、ゴムを人が着る形に縫製することがとても面倒だったらしいのです。資料として家に残されていた写真は完全に宇宙服のようにみえます。

 そのほかにも、気球に爆弾を搭載しアメリカ本土へ到達させる「風船爆弾」を作ることにも関わっていたようです。風船の皮膜をゴムを使わないで作る方法を軍から命令されて、こんにゃくを使った皮膜を作る試験をやったようです。だから父は、風船爆弾のことをこんにゃく爆弾と言っていました。

 戦争に絶対に勝つと思っている人間ほど恐ろしいものはありません。父は「頑張れば日本はどんどん良くなる」ということを本気で信じていたらしいのです。そうでなければ風船爆弾みたいな、ばかな技術を一生懸命手伝いはしなかったでしょう。

 理科系のいいセンスを持っていた人なのに、爆撃される可能性のある工場の隣に平気で住んでいて、B29の威力を化学者でありながら想像できていなかったのです。人間の思考回路が単一化することは本当に危険です。

 父は敗戦後、中学校の理科教員として働き、定年まで勤め、僕と弟2人を育て上げてくれました。ただ、酒を飲んでいたときの口癖は「国に裏切られた」でした。つまり、父は化学者という立場を国が絶対的に保護してくれると思っていたんじゃないでしょうか。

 後に「機動戦士ガンダム」で主人公アムロ・レイの父親のテム・レイというキャラクターを作りました。テム・レイは科学技術者で、事故で脳をやられ、悲惨な最期を遂げます。彼は父がモデルです。

 演出しているときには、父のことは全く思いついていなかったのですが、2、3年して、そうか、あの人のことを僕は知っていたから、あれができたんだという実感がありました。冷たいといえば冷たいんだけども、やはり現実とはこういうものなんだということを演出して、次の世代の子たちに見せておきたかったのです。(アニメーション映画監督)

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