ドイツ外相「日本と共に取り組む道を模索することが求められる」…読売新聞書面インタビュー全文
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【ベルリン=工藤彩香】就任後初めて18日に日本を訪問するドイツのヨハン・ワーデフール外相が、読売新聞の単独書面インタビューに応じた。インタビュー全文は以下の通り。
「日本は価値と利益を共有するパートナー」
――外相就任後、初めてアジアを訪問する。日本はドイツのパートナーとしてどのような役割を果たしているのか。
外相就任後の初のアジア訪問で日本を訪れるのは、私にとって大変重要なことだ。両国は価値と利益を共有する緊密なパートナーだからだ。
我々は、国連や先進7か国(G7)において国際法の強化やグローバルな問題の解決に共に取り組んでいる。公正な世界貿易、インド太平洋地域における緊張の低減、ロシアによる侵略戦争に抵抗するウクライナへの支援に関する共通の取り組みなど、全体に関わる大きな課題も多く、こうした重要課題について、両国は非常に近い立場にある。日本はドイツにとって非常に特別なパートナーだ。独新政権として、我々は日本との戦略関係を強化、拡大したいと考えている。
私自身、日本の国や人々、文化に魅了された多くのドイツ人と同様、日本とは個人的な友情で結ばれている。
――訪日の目的や重要なテーマは何か。
日独共通の検討課題には様々な優先テーマがある。両国には、経済力、米国との関係の近さ、強い経済的繋がり、いくつかの分野における体制間競争を特徴とする中国との関係、さらには歴史的背景による国際的軍事活動への慎重姿勢といった共通項がある。こうした共通点があるからこそ、両国は、そこから派生する課題に共に取り組む道を模索するべく求められている。
具体的には、両国は安全保障面でより大きな責任を引き受けることを目指している。したがって、私はこの点に関する日本との対話を、日本と欧州連合(EU)の「安全保障・防衛パートナーシップ」と同様、特に重視している。
我々は経済面でも、競争の
今回の訪日では、大阪・関西万博の訪問も楽しみにしている。「未来社会のショーケース」として、革新的技術と協力を通じ、社会の
中国のレアアース輸出管理は日独企業に影響
――対中関係も日独両国に共通する課題だ。ドイツの経済安全保障について、日本はどのような点で模範となりうるか。
経済安全保障というテーマに大きな焦点を当てて取り組んでいる日本政府は、グローバルな先駆者だ。この点については6月末、長年の友人である城内経済安全保障相とベルリンで意見交換をした。経済安保の問題は、中国だけを焦点とするものではないが、中国とは非常に大きな関わりがある。気候変動など地球規模の課題の克服において、ドイツは今後も中国と協力したいと考えており、実際そうなるだろう。
同時に、対中関係においては、体制間競争の側面が拡大しつつある。最近の中国によるレアアース(希土類)の輸出管理問題は、日独両国の企業に影響を与えるものであり、サプライチェーン(供給網)や重要インフラ(社会基盤)の保護において強靭性を一層強化しなければならないということを改めて浮き彫りにした。
日本は非常に早い段階からこうした経験をし、対策を講じてきた。訪日中はこれについても日本から学びたいと思っている。もちろん、資源や半導体、人工知能(AI)などの先端技術に関する協力強化も狙いの一つだ。(軍事・非軍事の手法を組み合わせた)「ハイブリッド攻撃」の脅威に関しても、一致してより強固な態勢を確立することを目指す。
――トランプ米政権の関税政策に直面する中、経済安保は米国からの自立と捉えるべきか。日独両国は、米国抜きの多国間貿易秩序を目標とするのか。
明らかに、米国は我が国にとって欧州以外で最重要の同盟国であり、貿易相手国だ。我々のサプライチェーンは、世界の他のどの国よりも米国と密接に繋がっている。米国とは、世界で最も包括的な貿易関係を築いている。経済安保は、我々にとって特定の国の排除を目的とするものではない。中国との関連で指摘した通りだ。我々が目指しているのは、基幹的分野における自らの対外依存を見極め、低減することであり、そのために日本などとのパートナーシップが重要なのだ。
米国の関税政策が独企業の大きな懸念材料となっているのは秘密でも何でもない。一方、現状を踏まえ、独企業が他地域にアンテナを伸ばし、グローバルな多角化を進め、独政府がこれを外交面で側面支援する動きが生まれている。世界貿易機関(WTO)のルールはそのための必要な基盤だ。途上国にも恩恵をもたらすルールに基づく貿易体制の改革・強化も、我々の目標であり、日本など意を同じくするパートナー各国と共に取り組んでいく。
台湾海峡の緊張は全ての国が影響受ける
――ドイツは日本とインド太平洋地域における安保協力を強化してきた。台湾海峡問題など同地域でのドイツの役割をどう考えるか。
欧州とインド太平洋の自由、安全、繁栄は密接に絡み合っている。ロシアの戦争遂行能力に対する中国の支援にもそれが表れている。中国による支援や、侵略者であるロシア側でウクライナの前線に立つ北朝鮮兵士の存在がなければ、ウクライナ侵略は現在のような形では遂行できなかっただろう。
同じことがアジアの潜在的な紛争地域についても言える。台湾海峡における緊張の高まりは、いかなる場合であれ、世界の安全と経済に甚大な影響を及ぼし、ほぼ全ての国がそのあおりを受けることになるだろう。皆がこれを認識することが重要だ。台湾海峡にも国連憲章の「武力行使の禁止」が適用される。我々はここ数年、ドイツや欧州にとってのインド太平洋地域の戦略的な重要性について、政治や社会の意識を高めるよう取り組み、成果を上げてきた。
日本との安保協力はその中心的なものだ。2021年以降、ドイツの海・空軍はインド太平洋方面派遣の一環として、日本や他の多くの国々を訪問している。数日前、独陸軍がオーストラリアでの多国間演習から帰国したが、来年もこの地域に派遣される予定だ。
我々が特に重視するのは、インド太平洋地域のパートナー各国との防衛分野の協力を深めることだ。北大西洋条約機構(NATO)は欧州と大西洋の安全保障同盟であり、それはこれからも変わらない。しかし我々は、NATOと、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの「インド太平洋パートナー」(IP4)4か国との緊密な連携を高く評価している。我々が安保上の多くの共通課題に直面しているからにほかならない。
――日独両国は国際秩序や民主主義をいかに守るべきか。
ドイツは信頼できるグローバルなパートナーシップを求めており、それは国際的な不確実性が生じていることへの答えでもある。なかでも日本は非常に特別なパートナーだ。両国は新たな協力の推進力ともなりえる。例えば、ドイツ、フランス、ポーランドによる「ワイマール三角連合」に英国を加えた4か国として、日韓豪NZの「IP4」と緊密に協力したいと考えている。これが実現すれば、相当な重みをもつ力強い枠組みとなるだろう。
――ウクライナの敗北を回避するため、日本のどのような貢献を期待するか。
ウクライナはドイツと同様、日本からも大規模で幅広い支援を受けている。これについて、私は日本に大変感謝している。こうした支援はこれからも必要不可欠だ。というのも、ロシアが真剣な動きを見せなければ、我々欧州はロシアに対して強い圧力をかけ続けなければならないからだ。ここで日本の協力を期待できるか否かは決定的な意味を持つ。
米国のトランプ大統領がロシアによる残酷な侵略戦争を終わらせることを目標として掲げたことは重要だ。しかし最終的には、公正で永続的な和平が実現されなければならない。そのためには、ウクライナのゼレンスキー大統領も交渉のテーブルに着く必要がある。
米露首脳会談でプーチン氏は「力の言語」を話すことを見せつけた
――15日の米露首脳会談をどう受け止めているか。
トランプ氏がウクライナでの犠牲を終わらせることについて、そしてウクライナにとっての公正な和平に到達する道について協議すべく、プーチン(露大統領)に提起した会談だった。
だが、これに対するプーチンの対応は、彼が「力の言語」を話す人間であることを改めて見せつけるものだった。トランプ氏との会談の間にも、ウクライナの都市にミサイル攻撃が行われていた。
もちろん、我々は皆平和を求めている。しかし、公正な和平とは、ウクライナの安全が長期的に確保され、欧州の安全保障上の利益が守られる和平だ。だからウクライナには明確な安全の保証が必要なのだ。これが実現して初めて、プーチンが今いる場所から今行っていることを、そのまま数年後に続行する危険を防ぐことができる。この安全の保証の確立に向け、我々は米国と共に取り組んでいく。
――中東情勢も国際社会の大きな課題だ。パレスチナ自治区ガザの人道危機に対し、日独共通の外交的な働きかけの選択肢はあるか。
私はつい2週間前にイスラエルとパレスチナ自治区を訪問したところで、双方と緊密なやり取りを続けている。ドイツは引き続きイスラエルに寄り添っていく。同時に、ガザの人道状況は極めて危機的であり、現地の人々の支援が急務だ。
ドイツはかねて、人々の困窮を少しでも和らげるために人道支援を行っており、最近では物資の空中投下を実施した。今こそ、この戦争を終わらせる時だ。そのためには何よりもまず、人質解放と迅速な停戦の実現が必要だ。
日独両国は、中東情勢についても緊密に連携している。人道支援、迅速な停戦に向けた明確な要求、国際法の順守、そしてイスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」に向けた歩みで、両国は立場を共有している。共に行動することが我々の立場を強くする。
――オーストラリアの新型艦を巡る受注競争のように、日独両国は防衛産業では競合相手だ。協力に向けた新たなステップは。
日独両国の企業は防衛装備分野で世界のトップクラスにあり、それ自体は歓迎すべきことだ。だからといって両国が単に競合相手のみの関係かというと、私はそうは見ていない。
両国は防衛装備分野でも協力を強化したいと考えており、日本側の姿勢もより前向きになってきているように見受けられる。日EU安全保障・防衛パートナーシップの枠組みでも、防衛装備関連の分野で協力の可能性が広がっている。政府間の日々の協力においてもこの分野の強化が図られており、例えば在日ドイツ大使館では1年前、防衛装備担当官のポストが新たに設けられた。
――日本では7月の参議院選挙で、反移民を掲げ、政策と手法の両面でドイツの強硬右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に近い参政党が躍進した。与党など従来の主要政党は社会の分断を防ぐためにどうしたらよいか。
右派ポピュリズム政党によく見られる共通点がある。それは、不安を煽る一方、人々が抱える問題への真の解決策を提示しないという点だ。こうした政党は、政治が自分たちの方を向いてくれないと人々が感じるような環境で台頭することが多い。
したがって解決策は、民主主義政党による政治的、社会的問題の克服にある。そのためには、もっと耳を傾け、よい政策をもっと上手く伝えていくことが重要だ。人々にとって重要な問題は何なのか。我々はそのことを常に自問し、具体的に取り上げていかなければならない。