マイナス情報を軽視、チェック機能働かず…東京地検捜査巡る誤報検証

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読売新聞の編集幹部に対し、抗議文を手渡す池下議員(右)(27日、大阪府高槻市で)
読売新聞の編集幹部に対し、抗議文を手渡す池下議員(右)(27日、大阪府高槻市で)

 読売新聞は27日朝刊1面で、東京地検特捜部の捜査対象者を取り違え、日本維新の会の池下卓衆院議員が採用していた元公設秘書2人の給与を巡り捜査が行われているとの誤報を出したことについて、その経緯を検証した。取材メモや担当記者らへの聞き取りなどを精査した結果、記者の思い込みと確認不足、マイナス情報の軽視に加え、編集局内での情報共有が不十分でチェック機能が働かず、過去の誤報の反省と教訓が生かされなかったことなどが明らかになった。

思い込み

 取材の端緒は、社会部の記者が今年8月中旬、政界の事情に詳しい関係者から「東京地検特捜部が政界捜査に動いている」との話を聞いたことだった。別の関係者からも、日本維新の会の国会議員が秘書給与詐欺の疑いで捜査対象となっているとの情報を得て、過去の疑惑がヒントだとの示唆を受けた。

 記者が日本維新の会で過去に問題が報じられた人物を調べると、2023年に池下議員の公設秘書が市議と兼任していることを問題視した記事を見つけた。関係者の取材から、過去に問題が報じられている人物が捜査対象者だと考えていた記者は、池下議員の可能性が高いと考えた。

 記者はその後、誤報記事が掲載される前日の8月26日まで複数回にわたり、同じ関係者に対し、池下議員が捜査対象者かどうか確認を試みた。その方法は、記者から「(捜査対象となっているのは)池下議員か」と質問をして相手の反応をうかがうというもので、最初は「たぶん」と言われた。

 確信を持てなかった記者は、別の機会にも関係者に質問をしたところ、肯定的な回答をしたと受け止め、捜査対象者は池下議員に間違いないと思い込んだ。

 しかし、記者と関係者のやり取りを記した取材メモを精査すると、関係者の方から池下議員の名前を挙げたことはなく、関係者が質問の意図を理解しているか曖昧さが残る部分もあり、捜査対象者を特定するには不十分だった。

確認不足

 検察取材を統括する司法記者クラブのキャップは、取材結果の報告を随時受けており、複数の記者に対して、捜査を知り得る関係者への「裏付け」取材を指示した。8月26日までの間、複数の記者がそれぞれ別々の関係者に取材を行った。

 その結果、特捜部による政界捜査が進んでいることや、その内容が秘書給与詐欺事件であることまではつかめたが、捜査対象者が池下議員であると明確にできる情報は得られなかった。

 キャップは池下議員と元公設秘書2人への取材を検討したものの、特捜部による強制捜査が行われる前の早い段階であり、議員本人らに取材することは控えるべきだと考えた。

 そもそも、端緒となる記者の取材に確認不足があり、本来ならキャップは確認が不足していることを前提に、「裏付け」という言葉を使わず、この記者にも他の記者にも捜査対象者を確認することを徹底させる必要があった。そして、複数の情報源から確認が取れなければ、記事は出さないとの方針を明確にすべきだった。

 結局、捜査対象者が池下議員であるとの確定的な情報は、最後まで得られなかった。

掲載判断の誤り

 キャップは特捜部の捜査について、端緒をつかんだ8月中旬には上司の司法担当デスクに口頭で報告していた。

 キャップはその後も、デスクに取材の進み具合を報告してはいたが、記者の取材メモは提出せず、デスクもこれを求めなかった。また、デスクは特捜部の捜査について社会部長には報告していなかった。

 8月25日夜、捜査が本格化しそうだと担当記者から報告を受けたキャップは、その旨をデスクに報告する一方、捜査対象者の確認がまだ不十分で記事の掲載はできないとも伝えた。デスクも同意し、この時点で社会部長にも報告が上がった。

 翌26日朝、キャップは、担当記者から「捜査対象者が池下議員と元公設秘書2人であることは間違いない」との報告を受けた。その根拠は、本件で継続して取材していた関係者から肯定的な回答があったと受け止めたことだった。

 関係者が強く肯定したと理解したキャップは、記事を掲載したいとデスクに申し出て、デスクは社会部長に捜査対象を確認できたため、27日朝刊に記事を掲載したい旨を伝え、部長も了承した。

 しかし、記事の掲載にあたっては、複数の取材源から確認することが必須で、十分な確信が持てない場合は記事掲載そのものを見送るという原則があるにもかかわらず、記者とキャップ、デスクは取材結果に対する評価を誤っていた。

議員ら疑惑否定

 記事を掲載する過程では、記事の内容に疑問を抱かせるようなマイナス情報もあった。

 キャップは25日夜、特捜部の捜査が本格化しそうだとの取材結果を受け、池下議員と元公設秘書2人への直接取材が欠かせないと判断して、翌26日、池下議員の地元事務所がある大阪府高槻市に記者2人を派遣した。しかし、池下議員らと直接会うことができず、電話で取材を行った。いずれも「公設秘書としての勤務実態はあり、不正受給はない」と疑惑を否定し、捜査機関からの捜査は受けていないと説明した。

 キャップは、捜査機関が任意の事情聴取を行う前に、強制捜査に入る事例を取材した経験があることから、池下議員らが捜査を否定していても不思議ではないと考えた。

 また、26日夜、記事掲載に向けて複数の記者が最終的な取材を進めていたところ、複数の関係者から「誤報になるかもしれない」との情報も伝えられた。

 キャップと司法担当デスクはこの報告を受けたが、池下議員への捜査を肯定する取材結果の方が勝ると考え、記事掲載を止める判断に至らなかった。

 これらのマイナス情報は社会部長には伝わっていたが、当日の編集責任者だった編集局当番デスクには知らされていなかった。

過去の教訓生かされず

 読売新聞は、2012年に「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」を巡る誤報を出したため、再発防止を図ってきた。しかし、今回、その反省と教訓が生かされなかった。

 iPS細胞の誤報は、同年10月11日の朝刊1面で「iPS細胞から心筋細胞を作り、心不全患者に移植した」と報じたもので、移植に関与したという日本人研究者の虚偽の説明を、十分に検証しないで記事にした。読売新聞はこの記事を含む6本の記事を誤報だったと認定した。

 「ハーバード大客員講師」という肩書や、米国で行ったとされる病院の手術記録、論文の共同執筆者への取材など、基本的な事実確認の取材をすれば、虚偽と判明したはずだったが、これを怠った。デスクも「記者が裏付け取材を行っているはずだ」と、事実の確認や指示を怠った。

 読売新聞は、この反省を踏まえ、〈1〉事実取材の徹底〈2〉部内のチェック体制強化〈3〉広い視野を持つ記者の養成――などを柱とした再発防止策を実施。これらをきっかけとして、編集局内には14年12月、誤報を防ぐため、独自取材について掲載前に内容を第三者的立場からチェックする「適正報道委員会」が設置された。

 しかし、今回の記事において、キャップや司法担当デスクは、チェックを受けていると特ダネを失ってしまうかもしれないと考え、同委員会に諮っていなかった。

 そもそも本件は、iPS細胞の報道と異なり、取材対象者から虚偽の説明を受けたわけではない。事実確認について取材を徹底し、チェック体制が機能していれば、誤報は防げたはずだった。

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 一連の取材経緯を見る限り、特定の取材源に頼り切り、十分な裏付けを取れないまま報じたとの印象を受ける。それが誤報という重大な結果を招いた。記者やキャップ、デスクらが「情報は正しい」という思い込みを抱えたまま、記事掲載に至ったことが強くうかがわれる。

 容疑名や捜査の日時も記事に必要だが、誰が捜査対象なのかが一番大事な要素だ。誤れば読者をミスリードし、当事者に多大な迷惑をかける。それにもかかわらず、ほかの関係者への取材で、池下議員が捜査対象であると確証を得た形跡はない。取材の仕方に首をひねらざるを得ない。

 非公式な関係者取材では、不明瞭なやり取りが発生するが、あやふやな回答や反応を、都合良く解釈していたとすれば、プロの記者としての厳しさを欠いていると言えよう。

 キャップは担当記者に対し、複数の関係者への取材を指示したが、どれだけ取材しても池下議員の名前が出てこなかった。その時点で疑問を抱き、慎重な確認取材をさせるべきだった。結果から見れば、不十分な指示だったことになる。

 どのような取材でも他社との競争はあるが、正確さを犠牲にすることはあってはならない。早く報じようとしていたことは、誤報の言い訳にはならない。

 過去の誤報や失敗を受けて丁寧な取材を心がけようと掲げた機運が、時とともに低下してしまっているとすれば残念だ。再発防止には、今回の教訓の記憶をとどめるための資料や仕組みを設けることが必要だろう。

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