ミャンマー下流のタイ北部で鉱害深刻…中国系企業が無秩序にレアアース採掘か、住民「農業も観光も壊滅した」
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戦闘が続くミャンマー国内で、中国系企業が関与しているとみられるレアアース(希土類)などの鉱山採掘が増え、国境を挟んで下流にあるタイ北部で河川の水質汚染が問題化している。少数民族武装勢力や国軍の資金源になっているとみられ、タイ側の川沿いの村では懸念が高まっている。(タイ北部メーアイ 水野哲也、写真も)
濁ったままの川
タイ北部チェンマイ県の国境の村メーアイ。小高い山の向こう側はミャンマーの北東部シャン州だ。村の中をコック川が流れ、住民の多くはトウモロコシやニンニクなどを栽培する。
「川の水の色が変わり、魚も少なくなった。川は私たちの生活を支えてきたが、今は子供たちが遊ぶこともできず、農業も観光もすべてが壊滅した」。村でレストランを経営する女性(59)は話した。
異変は昨年秋の豪雨の後に起きた。通常は、多量の雨が降ると川は茶色く濁り、しばらくすると透明度が回復してきた。しかし今年は濁ったままだ。4月に地元当局の検査で基準値を超えるヒ素や鉛といった有害物質が検出された。
ミャンマーの市民団体「シャン人権基金」は5月、衛星画像の分析などから、国境から約25キロ北のコック川の両岸で、レアアースの採掘が行われていることが確認されたと公表した。「有害物質が川に流れ込み、流域住民の健康を深刻に脅かしている」と指摘した。基金関係者は「内戦下にある国で環境規制などのルールは事実上存在せず、中国系企業による無秩序な採掘が横行している」と語った。
タイの河川管理当局は10回にわたってタイ北部の各地の河川を検査し、広範囲でヒ素などの汚染が確認された。7~8月の雨期の増水に伴い、直近の検査ではコック川の有害物質の検出は減ったが、北部チェンライ県を流れる別の川では依然、基準値を超えている。
汚染は住民の生活に深刻な影響をもたらしている。メーアイでは、住民は川魚を食べることができなくなり、農家は川の水ではなく井戸を掘って野菜を栽培しているという。観光客も途絶え、閉業した業者もいる。村長のパタナポン・インタナさん(54)は「村の産業が大きな打撃を受けており、汚染が続いたら若者たちは次々と出て行ってしまう。村の将来が心配だ」と訴えた。
内戦で統治及ばず
ミャンマーはレアアースの豊富な埋蔵量で知られる。これまでは北部カチン州の中国国境に近い地域が中心地で、無秩序な採掘による環境汚染が指摘されてきた。しかし、国軍と戦う少数民族武装勢力「カチン独立軍(KIA)」が支配するようになった結果、中国系企業による採掘がシャン州に移っているとみられる。
基金関係者によると、シャン州の採掘現場は少数民族武装勢力「ワ州連合軍」と国軍が共に支配する地域で、中国語を話す作業員が働く。州内では、中国国境近くでも新たに採掘が確認されたという。レアアースは中国に輸出され、国軍や少数民族の収入源になっている模様だ。
タイ政府は8月、ミャンマーに代表団を派遣し、合同対策チームで連携して対応することを決めた。ただ、国境近くは国軍の統治が及ばない地域も多く、長引く戦闘が解決を難しくしている。
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