認知症男性が死亡の洗剤誤飲、特養の注意義務を巡って2審へ…専門家「難しい課題」
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3年前、福井市の特別養護老人施設で、認知症の男性が洗剤を誤飲して死亡した事案があり、施設の管理が不適切だったのが原因として、遺族が施設を運営する社会福祉法人に損害賠償を求める裁判を起こしている。1審・福井地裁は7月、施設側の過失を認め、約2800万円の支払いを命じたが、施設側は判決を不服として控訴し、来月、名古屋高裁金沢支部で審理が始まる。こうした介護事故について、専門家も防止の難しさを指摘する。(北條七彩)
訴状や判決などによると、当時85歳の男性は2022年5月、入居する部屋の洗面台に置かれていた食器用洗剤を誤飲し、3日後に
主な争点は、洗剤の保管方法について施設側に注意義務があったかどうかだ。
遺族側は、男性は重い認知症で、洗面台の水を飲むこともあったことから、オレンジのイラストが描かれた容器に入った洗剤を飲み物として誤飲する可能性は予見できたと主張。「手の届かない場所で保管することは可能で、注意義務を怠った」としている。
一方施設側は、男性には新聞を読む習慣があり、事故以前には異食行動はなかったことから、洗剤か否かを区別する能力はあったとし「誤飲は予見できなかった」と訴えた。職員が使うものを入居者の周辺に置くことは一般的で、細かな注意義務まで問われれば、介護プラン作成に必要な調査が膨大になると反論している。
双方の主張に対し、地裁は「誤飲する可能性があると判断することは可能で、洗剤を手の届かないところに保管する義務があった」として、施設側の過失を認めた。施設側も男性が洗面所で水を飲むことがあると認識しており、飲料と間違えうる洗剤を置けば「誤飲する可能性があることは十分認識できた」とした。
また、洗剤は男性ではなく、職員が使用するものであり「洗剤を(男性の)手の届かないところに保管することは、施設側にとって格別の負担は生じない」として、施設側の主張を退けた。
施設側は「判決は過度な負担を介護現場に負わせ、高齢者介護を
介護事故に詳しい東北福祉大の菅原好秀教授(社会福祉学)は「1審判決が確定すれば、高齢者介護を担う施設の過失が、他の損害賠償請求事件で認められやすくなる可能性がある」と指摘。その上で「施設には利用者の自由や尊厳を守りながら、安全に配慮する義務がある。職員の権利も尊重しつつ、介護事故を防止するのは難しい課題だ」と話している。